マンスリーレビュー

2019年2月号トピックス1デジタルトランスフォーメーション

世界が注目するブレインテックの可能性

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2019.2.1

コンサルティング部門 社会ICTイノベーション本部土橋 由実

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 世界各国の政府や企業がブレインテックに着目し、研究・事業化を推進。
  • 将来的には、人間の機能拡張により生産性が飛躍的に向上する可能性。
  • 幅広い産業分野での応用を視野に、ユーザーニーズ起点のサービスを。  
欧米やイスラエルをはじめ世界各国は国家戦略として脳科学に多額の投資を行い、研究推進に取り組んでいる。中でも脳の情報を直接的、間接的に読み取ったり、脳に変化を与えたりする「ブレインテック」と呼ばれる領域の研究・事業化が活発化している。

例えば「Brain-Machine Interface」。脳の情報から意図を読み取って、車いすや義手などの機器を操作したり、文字を選択することでキーボードや音声による入力に代わる新たなコミュニケーションインターフェースを実現する。また、脳の状態をリアルタイムに可視化することにより目指す状態に自らを変化させる「ニューロフィードバック」は、うつ病やADHD(注意欠陥・多動性障害)、認知症などに効果があるとして注目されている。これらの技術が将来普及すれば、自分の能力を最大限に発揮し最適な精神状態へコントロールすることも可能になる。

さらに、ブレインテックでは人間の機能「拡張」が実現可能である。人間が本来持っていない「3本目の腕」もトレーニングによって動かせるようになるとの研究結果も出ている。ロボットスーツが人間の機能の「増強」を可能とするのに対し、人間の機能「拡張」は飛躍的な生産性の向上をもたらす可能性を秘めている。高齢者や障害者の社会参加をさらに促進するだろう。

2019年1月に開催されたCES2019※1では、ブレインテックの活用先として、睡眠サポート技術である「SleepTech」と「精神状態・感情のコントロール」に着目した展示が目立った。SleepTechの展示数は前年比20%増加※2。注目度の高さがうかがえる。しかし、現状では限定的な普及にとどまるとする評価もある。理由は、人間の根幹を成す「脳」が測定対象であることに、消費者の心理的な抵抗感がぬぐえないからだ。こうした懸念に対して、国は脳情報の扱いを明確化し、倫理・安全面の問題に対するルールも整備する必要がある。さらに事業者は技術起点ではなく、利用者のニーズ起点でサービスを検討することも求められる。幅広い分野の産業連携によって、人生100年時代どころか、200年、300年分もの快適かつ濃縮された人生がもたらされるかもしれない。

※1:近年、毎年1月に米国ラスベガスで開催されている家電見本市。2018年に開催されたCES2018では、日産自動車が脳波測定による運転支援技術を発表するなど、スタートアップだけでなく、大手企業もその可能性に注目し始めた。

※2:CES2019のカンファレンス「Living in Digital Times」のメディア向け資料より。

[図]CES2019に見るブレインテック