マンスリーレビュー

2020年4月号トピックス1ヘルスケア・ウェルネス科学・安全

新型コロナ対策に不可欠なリスクコミュニケーション

同じ月のマンスリーレビュー

タグから探す

2020.4.1

ヘルスケア・ウェルネス事業本部平川 幸子

ヘルスケア・ウェルネス

POINT

  • 新型コロナウイルスのパンデミックにより社会不安が増大。
  • 専門家と行政による「ワンチーム」としての一貫した情報発信が有効。
  • 今後は「ワンボイス」化に向けた体制整備を。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界各地で猛威を振るい、人々の安全・安心を脅かしている。このような状況では、ワクチンや治療薬開発など根本的な感染症対策はもとより、社会不安をいかに緩和できるかが鍵となる。しかし、国内の感染が広まる中、一部の報道やインターネットでは、未知のウイルスの恐怖やマスク不足など、不安を強調した情報が発信され、社会不安があおられてしまった。

一貫したメッセージの重要性

国内の報道を振り返ると、2020年2月中旬までは行政官(担当課長など)が記者会見を行っていた。リスクコミュニケーションの専門家ではないため、メディアや社会に対する訴求が十分でなかったことは否めない。2月25日の政府対策本部による「基本方針」は、前日に開催された専門家会議の「基本方針の具体化に向けた見解」を受け、専門家と行政が連携した科学的知見に基づく一貫したメッセージとして発表され、社会にも訴求できる内容となった。

一方で、27日に発表された全国一斉の学校休業要請については、発出後に専門家会議のメンバーが「専門家会議では議論していない」と発言するなど一貫性を欠いており、人々に不安を与える一因にもなった。今回のようなパンデミック(世界的大流行)発生時には、行政に高いリスクコミュニケーション力が求められ、一貫したメッセージを伝えることが肝心だ。

世界保健機関(WHO)は定期的に各国の感染症対策体制を評価しており、日本は緊急時のリスクコミュニケーションの低さが指摘されている(JEE,2018年3月)。主な指摘は、政府に一貫したリスクコミュニケーション戦略がない、国・地方自治体の組織間連携やステークホルダー間の連携が不足、世論の情勢を踏まえた適切なキーメッセージが構築されていない、リスクコミュニケーションの専門家が不足している※1などである。

「ワンボイス」化への体制整備を

危機時のコミュニケーションは「ワンボイス(スポークスパーソンは1人)」が鉄則である。例えばシンガポールでは、政府の一貫した戦略に基づき、平時からリスクコミュニケーションの専門家が配置されている※2。米国では疾病予防管理センター(CDC)がリスクコミュニケーターの教育プログラムを提供し、専門家の育成を推進している。主な情報発信は常に専門家であるリスクコミュニケーターがスポークスパーソンとして、一貫したメッセージを伝えている。

一方、日本では行政の定員が削減される中、リスクコミュニケーターの定常的な配置が難しい現状にある。足元の現実的な解決策としては関係各所が「ワンチーム(行政+専門家が一体となる)」で発信することが有効であろう。

リスクコミュニケーションの専門家の配置が世界標準として求められている。今後は「ワンボイス」化に向けた体制整備に着手する必要がある。国民の不安を最小限にする科学的根拠に基づいたリスクコミュニケーションにより、この困難を乗り越えたい。

※1:「リスクコミュニケーションの専門家が不足している」という点は、2009年の新型インフルエンザH1N1発生時にも指摘されていたが、その後も有効な対策が取られていない。

※2:シンガポールでは今回のCOVID-19に対して、スポークスパーソンとして、行政のリスクコミュニケーター(専門家)に加えてSARSも経験した専門家1人の2人で対応をしている。

バックナンバー