マンスリーレビュー

2023年7月号トピックス1スマートシティ・モビリティ情報通信

「ABT方式」を起点に地域インフラを整備

2023.7.1

地域イノベーション本部外山 友里絵

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 地域の公共交通維持に、決済の「クラウド化」が貢献できる可能性。
  • クラウド活用を機に地域全体の決済プラットフォームにもなる。
  • 実現には域内の交通手段間で移動データを共有する仕組みが不可欠。

クラウド型の交通系決済への期待

人口減少で地域公共交通サービスの経営環境はますます厳しくなっている。住民の足であり命綱でもあるこうしたサービスの維持に向け、情報通信技術(ICT)が果たす役割への期待は高い。

ICTサービスがクラウド型へ移行する流れの中、交通系においても、改札機などではなく無線通信で接続されたクラウドサーバーで運賃計算を一括して行うAccount Based Ticketing(ABT)方式が、課題解決の一端を担う可能性がある。

移動実態の把握で地域経済に貢献も

ABTによって交通事業者は、他のサービスと組み合わせた魅力的な企画の開発、改札機や車載機器の簡素化によるシステム運用費削減、乗車に関するデータ把握などを期待できる。

ただしABTが真価を発揮するのは、鉄道やバス、タクシー、ライドシェア、バイクシェアなど多様な交通事業者が連携したときである。地域交通サービスの維持には、ステークホルダー間で交通手段の補完関係を把握し、公共交通ネットワークを地域全体で再設計するための議論が必要だ。しかし現状では、交通手段をまたいだ移動実態を地域内でタイムリーに把握する手だてがない。

そこで、ABTをさまざまな交通事業者が導入し連携すれば、利用者の移動実態の把握が可能となる。この取り組みは、地域として公共交通全体をネットワークとして捉え、持続可能なサービスを目指す、昨今の国土交通省の政策方針とも親和性が高い。さらに、商業施設など交通以外の事業者や行政とのデータ基盤共有が実現できれば、移動実態の把握だけでなく、目的地や経由地での消費行動データ分析も可能になり、地域経済発展にも寄与できる。

ただし個人データについては、匿名性の確保を大前提に、適切な管理を徹底する必要がある。

プラットフォーム化で重要な地域インフラに

こうしたデータ基盤共有は、交通事業者だけでは実現が難しい。ABT導入には、事業者が維持管理しやすく、業務改善とも連動するシステムを構築できるなどの利点がある。だが、システムの要件定義やベンダーの選定、移行作業などにかかる負担を、1社単独で背負うのは容易ではない。

そこで解決策として、ABTの基盤は協調領域としてプラットフォーム化させ、地域間や事業者間で共同保有するような仕組みを作れないだろうか。

プラットフォームの担い手は、交通事業者でも、1社単独である必要もない。官民のどちらか、という制約もなく、立ち上げ時のメンバーが固定される必要もない。担い手は産業構造や交通事業者の特性によって異なり、地域の成長や変化に応じて代わるべきである。このため、各地域のグランドデザインに即して、具体的な体制作りや、ユースケース拡充を有機的に考えていく必要がある。

ABTを起点とする移動データ基盤が、消費行動の情報が集約されるプラットフォームへと発展すれば、地域の重要なデジタルインフラとなる。