マンスリーレビュー

2023年7月号トピックス2テクノロジー人材

万博から始まる海のSTEAM教育

2023.7.1

フロンティア・テクノロジー本部武藤 正紀

テクノロジー

POINT

  • 大阪・関西万博は「海の魅力」を発信する好機。
  • 海のSTEAM教育は問題発見・解決能力の向上につながる。
  • 産官学の連携によって人材育成の仕組み構築を。

「いのち輝く未来社会」と海

2025年の大阪・関西万博まで2年を切った。会場が人工島であることから、水素を燃料とする客船の就航や、大阪湾内の海藻によるCO2吸収などが注目されている。四方を海に囲まれた日本としては、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を描いていく必要があろう。

日本は漁業や海運などを通じ、海から多大な恩恵を得ている。一方でプラスチックの海洋流出による環境汚染や気候変動による海面上昇などの課題も抱えている。生活に不可分な海を含めた未来社会の姿を、将来を担う子どもたちと共にデザインすることが重要である。

大人になってしまう前に

日本人の海への関心は近年、低下している。日本財団の調査によると「海に親しみを感じる」層は4割を切り、特に10代から大人になるにつれて、海への関心が失われる傾向が確認されている※1。成人後に親しみが薄れてしまうのに先立ち、子どものうちに海への関心を持てるような教育を行うことが重要であるといえよう。

その手段として、「STEAM教育」に注目したい。いまだ確定した定義はないが、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を組み合わせる「STEM教育」に、芸術的表現や問題発見・解決のための「デザイン思考」などの意味を込めた「Arts」の要素を加えた、統合的かつ創造的な教育概念である。

感性に重きを置くSTEAM教育には、課題解決を創造的に行う能力が身に付く効果があるとされている。実際に当社が水産高校を対象に実施した、海洋ごみを用いてアート作品を制作する実践事例では、生徒が実際に手を触れ、協力して芸術性を持たせる実体験によって海洋ごみ問題への関心を高め、自分事として捉える効果を確認している。

社会全体で海のSTEAM教育を

海に関する課題に直面しているのは企業や国・自治体であり、その課題解決のための技術を持っているのは大学や研究機関である。そこで、海を題材として産官学が連携し、社会全体で子どもにSTEAM教育を行う仕組みを確立させたい。

子ども向けの海洋教育は現状、イベント的な体験学習にとどまりがちである。企業や大学が自主的に出張授業などを行っている例もあるが、関係者への負荷が大きく、長続きしにくいのが実情だ。

そこで、海のSTEAM教育について、標準的な教材を学校に提供するほか、大学や企業の活動として位置付けて、この教育を受けた人材を入学や採用の対象にするような仕組みを作っていくことも必要だろう。

海は食という身近なものから気候変動などのグローバルなものに至るまで、幅広い社会課題を示してくれる。「海の万博」とも言うべき大阪・関西万博において、産官学連携による海のSTEAM教育を未来社会の課題解決を実現するモデルとして位置付け、国内外に発信していきたい。

※1:日本財団「海と日本人に関する意識調査」。発表資料によると、2022年6月にインターネット定量調査として実施し、有効回答数は1万1,600件。対象年齢は15〜69歳で、「10代」は15〜19歳を指す。