マンスリーレビュー

2023年7月号特集3情報通信海外戦略・事業

海外とのデータ流通を支えるインフラ強化戦略

2023.7.1

English version: 7 September 2023

デジタル・イノベーション本部今村 圭

情報通信

POINT

  • 日本は米国とアジア間のデータ流通の「ハブ」となっている。
  • アジアにおける新たなデータセンターの立地国が求められている。
  • データセンターの誘致では、エネルギー環境と地方分散が鍵。

日本はアジアの海底ケーブル接続の要所

日本と海外との通信トラフィックの99%以上を担う海底ケーブルは、今や経済安全保障上の重要な社会インフラとなっている。

日本と接続している海底ケーブルは現在20本以上で、おおむね米国と日本との接続、および日本を含むアジア各国間の接続向けである※1。後者は香港およびシンガポールと接続し、さらにマラッカ海峡を通って中央アジア・中東方面などに接続。香港やシンガポールなどと並ぶデータ流通の「ハブ※2」として日本は存在感を放っている(図)。
[図] 日本周辺の主な海底ケーブルの敷設ルート
[図] 日本周辺の主な海底ケーブルの敷設ルート
出所:米TeleGeography"Submarine Cable Map"より三菱総合研究所作成

GoogleやMetaが海底ケーブルを敷設

2019年に世界の海底ケーブルを流れたデータトラフィックの内、大量のデータセンター(DC)を擁するGoogleやMetaなどのメガクラウド事業者・コンテンツ事業者の利用量が64%を占めており※3、日米間のトラフィックも同様の傾向にあると推測される。近年Googleなどが通信事業者とは別に自ら海底ケーブルを敷設し始めているのは、こうした事情に起因する。

アジア域内の海底ケーブルの多くは中国(主に香港)でも陸揚げされていることから、中国企業が敷設に参画する頻度も高まっている。

経済安全保障の観点からは、可能な限り国内企業または友好国の企業のみで海底ケーブルを敷設した上で、複数ルート化により冗長性を高めることが望ましい。最適なルーティングに向けては、複数企業の協業体制をより戦略的に整える必要がある。北極海を経由して日本と北米・北欧を接続するプロジェクトも動き始めているが、これも複数ルート化の一つの事例といえよう。

データセンターと海底ケーブルの深い関係

GoogleやMetaが自ら海底ケーブル敷設に乗り出した事実は、データやサービスの需要地に海底ケーブルを一体的に整備するメリットが大きいことを示唆している。さらに海底ケーブル陸揚げ地と、データを処理するDCそれぞれの拠点について同時に議論する意義も大きい。例えば日本は、陸揚げされた海底ケーブルのほとんどが東京と大阪のIX(インターネットエクスチェンジ)へ接続されている。このため、国内DCの80%以上が東京近郊および大阪近郊に集中している。

さらにDC運用には電力問題が付いて回る。例えばシンガポールはアジアの代表的なDC集積地だが、電力供給などの問題によりDCの新規立地を制限し始めている。そのほかにも、海底ケーブル以外の通信インフラ、電力コスト、再生可能エネルギー、自然災害リスク、政治的安定性などDCの立地に影響する要素は多い。

香港もDCの集積地だが、中国に返還されて事業環境が変化した。新たな受け皿が模索される中で、日本、台湾、インドネシアなどが主な候補と考えられるが、現状では一長一短がある。日本はデータ流通のハブとなっていることを活かしつつ、より優位性を高めるために、利用者も含む各ステークホルダーが連携して、次の2つの課題を戦略的に解決する必要がある。

エネルギー環境の確保は優先的課題

シンガポールの事例を見ても分かるとおり、エネルギー環境とDC集積地との関係性は深い。世界的な潮流として、エネルギーコストの安い国・地域にDCが多数建設される傾向が強まっていることも理解いただけるだろう。

すでに重要な社会的要請である再エネ活用の状況もまたDC立地を決定づける。高騰する化石燃料への対応策の意味合いもある。日本にとっては、海外と比較して電力コストが高いこと、DCに必要な大容量の再エネを供給できる事業者が限定的であることは大きな課題である。

DCの地方分散が自然災害のリスクを低減

自然災害リスクの面から、日本はまちがいなく地震大国である。とりわけ首都直下地震、南海トラフ地震といったM7クラス以上の地震への備えは怠ることができない。しかし現状ではDCの多くが東京と大阪の都市部に集約されている。DCの地方分散を通して「都市と地方の相互バックアップ」の必要性に迫られているといえる。

地方分散はエネルギー環境面でも利点が大きい※4。都市部のDCでは利用が難しい再エネも、地方であれば活用の可能性が広がる。現状では地方に十分なDC需要がないため採算が取れない場合も多いが、生成AIの普及などによる情報爆発を考慮すると、将来、地方にもDC立地のニーズが生まれてくるものと考えられる。

※1:米TeleGeography"Submarine Cable Map"

※2:通信ネットワークにおける「集約」および「拡散」を担う大規模経由地の意味。

※3:米TeleGeography"The State of the Network 2021 edition "

※4:MRIマンスリーレビュー2022年9月号「『健全な情報爆発』を育む分散型ICT基盤」