コラム

環境・エネルギートピックスエネルギー

初回オークションが示した容量市場の制度設計見直しに関する考察

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2020.11.4

経営イノベーション本部上田啓司

長谷川功

環境・エネルギートピックス
2020年9月14日に電力広域的運営推進機関(OCCTO)より、将来の電力の供給力を取引する容量市場の第1回メインオークション(2024年度向け)の結果が公表された。約定価格は14,137円/kWと入札の上限値であり、Net CONE※1といわれる指標価格9,425円/kWを上回った。これにより発電事業者との相対契約をもたない一部の小売電気事業者は容量拠出金の支払いが必要となって負担が増える可能性がある。この約定価格の結果に関してさまざまな記事が書かれている※2。当社でも容量市場導入による効果に関する試算を過去にも行ってきており、当該結果に関する論点を整理した。

1.容量市場の約定価格は「容量市場で確保すべき供給力」の不足という市場からのシグナル

9月17日に開催された「第42回 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会」※3、10月13日に開催された「第43回 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会」※4では初回のオークション結果について詳細な分析がされている。それによると、市場ルールにのっとり入札が行われ、不当な入札行為は認められていないとされている。今回の約定価格から得られる結果を、市場参加者は真摯(しんし)に受け止める必要がある。

まず、入札価格面について、第42回会合では、来年度以降の検討すべき事項として①経過措置および逆数入札※5の在り方、②維持管理コストの計算方法※6、が挙げられている。特に①については、第43回会合において追加の分析が行われており、逆数入札および経過措置が無かった場合の約定価格は10,488円/kWとNet CONEに近い水準であったとシミュレーションしている。逆数入札の在り方については今後さらに検討が必要であると考えられるものの、逆数入札を除いた場合の値付けに対しては一定の妥当性があると評価できる。

一方、入札量については、事前に登録された期待容量が約192GWであったのに対して実際の応札量が172GWと20GW少なかった。この影響は大きいと考える。この点につき、監視委調査では売り惜しみの観点から問題となる事例は無かったことを確認している。初回入札ということもあり、市場参加者の慎重な応札の結果であろう。

もっとも、日本の容量市場は制度設計、そして事業者の入札行動の両面において、供給計画の考え方が出発点にある。容量市場にコミットした電源は未履行時のペナルティーを受けることを併せ考えると、今後も容量市場への応札は供給計画への計上を下回るものになると想定される。最新の供給計画において計上されている供給力は2024年断面の沖縄を除く9社エリア計で181GWであることを考えると、今回の結果は、現行制度のもとでは、容量市場の入札量自体が構造的に不足していることを示していると理解するのが妥当ではないだろうか。

このように理解するならば、初回入札は極端な結果であったとしても、次年度以降も今回と同水準の容量市場価格になると想定した方がよいだろう。

2.容量市場の本来の目的は新規電源・新技術の導入促進

容量市場では、電力の価値の一つである供給力(kW価値)を提供できる電源・リソースに対して対価が支払われるものである。電気事業法上、小売電気事業者には供給能力確保義務が課せられており、電力を供給している需要家に対して電力を供給することに加えて電源との相対契約等を通じて供給力を確保する必要がある。

供給力が不足している状態は需要が高騰した際の安定供給に支障を来す可能性があるといえ、逆にこの結果は新しく電源・リソースへ投資するインセンティブにつながると考えられる。

諸外国でも容量市場を含めた容量メカニズムにより新規電源投資を促すことを指向していながらも、公平性の観点から新規電源と既存電源を区別せず、結果的に非効率な既存電源を延命させてしまっているケースがあるという意見がある。ドイツのように戦略的予備力という同じ容量メカニズムを活用しながらも、確保する予備力を小さくし、いざというときに石炭火力を活用しながら石炭火力自体のフェードアウトも行っている国も存在する。

制度設計の根源に立ち戻って考えると、容量市場は供給・需要側の両方において必要な設備投資を促すものであり、供給力不足を示す今回の結果を踏まえ、新規電源の形成や分散型エネルギーリソース(DER)の活用等への投資をより促進する方向に働くと考えられる。容量市場で安定的な値付けがされることで、新規電源・DERへ投資するプレーヤーが増え、既存電源からの世代交代も促されると期待できる。

3.需要ありきの電力供給から転換し、「需要力」を活用する社会に

これまでは電力需要を前提とし、そこに供給できる電源を調整するという考え方であったが、再生可能エネルギーの導入拡大や技術革新を通じ、大幅なパラダイムシフトが起こっている。需要ありきの電力供給でなく、需要側のコントロールも含めた電力需給の在り方にシフトしていくことが指向されている。

kW価値をもつ大規模な電源へのアクセスが難しい新電力は、負荷率の低い需要家を中心にこれまでは営業活動を続けてきていたと考えられるが、今後はその営業戦略にも影響が出ると考える。小売電気事業者はこれまで以上に容量拠出金の支払いを削減させたいとの意図から、需要家のピークを削減するインセンティブが働く。負荷率の高い、kW価値を有効活用している需要家へのニーズが高まるのではないか。電源・リソースの「供給力」の対になる概念としての需要家がもつ「需要力」をコントロールすることで、自らの事業を持続可能とし、社会コストの削減にもつながると考えられる。

また、需要力のコントロールに向けては小売電気事業者のみならずアグリゲーター※7の活躍も期待される。アグリゲーターはこれまで需要側リソースを束ねるDR事業者※8の色が強かったが、今後はFIP※9への移行等により再生可能エネルギーや系統につながる蓄電池等もアグリゲーション事業の対象になりえる。容量市場によりkW価値を提供するDERの導入拡大も期待できる上、アグリゲーターにとっても容量市場からの収益は事業を支える安定的な収益源になると考えられる。

需要と供給を分けて考えるのではなく、電力システムにつながるあらゆる電源・リソースの組み合わせによるフレキシビリティの提供等の新しいビジネスモデルの萌芽(ほうが)にも期待したい。

4.調達水準の見直しも含め、再び総合的な制度設計を

次年度以降の容量市場の制度設計に向けては前述の第43回 制度検討作業部会の分析結果の通り、逆数入札を除いたところで大きな約定価格水準の低下は見込めず、容量市場の供給曲線上の「量」に関する状況も変わらない。供給曲線のみならず、需要曲線についても適切な設定がなされているか、検証が必要だろう。加えて、今後、非効率な石炭火力のフェードアウトに向けた検討が進められる。今回入札された石炭火力(約41GW)のうち、どの程度が2030年に向けてフェードアウトの対象となり、それらは容量市場上、どのように位置づけられるのか。今後、期待される原子力の再稼働の見通しも勘案しつつ、容量市場において調達すべき供給力の水準について再度、総合的な制度設計の見直しが求められることは必至と考える。

例えば、以下の二つの方法を提案したい。一つは追加オークションでの調達枠の設定である。実際の需給断面での供給力不足というよりも、容量市場特有の市場の仕組みから生まれた「容量市場で確保すべき供給力」の不足の解消に向けては、全量をメインオークションで募集するのではなく、追加オークションで一部を調達することを前提とした制度を指向してはどうかと考える。

DR等※10の容量市場への参画はメインオークションが行われる4年前では予見性が乏しく、実需給断面では提供できるはずのDR等の容量分は4年前では参入しにくいことが予測される。そのため、一定程度の追加オークションでの調達量を定めることとし、容量市場で確保できる供給力の確実性を高める必要がある。

二つ目の方法は、太陽光発電や風力発電の容量価値を見直すことである。太陽光発電や風力発電のような変動型再生可能エネルギーの容量価値は、直近での実績を活用した係数を基に設定されている。これらについて再エネの容量価値に関する諸外国の考え方などを参考に再度精査することで、「容量市場で確保すべき供給力」の不足は緩和できるのではないだろうか。

諸外国においても電力取引市場の制度設計は一筋縄ではいかず、試行錯誤を繰り返している。日本においても市場に参画する各プレーヤーや国内特有の事業環境などを見据えて適切に制度をブラッシュアップしていくことが望まれる。震災後10年の節目を迎えるタイミングをとらえて、エネルギー基本計画の見直しの議論もスタートしている。電力取引市場が、中長期的な目線であるべきエネルギーミックスを実現する一助となることを期待する。

※ 1:Net CONEとは電源新設の投資回収にあたり容量市場で正味に回収を必要とする金額で、「新規の電源建設の総コスト(Gross CONE)」から「容量市場以外の収益」を差し引いて求めたもの。

※ 2:例えば、U3Innovations 「Utility3.0の著者は容量市場第1回オークション結果をどう受け止めたか」
https://u3i.jp/blog/capacity1/ など(閲覧日:2020年10月30日)。

※ 3:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/042.html(閲覧日:2020年10月30日)

※ 4:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/043.html(閲覧日:2020年10月30日)

※ 5:経過措置とは、2010年度以前に建設された電源の容量確保契約金額に対して、一定の控除率(2024需給年度では42%)を設定して、支払額を減額するもの。逆数入札とは、経過措置が適用される既設電源が控除率の適用後も十分な容量収入を得られるように、本来の望ましい入札価格に控除率の逆数(2024需給年度の場合は1から0.42を引いた0.58)を乗じて入札を行うこと。

※ 6:「容量市場における入札ガイドライン」などで直ちに問題となるものではないが、2024年度まで電源を維持するため、2024年度以前に要する複数年度分の定期検査などの維持管理費用も含めて維持管理コストを計上している事例などがあったとされている。

※ 7:需要家側エネルギーリソースや分散型エネルギーリソースを統合制御し、VPPやDRからエネルギーサービスを提供する事業者のこと。

※ 8:ディマンドレスポンス事業者(DR事業者)は需要家の受電点以下に接続されているエネルギーリソースを制御して、電力需要パターンを制御して各種サービスを行う事業者のこと。

※ 9:Feed-in Premium制度。再エネ売電において、市場価格に一定のプレミアムを上乗せ交付する。電力会社が再エネ事業者の電力を固定価格で買い取るよう約束する「FIT(Feed-in Tariff)制度」の後継。

※10:実需給断面では供給できても、4年前の容量市場におけるオークションのタイミングで予見性をもって応札しにくい電源が一定程度存在していると考える。