2011年3月11日から10年、日本の原子力は漂流し続けている。東京電力福島第一原子力発電所の事故が国民に与えた衝撃は大きく、住んでいた地域に今なお戻れずに苦しんでいる方々が少なくない。また同時に事故は原子力への信頼を大きく失墜させた。
事故後、国内の原子力発電所は、世界一厳しいとされる新規制基準による適合性審査に合格したプラントしか再稼働が認められず、原子力による電力供給は急減した。図1に示すとおり、年間発電電力量に占める原子力発電の割合は、事故前の2010年は25%だったが、2014年にはゼロとなり、その後増加に転じたものの2018年で6%にとどまる。しかし、甚大な自然災害の発生による一時的な停電を除き、発電量の不足に伴う大規模な停電は国内では発生していない。原子力はなくても問題ないと考える風潮が生まれるのも当然であろう。
一方、政府が2020年12月末に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略※1」では、発電の過程で温室効果ガスを排出しない原子力を、「確立した脱炭素技術」とし、「可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り、引き続き最大限活用していく」と位置付けている。国民にとって、なんとも解釈が難しい表現である。
事故後、国内の原子力発電所は、世界一厳しいとされる新規制基準による適合性審査に合格したプラントしか再稼働が認められず、原子力による電力供給は急減した。図1に示すとおり、年間発電電力量に占める原子力発電の割合は、事故前の2010年は25%だったが、2014年にはゼロとなり、その後増加に転じたものの2018年で6%にとどまる。しかし、甚大な自然災害の発生による一時的な停電を除き、発電量の不足に伴う大規模な停電は国内では発生していない。原子力はなくても問題ないと考える風潮が生まれるのも当然であろう。
一方、政府が2020年12月末に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略※1」では、発電の過程で温室効果ガスを排出しない原子力を、「確立した脱炭素技術」とし、「可能な限り依存度を低減しつつも、安全性向上を図り、引き続き最大限活用していく」と位置付けている。国民にとって、なんとも解釈が難しい表現である。
図1 電源別発電電力量の推移
今の日本にとって、原子力発電はもはや不要なのだろうか。それとも安全であるならば使い続けるべきなのか。しばしばマスコミ報道などにおいて、インパクトある表現での推進・反対の意見を目にするが、多くの国民の本音はおそらくこうではないか。
「なんとなく怖いし、よくわからない。普段深く考えることもない。」
当社のアンケート調査結果(図2)によると、原子力利用に対して明確な価値判断をしない立場をとる層が一定割合存在し、若年層において相対的に高い傾向が読み取れる。半数近くの国民にとっては、原子力をどのように利用していくべきか、判断できかねる状態だといえる。その要因として、原子力に関する情報が国民に十分伝わっていない可能性がある。
「なんとなく怖いし、よくわからない。普段深く考えることもない。」
当社のアンケート調査結果(図2)によると、原子力利用に対して明確な価値判断をしない立場をとる層が一定割合存在し、若年層において相対的に高い傾向が読み取れる。半数近くの国民にとっては、原子力をどのように利用していくべきか、判断できかねる状態だといえる。その要因として、原子力に関する情報が国民に十分伝わっていない可能性がある。
図2 原子力発電の活用意向
また、当社のアンケート調査の別の結果(図3)においては、エネルギー・環境分野で重要かつ早急に解決すべき社会課題として、原子力に関連が深い選択肢が上位にランクされている。このことから、国民にとって、今後の原子力利用の在り方への判断は難しいが、原子力に関する課題への関心度は高いということが示唆される。
図3 エネルギー・環境分野で重要かつ早急に解決すべき社会問題
2021年はエネルギー基本計画見直しのタイミングである。21世紀半ばまでにカーボンニュートラルを目指す世界の潮流の中、日本でも政府審議会を中心に、2050年の実現に向けて議論が活発化してきている。目標実現に向けた意思決定に時間的余裕はなく、日本のエネルギー政策は重要な岐路にある。しかし、原子力の取り扱いはとりわけ難しく、なかなか軸足が定まらない。
原子力の位置付けが曖昧な状況が続けば、意思決定が遅れ、将来の足かせになる。仮に、カーボンニュートラルを実現するために日本が原子力発電の利用を継続するのであれば、運転期間の延長やリプレース、新設の是非の検討も始めなければならない※2。安全性と経済性を向上させた次世代原子力技術の開発の在り方も議論の俎上(そじょう)にのってくる。一方、期限を決めてフェードアウトしていくのであれば、原子力なきカーボンニュートラルをどのように達成するのか、明確な戦略策定が必要である。
昨今の環境・エネルギーを巡る動向は目まぐるしい。従来の価値観や時間軸のみに基づいて検討する姿勢では不十分である。それゆえ不確実性をはらむ。また、この課題は現世代のみならず長期にわたり後世にも影響が及ぶため、単に専門家に判断を委ねるのではなく、自分事として考えていくことが必要である。
そのためのポイントを以下に挙げる。
- 将来の原子力利用の在り方を、多くの国民が自ら考え判断するために必要な情報を、行政や関係者は適切かつ十分に提供していくべき
- 環境・エネルギー問題は、次世代を担う若年層ほど受ける影響が大きいことから、当該層が関心を持って環境・エネルギー政策の在り方を考える気運を醸成すべき
今後に向け、原子力に対してゼロかイチといった狭い議論から脱すべきだ。環境・エネルギーシステム全体の中での原子力の価値や役割が問い直されている。3.11からの10年目は、原子力の在り方を真正面から議論する契機として捉えたい。