武力攻撃を受けた際に、避難などにより国民の生命や身体、財産を保護する措置を国民保護措置※1という。その根拠となる国民保護法は、2003年の武力攻撃事態対処法の制定を受け、2004年6月14日に成立した。
国民保護措置は原則として、政府が事態の認定やその判断根拠、対処の方針や重要事項などを定めた対処基本方針の閣議決定を通じて、「武力攻撃事態等※2」や「緊急対処事態※3」(表1)の認定を前提としている。本コラムでは、主に「武力攻撃事態等」が認定された際の国民保護について取り上げる。
※1:国民保護法の中には、①警報の発令、避難の指示、避難住民の救援、消防等に関する措置、②施設及び設備の応急の復旧に関する措置、③保健衛生の確保及び社会秩序の維持に関する措置、④運送及び通信に関する措置、⑤国民の生活の安定に関する措置、⑥被害の復旧に関する措置の6つが規定されている。(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(通称:国民保護法)第2条第3項第1~6号)
※2:厳密には、国民保護措置はこの場合のみ。
※3:この場合は、「国民保護措置に準じた措置」と呼ばれる。
※4:武力攻撃事態等における避難とは、大規模、広域、長期にわたる「疎開」に等しいものとされている。
中林啓修「ウクライナ侵攻から考える国民保護の課題」SYNODOS、2023年2月24日
https://synodos.jp/opinion/
※5:武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(通称;事態対処法)第2条
※6:緊急対処事態の場合には、避難開始時期は災害発生後となる。火災や爆発等の発生当初は災害なのかテロなのかの区別が難しいため、災害対策基本法のスキームで対応することとなる。
※7:内閣府「新たな国家安全保障戦略などの策定に関する有識者との意見交換(議論の要旨)」2022年、p.30
※8:武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(通称:国民保護法)第3条第3項
※9:本課題は、防衛力の強化を検討する自民・公明両党の実務者協議や、日本戦略研究フォーラムの政策シミュレーションにおいても指摘されている
日本戦略研究フォーラム「第2回政策シミュレーション成果概要」2022年8月
https://www.jfss.gr.jp/
※10:個人・機関・集団間で,情報や意見のやり取りを通じてリスク情報とその見かたの共有をめざす活動
奈良由美子ほか「リスクコミュニケーションで皆が望む社会をめざす」医学書院、2021年4月19日
https://www.igaku-shoin.co.jp/
※11:2023年3月には沖縄県で初の武力攻撃事態を想定した図上訓練が実施され、関係機関の初動対応と連携が確認された。2026年にも沖縄県で緊急対処事態を想定した訓練が行われる予定であり、訓練の継続的実施が期待される。
NHK「“武力攻撃からの避難”初めて想定 沖縄県庁で図上訓練」2023年3月17日
https://www3.nhk.or.jp/
※12:この点は、日本戦略研究フォーラムの政策シミュレーションにおいても指摘されている。
日本戦略研究フォーラム「第2回政策シミュレーション成果概要」2022年8月
https://www.jfss.gr.jp/
※13:NHK「台湾有事を念頭 国民保護法の改正含め見直しを 自公実務者協議」2022年11月16日
https://www3.nhk.or.jp/
※14:日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態
※15:そのまま放置すれば日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態
※16:防衛白書では、「存立危機事態であって警報の発令、住民の避難や救援が必要な状況とは、まさにわが国に対する武力攻撃が予測又は切迫している事態と評価される状況にほかならず、この場合は、あわせて武力攻撃事態等と認定して、国民保護法に基づく措置を実施する」と説明されている。
防衛省「令和元年版防衛白書」
https://www.mod.go.jp/
※17:「国民の保護に関する基本方針」2017年、p.2