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IoTの可能性

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2015.12.22

政策・経済研究センター川崎祐史

経済・社会・技術
 前回のMRIトレンドレビュー(2015年12月10日「IoTが拓く未来社会」)では、IoTが社会実装される5つのコンテキストについて述べた。今回はその中から「パーソナル対応による新需要の創造」について考察したい。

 例えば、画一的な製品を大量生産するのではなく、消費者個人のニーズに合わせてカスタマイズされた少量多品種生産が低コストでできるような柔軟な生産プロセスがIoT技術を使って実現したとする。消費者は自身のニーズにあった製品を手に入れることができるので、画一的な製品より高い単価でも購入するだろう。当社が“mif=生活者市場予測システム”を使って行った消費者意向アンケートからは、下図のようにカスタムメイド品に対する購入価格プレミアムがあることがわかった。このように、IoTを使った生産プロセスの革新によりパーソナル対応の新需要が創出される。
カスタムメイド品に対する購入価格プレミアム

出所:生活者市場予測システム(三菱総合研究所)調査結果(2014年)より作成

 また、消費者が服を購入しようとしたときに、自分にとても似合う服に出会うことはなかなか難しい。人工知能を使って個人の好みにあった服を探してくれるようなコンシェルジュサービスが実現すれば、少し高い服でも買うようになるのではないだろうか。

 先日、「日立ソーシャル・イノベーション・フォーラム2015」でDeNAの南場会長が講演で興味深いお話をされていた。DeNAで自社のサービスを検証したところ、性別・年代別セグメント単位での顧客へのアプローチに対して、顧客一人一人の過去の利用履歴データなどを活用した「個客」単位のアプローチは、顧客の利用継続に対する効果が9.7倍あることがわかったそうだ。IoTを使ったマーケティング・販売プロセスの革新が購買価格プレミアムを生む。

 日本企業は失われた20年の中で相当の業務効率化を行っており、コスト削減の余裕は少なくなっている。しかし、前述のとおりパーソナル対応には、まだまだ大きな伸びしろがある。

 IoTは、機械自動化による労働代替やコスト削減といった分野への活用もさることながら、パーソナル対応で付加価値を伸ばす分野への活用が増えることが豊かな未来社会を描くためには重要となる。すでにパーソナル対応の先駆的なビジネスの取り組みが出現しているが、まだまだ未開拓の活用分野は多い。新たなIoTの活路を開くためには、課題ニーズ側と技術シーズ側の人たちが共創するプロセスがカギとなるだろう。