21年10-12月期の世界経済は、防疫と経済の両立進展により、物価上昇圧力が強まるなかでも高めの成長率となった。オミクロン変異株の感染急拡大により、22年入り後は外出行動の抑制から世界経済の拡大ペースが鈍化しているが、重症化率や死亡率の低さを踏まえ、防疫措置を緩和する動きも広がっている。
22年以降の世界経済は、ワクチン接種等によりコロナとの共生が進むなかで、財政・金融政策による景気押上げ効果が段階的に剥落し、消費や投資を柱とする自律的な回復へのシフトが本格化するとの見方に変更はない。ただし、需給逼迫などを背景に、物価と金利の上昇圧力が前回11月見通し時点よりも強まってきており、世界経済の成長率の下振れ要因となろう。今後の注目点は、次の4点である。
第一に、物価上昇圧力である。供給網混乱など短期的な物価上昇圧力は段階的に緩和されるものの、23年にかけて米欧の消費者物価は2%を超える上昇が続く可能性が高い。①家計の過剰貯蓄が消費に回ることによる需要の強さに加え、構造的要因として②人手不足深刻化による賃金の上昇、③脱炭素化による素原材料価格の上昇も、物価上昇に寄与する。名目賃金は上昇が予想されるものの、実質賃金の伸び鈍化が消費の下振れ要因となろう。
第二に、米国の金融政策である。インフレ圧力の強まりを受けてFRBは22年3月に利上げを開始する見込み。22年内に計1.25%ポイント、23年内に追加で計0.75%ポイントの利上げを予想する。米国金利上昇は、米国の消費や投資の抑制要因となるほか、国際金融市場を通じて新興国の通貨安・インフレ圧力を一段と強める要因となる。
第三に、消費の回復力である。米欧を中心に物価と金利の上昇圧力が消費の抑制要因となるが、人手不足による雇用・所得環境の改善が見込まれるなか、コロナ危機下で積み上がった貯蓄(日米欧でGDPの約12%)が消費に回ることが予想される。消費は23年にかけて総じて堅調な回復を見込む。
第四に、グリーンやデジタルへの投資である。消費とともに経済の自律的な回復力の強さを左右する要素が投資だ。脱炭素社会への移行やデジタルトランスフォーメーションには、巨額の投資が必要になる。22年以降、欧州復興基金、米国インフラ投資計画などを通じた投資拡大に加え、民間部門でも中長期的な産業構造転換に必要な投資が加速。23年にかけて世界経済の成長押上げ要因となるだろう。
これらを踏まえ、世界経済の実質GDP成長率は、22年が前年比+3.5%(前回11月見通しから▲0.2%ポイント下方修正)、23年が同+3.0%と予測する。
先行きのリスクは、第一に、米国長期金利上昇による資産価格の過度な調整である。米国の利上げが市場予想を上回るペースで実施され長期金利が急騰すれば、株価や住宅価格の急落、金融市場の混乱を招き、世界経済の下振れ要因となる。第二に、中国経済失速と不良債権増加の悪循環である。中国経済の成長力が中長期的に減速局面にあるなか、債務問題の深刻化や輸出環境の悪化などをきっかけに中国経済の期待成長率が大きく低下すれば、投資・消費が抑制され、経済失速と不良債権増加の悪循環に陥りかねない。第三に、米中間選挙後の米政権運営の停滞である。中間選挙で大敗すればバイデン政権の求心力が一段と低下、富裕層課税や気候変動対策など政策の実現可能性が低下し、成長の下振れ要因となる。