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内外経済見通し

世界・日本経済の展望|2024年8月

世界経済は底堅い成長が継続も、金融市場・政策運営に不確実性

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2024.8.16

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、8月半ばまでの世界経済・政治の状況や日本の2024年4-6月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

現状の世界経済は、高インフレの落ち着きなどを背景に、底堅い成長を維持している。

先行きの世界経済は、25年にかけて2%台後半の底堅い成長が続くと見込む。ただし、金融市場や政策運営を巡る不確実性が高まっている。金融市場では、米国が景気後退を回避しソフトランディングできるかを慎重に見極めており、市場は不安定な状況が続く可能性がある。政策運営面では、11月に大統領選を控える米国において政権交代による大きな政策変更の可能性があるほか、与党大敗後のフランスの政策運営も不透明である。政策運営の不確実性は金融市場にも影響を及ぼす。これらを踏まえ、今後の世界経済の注目点は次の3つである。

①米国経済と金融政策

米国では、インフレ圧力の鈍化と労働需要の軟化を受けて24年9月に利下げに転じる見通しである。米国が底堅い成長を維持しつつ利下げに転じることができれば世界経済の下支えになる。ドル高・自国通貨安に伴う外生的なインフレ圧力が弱まることで、新興国を中心に経済状況に応じた柔軟な金融政策を運営できる余地が広がり、内需の下支えとなろう。もっとも、米国株価は依然として割高であることから、米国経済指標次第では株価の調整色が強まる可能性がある。

②米国大統領選挙の行方

米国の政策運営は、11月の大統領選・議会選の結果次第で大きく変わる可能性がある。ハリス政権が誕生すれば、基本的に現行政策の継続が予想される。一方で、トランプ政権となり、かつ対中追加関税が実施された場合には、25年の米国・中国経済は下振れが予想される。加えて、上下院とも共和党が過半数を占めた場合、立法が必要な普遍的基本関税(米国の輸入への一律関税)も実施される可能性がある。関税引き上げにより米中経済が下振れれば、米中向け輸出が減少し、世界経済の下振れ要因となる。

③フランス新政権の政策運営

フランスの政治は混乱している。議会選挙で与党連合が大敗し、左派連合や国民連合(極右)も過半数には至らなかった。そのため、今後の連立の形や政策は不透明だ。欧州委員会から財政赤字の是正勧告を受けているが、左派が主導する拡張的な財政運営が行われれば、フランス国債金利が急騰する可能性がある。財政懸念による長期金利上昇が財政状況の悪い欧州諸国まで広がる場合、欧州経済全体が落ち込み、欧州向け輸出の減少を通じて世界経済も下振れるだろう。
上記のとおり、米欧の政策運営次第では世界経済が下振れる可能性があるが、その他注意すべきリスク事象として次の3点がある。第一に、金融市場の一段の不安定化である。米国経済がソフトランディングに失敗し、景気後退の可能性が高まれば、株価の大幅な下落が世界に波及し世界経済の需要抑制につながるだろう。第二に、中東情勢を中心とする地政学リスクのさらなる悪化である。中東情勢の一段の緊迫化による資源高などによって物価高が再燃すれば、高金利が長期化し世界経済が抑制される。第三に、中国経済の失速である。米中対立の激化などによって雇用環境が悪化すれば、不動産需要の回復が遅れ、中国経済が下押しされる。中国向け輸出減少や株価下落を通じて世界経済にも悪影響が及ぶだろう。

日本経済

日本経済は、景気の踊り場を抜けて持ち直しの動きがみられる。特に個人消費は5四半期ぶりに増加し、自動車生産・出荷再開の影響を除いても底打ちしている。金融市場に不安定な動きがみられるものの、景気の先行きは、内需主導で緩やかな回復を予想する。24年春闘を受けて名目賃金の伸びは高まっており、6月に前年比プラスに転じた実質賃金は、先行きもプラス圏で定着する見込みである。個人消費は、実質賃金の回復に伴い、持ち直すだろう。企業の設備投資は、デジタル化・脱炭素・サプライチェーン強靱化に向けた取り組みや人手不足対応などを背景に、拡大傾向が続くだろう。実質GDPは、24年度前年比+0.6%、25年度同+0.8%と予測する(ともに前回7月時点から変更なし)。この間、消費者物価の伸び率は総じて+2%以上で推移するとみており、日本銀行は25年半ばにかけて政策金利を0.75%まで引き上げるだろう。為替レートは、対ドルで25年度末にかけて130円程度と、日米金利差の縮小を反映して円安が是正されると想定する。

米国経済

米国経済は、堅調に推移している。先行きは、景気の急減速を回避しソフトランディングを見込む。金融引き締めの影響によって、主に低所得層の消費は抑制されているが、企業は過去3年の深刻な人手不足を踏まえて雇用を維持していることから、失業者の急増は見込みにくい。産業政策による積極的な投資も成長を支えるだろう。24年の実質GDPは前年比+2.5%と予測する(前回5月時点から変更なし)。25年の実質GDPは大統領選挙後の政策運営に左右されるだろう。現在の政策が継続する場合、同+1.9%と潜在成長率(+2%程度)並みを予測する(前回5月時点から変更なし)。一方、第二次トランプ政権が成立し、かつ関税引き上げや国境管理の厳格化などが就任早々に実施された場合、物価上昇や人手不足を通じて25年の成長率には下振れ方向に作用するだろう。

欧州経済

ユーロ圏経済は、持ち直している。先行きは、堅調な雇用環境と物価の伸び鈍化から、個人消費が回復するとみる。ECBは利下げに転じており、借入コストに起因する経済活動への下押し圧力も徐々に緩和するだろう。実質GDPは、24年は前年比+0.7%(前回5月時点同+0.6%から上方修正)、25年は同+1.3%と予測する(前回5月時点から変更なし)。なお、本予測は、フランス政府が財政にも配慮した政策を実行することを前提としており、フランス国債の金利急騰など、金融市場の混乱発生は想定していない。金融市場の混乱が発生した場合は、イタリアなど他の国にも影響が波及し、緊縮財政を強いられることなどにより、ユーロ圏経済を大きく下押しするとみる。この場合、24年・25年ともにユーロ圏経済の成長率は下振れるだろう。

中国経済

中国経済は、成長の勢いが弱まっている。景気刺激策や輸出拡大が下支えとなる一方、不動産市場は低迷し、宿泊・飲食など外出関連消費の拡大も一巡している。先行きは、輸出・消費ともに緩やかな成長ペースにとどまるとみられ、政府の経済対策に支えられながらの成長となろう。ASEAN向け輸出が堅調な一方、中国製品への強い風当たりから、米欧向け輸出の伸び悩みが見込まれる。消費は雇用環境の回復が追い風となるが、株価・不動産価格の低迷が抑制要因となる。実質GDPは、24年は前年比+4.8%、25年は同+4.5%と予測する(ともに前回5月時点から変更なし)。

ASEAN経済

ASEAN5経済は、インフレ圧力の緩和に伴う個人消費の持ち直しに加え、輸出拡大を追い風に成長の勢いを強めている。24年4-6月期の実質GDPは、前年比+5%台を回復したとみられる。先行きは、堅調な個人消費や投資に牽引された内需主導の成長が継続すると予想する。インバウンド需要の回復も成長率を押し上げるだろう。実質GDPは、24年は前年比+5.0%、25年も同+5.0%と予測する(ともに前回5月時点から変更なし)。

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