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【提言】生成AIの普及が与える日本の電力需要への影響

「適材適所」のAI活用と半導体技術開発の組み合わせで電力制約を克服

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2024.8.28

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、急速に普及する生成AIが日本の電力需要に与える影響を分析し、その解決策について提言します。

1. 背景

生成AI技術は急速に進化しています。言語処理だけではなく、画像や映像の処理能力も実用レベルに達するなど、その可能性は大きく広がっています。一方で、生成AIの学習や推論を行う際の電力消費の増加が懸念されています。2024年に開始された「第7次エネルギー基本計画」の検討でも、生成AIの電力消費が将来の電力需給に与える影響が注目されています。

今回、MRIは、生成AIの電力消費について独自の定量モデルに基づく分析を行い、その中長期的な影響を予測するとともに、電力制約の下で日本が生成AI利活用を推進するための方策について提言します。

2. 本提言の概要

生成AIの「社会浸透」と「基盤モデルの大規模化」という2つの要因により、2040年の日本の総計算量は2020年比で最大十万倍以上に達する可能性があります。生成AIの学習や推論が行われるデータセンターなどICTセクターで、電力需要が急増する恐れがあります。

電力消費の急増を抑えつつ生成AIの利活用を実現するためには、2つの解決策があります。1つは省エネ型の生成AIを活用するなどの工夫によって計算量の急増を緩和すること、もう1つは半導体技術の開発等によって電力効率の向上を図ることです。

(1) 省エネ型AIの活用による効果

省エネ型生成AIの活用では、ユースケースに応じた適正な規模の基盤モデルを「適材適所」の方針で活用することで、2040年のデータセンターでの計算量を最大シナリオの1/14程度(2020年比では約8,000倍)に抑制できると推計しました。
図表 生成AIの利用シナリオとデータセンター計算量予測
生成AIの利用シナリオとデータセンター計算量予測
三菱総合研究所作成

(2) 半導体技術の開発による効果

半導体技術の進展では、①半導体の集積化 ②先端パッケージング※1 ③光電融合※2 ④AI特化チップ※3の4つの技術を組み合わせることで、2040年には最大で約6万倍の電力効率の向上が期待できます(「④AI特化チップ」の適用が難しい用途では、600倍程度の電力効率の向上が見込まれます)。

省エネ型生成AIの活用や有力な半導体技術の進展により、各対策単独ではそれぞれ2040年のICTセクターの電力需要を半分以下に抑制することが可能です。また複数の対策を組み合わせることによって、電力需要が最大となるシナリオと比較し1/10以下に電力需要を抑制できます。

※1:複数の半導体チップを組み合わせて一つのデバイスとして性能を向上させるパッケージング技術のこと。

※2:現在電気配線を用いて実施している半導体内の情報伝送に光配線を組み合わせることで電力効率を高める技術のこと。

※3:AIにおける超並列計算などの処理に特化した回路技術を用いることで処理性能や電力効率を高めた専用のチップのこと。

図表 半導体技術の進展や生成AI利用形態がICTセクターの電力需要に与える影響
AI特化チップの電力効率の違いによる電力需要変化、半導体技術や生成AI利用形態の違いによる電力需要変化
三菱総合研究所作成

(3) 電力制約下での生成AIの活用シナリオ

カーボンニュートラルを目指しながら生成AIの利活用を進めるためには、日本が強みを持つ光電融合などの半導体技術に対して積極的な投資を進めることが重要です。また、計算量節減のために生成AIを「適材適所」で利活用することも必要です。特に、適材適所シナリオで重要な役割を担う小型AIの開発と利活用を、主にB2B(法人向け)で推進することが求められます。

こうした取り組みは、電力制約の緩和だけでなく、日本の国際競争力の強化やデジタル赤字の解消にも寄与すると考えられます。
図表 電力制約下での生成AIの利活用に関する3つのシナリオ
①計算量爆発シナリオ、②適材適所シナリオ、③省電力優先シナリオ
三菱総合研究所作成
詳細はレポート本文をご参照ください。

3. 今後の予定

エネルギー基本計画の策定やICTインフラ拡充に向けた民間投資は、今後さらに進展します。MRIは情報通信分野、半導体技術分野、エネルギー分野の知見を統合し、生成AIが電力需給やICT・電力インフラの設計に与える影響などについて、データに基づく分析および政策提言を継続します。

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