マンスリーレビュー

2021年6月号トピックス1サステナビリティエネルギー

コロナ禍による社会変化とカーボンニュートラル

2021.6.1

サステナビリティ本部小川 崇臣

サステナビリティ

POINT

  • コロナ後も継続させるべき変化がエネルギー消費増をもたらす面も。
  • 脱炭素行動の促進にはインセンティブと参加拡大の仕組みが必要。
  • 社会変化による行動変容と、カーボンニュートラル実現の両立を。

コロナ後も継続させるべき変化

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、さまざまな社会変化が生じている。こうした変化のうち、経済活動の停滞をもたらすものは早期に元に戻す必要がある。一方で、リモートワークやシェアリングエコノミーなど人々の暮らし方や働き方を豊かにする変化はさらに進むよう期待される。

変化によるエネルギー消費増への対応

リモートワークによる在宅時間が延びれば、家庭におけるエネルギー消費量は増加する。半面でオフィスでのエネルギー消費量は減るかたちになるため、リモートワークが社会全体のエネルギー消費量を増大させるとは限らない。

ただし、政府は温室効果ガス排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を2050年までに達成する目標を掲げている。家庭のエネルギー消費増を抑制する対策を講じなければ、この目標達成が難しくなるおそれがある。

だが、法的に見て、省エネルギー政策の根幹をなす「エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)」では、家庭部門が直接の規制対象外となっている。省エネ法には、企業が販売する家電などに高いエネルギー効率を求めるトップランナー制度※1が規定されるなどしているものの、家庭に対して企業向けと同様の直接的な規制をかけることは容易ではない。そのため、コロナ後の家庭のエネルギー消費を抑制するには、新たな後押しが必要となる。

政府におけるカーボンニュートラル達成に向けた議論でも、これまでのところ、供給側の対策に関する論点が中心である。需要側の行動変容をうまく促し、その効果を織り込んだ道筋を示すことが不可欠である。

行動変容を契機とした脱炭素化の加速を

例えば、在宅時間が延びれば、家庭のエネルギー消費が増えるだけではない。光熱費増加を受けて、高効率な製品を買おうという意欲が強まるかもしれない。買い取り制度が整備されて久しい再生可能エネルギーへの関心が高まる可能性もある。こうした要素が人々の行動変容につながれば、カーボンニュートラル実現を加速させる契機ともなりえるのである。

行動変容を後押しする方策としては、生活を脱炭素化させるとインセンティブが付与される仕組みの構築が想定される。

構築のポイントは、インセンティブの設計と参加の拡大にある。例えば人々の行動を変えることで地域の脱炭素化を進めたい自治体、自社の商品・サービスなどを活用して脱炭素化に貢献したい企業などが連携して有効なプラットフォームを形成できれば、地域通貨のようなインセンティブ原資の確保や、地域単位での住民の参加促進が可能になると考えられる。

このような仕組みを構築すれば、コロナ禍で生じた社会変化による行動変容と、カーボンニュートラルの実現を両立させることができる。

※1:基準値を策定した時点で最高の効率となっている機器よりも、さらに効率が高い製品の開発を目指す仕組み。