マンスリーレビュー

2021年6月号特集2経営コンサルティング人材

VUCA時代の人材獲得戦略

2021.6.1

キャリア・イノベーション本部宮下 友海

経営コンサルティング

POINT

  • VUCA時代、変化に応える経営戦略とそれを実現する人材戦略が必要に。
  • 戦略転換を実現するため業種・職種の壁を越えた「越境転職」を活用すべき。
  • 「越境転職」に向け企業は経営戦略に基づく自社の「これから」を語れ。

人材ポートフォリオ転換が急務

予測が困難なVUCA時代、産業構造の変化は激しく、コロナ禍が追い打ちをかける。企業を取り巻く経営環境も激しく揺れ動く中、受け身ではなく、意志に基づく事業変革の必要性が高まっている。新事業の立ち上げや新技術の開発、既存事業の大幅な業態転換などの経営戦略の変革が必要となっており、これを実現するために人材ポートフォリオの転換が急務となっている。

「人材確保」に向けた問題

しかし企業の人材確保、特に経営戦略変革を支える人材の確保は順調とは言いがたい。ここには2つの課題がある。1つは事業構造改革を行いたくとも、社内には新事業を担いうる人材がいないこと、2点目は中途採用によって外部から人材を獲得しようとしても、必要な人材の確保がままならないという課題である。

組織として経験のない領域での人材育成は困難である一方、今後も産業構造転換とともに事業転換は進むと予想される。人材確保のスピードが競争優位の要件となる中、中途採用による社外からの人材獲得の重要性が増す。もし、自社にないスキル・職種の人材を社外に求めるならば、業種・職種の壁を越えた獲得戦略が不可欠となろう。

「越境転職」の必要性

産業構造変化が加速する社会での人材確保に有効なのが、業種や職種の壁を越えた転職=越境転職である(図)。

越境転職は、従来どおりのスキルの人材を他業種・他職種に求めるわけではない。自社にいない職種・スキルの人材を業種・業界の壁をも越えて獲得していくためのアプローチだ。経営戦略に応じた柔軟な人材ポートフォリオの実現による企業体質強化や労働市場における存在感の補強が可能となるとともに、個人にとっての選択肢の拡大にもつながる。

しかし実際には、他の業種・職種で活用可能なスキルを保有していても、転職希望者の多くは自身の培ったスキルを活かせる職場を求める傾向が強い。これでは無意識のうちにマッチングの可能性を失ってしまう。こうした構造が求職者の反応の鈍さを招き、企業における人材確保策の促進を遅らせる一因となっている。
[表]「 越境転職」実践のポイント(業種・職種別労働市場)

経営戦略に基づく人材ニーズ発信を

この壁を越えて越境転職を実現するためのポイントは大きく2つある。1点目は、業種・職種の壁を越えて人材要件を伝える「職の共通言語」化だ※1。企業は、他業種にいる転職希望者が理解できる職務定義をもって語りかける必要がある。この点は前提条件にあたる。

2点目は、自社の独自性、経営戦略に基づく人材ニーズを正しく伝えるための情報発信だ。転職希望者は、求人企業に対して、過去の事業活動に根差したイメージをもっている。企業イメージと自身のスキルの活用に一見して接点がないと、転職先候補から外されてしまう。

情報を伝えたい人材に対して、旧来の自社イメージを超えて関心を喚起するための情報発信が必要となる。事実、最新の経営戦略や事業戦略、技術戦略、製品動向の情報を社会への貢献とともに示す特設サイトで情報提供し、越境転職の選択肢を意識させる戦略をとる企業も現れ、中途採用での人材獲得に成果を上げ始めている※2

企業は「これから」を語るべき

求職者は企業に対して、企業の存在目的や経営戦略に関する情報提供を求めている。こうしたニーズに対しては、入社後の活躍シーンをイメージできるよう、提供できるキャリアプランを明示する必要があろう※3。教育プランなどの支援施策の充実も並行して求められる。

求職者が、これまで候補と考えていなかった業種・企業に転職するには、自身のスキルやキャリアと転職先の事業展開とのつながりを具体的に感じ、経営戦略によって自身の活躍機会が広がっていく職場であることに納得する必要があるからだ。

企業は従来と異なる人材を獲得する際には、「これまでの自社」だけでなく、経営戦略に基づく「これからの自社」と、そこで必要となる人材に求める要件や期待を転職希望者に語りかける必要がある。こうした人材獲得戦略の転換によって日本でも「越境転職」が増え、事業構造転換が実現していくことが期待される。

※1:本号特集3「『職の共通言語』整備に向けた官民連携を」。 

※2、3:三菱総合研究所『「中途採用を通じたマッチングを促進していくための企業の情報公表の在り方等、諸課題に関する調査研究」報告書』(2020年度厚生労働省委託事業)における調査結果を参考としている。

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