マンスリーレビュー

2021年6月号特集3人材経済・社会・技術

「職の共通言語」整備に向けた官民連携を

2021.6.1

キャリア・イノベーション本部西澤 和也

人材

POINT

  • FLAPサイクルを回すため、「職の共通言語」整備が必要。
  • 行政は職のフレームワーク、民は個社情報をつなぐサービスを提供。
  • 企業・従業員共に職の共通言語を活用して市場の変化に対応。

職の共通言語とは何か

求職者と企業における職の需要のミスマッチを解消し、人材流動化を促す「FLAPサイクル」※1。サイクルを回す第一歩として、現状を知る(Find)ためには「職の共通言語」整備が必要となる※2

職の共通言語とは、人材の経験や仕事の内容といった職業情報に関する、企業の枠を超えた共通規格である。仕事に対する価値観や向き不向き、中でも保有するスキルと遂行する業務内容は、最も重要な職業情報の一つといえるだろう。

こうした情報をいかに共通言語化すればよいのだろうか。

職業情報の言語化の進展

まずは職業情報の言語化が前提となる。いわゆる「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」の明確化に相当する。人材流動化に対応しやすい「ジョブ型雇用制度」、人材の能力を一元管理する「タレントマネジメント」を重視する動きも職業情報の言語化を促す。これらは個別企業単位でスキルやタスクを言語化する試みといえる。

しかし、各企業が個別に言語化するのみでは不十分である。人材流動化が前提となるとき、企業・個人・社会いずれにおいても、言語化された職業情報を共通の規格で俎上(そじょう)に載せる必要がある。

共通基盤整備、民間サービス連携も

続いて以下2つの要件に取り組む必要がある。

①行政による職業情報フレームワーク整備

第1に、共通言語化の土台として重要な「職業情報フレームワークの整備」である。個別企業がどれだけ多くの職業情報を言語化しても、必ずしも企業間で共通言語化が進むものではない。公益性の高い情報の整備には行政の役割が期待される。

例えば米国では、米国労働省雇用訓練局の支援のもとで開発された「O*NET」という職業情報データベースが普及している。日本でも「日本版O-NET」として政府主導で職業情報データベースの整備が進められている(図の上段)。

行政に求められる役割のポイントは、職業分類とスキル転用可能性に関する情報だ。現在、日本版O-NETはハローワークに求人が出ている職種を中心に整備されており必ずしも民間活用を意識した職業分類にはなっていない※3。民間分類との接続のため、階層性に配慮した相互に排他的な職業分類を提供することが期待される。

また、スキル転用可能性に関する情報として米国O*NETでは、職種ごとのタスク・スキルを抽象化し比較可能とする情報が提供されている。例えば、不動産営業での提案スキルは、顧客のニーズ把握、候補の比較分析、提案のための資料作成やプレゼンテーションに分解され、異なる業・職種でも活用されうる。日本でも行政により同様の情報整備が必要だ。

②個社情報を共通言語化する民間サービス

第2に、職の共通言語の活用に向けた雇用仲介業者や業界・職能団体のコミットメントである。現在、日本における職業情報は、行政・民間雇用仲介事業者・個別企業の間に散在しており、相互の接続が必要とされる。

しかし、日本版O-NETの情報をそのまま個社が活用するのはやや難度が高い。タレントマネジメントなど個社で活用するサービスでは、日本版O-NET以上に細かな職業分類やタスク、スキルなどの情報も求められる。

そこで期待されるのが、民間雇用仲介サービスや業界・職能団体の役割である(図の中段)。米国ではO*NETを用いて、ジョブ・ディスクリプションの簡易作成サービスや、詳細かつリアルタイムでの労働需要・スキルの把握が実施されている。日本では個別サービスは発展しつつも、日本版O-NETとはいまだ接続されておらず、情報が散在している。今後増加する言語化された情報を、活用可能なかたちで接続していく必要がある。
[図]「 職の共通言語化」の三層構造

相互を意識した官民連携

行政が作成したツールの民間活用や、民間から行政への職の情報提供のような一方向での連携による課題の解決は難しく、相互の役割を意識した官民連携が必要だ。

そして、実際に働く人々や企業自身が、職の共通言語というツールを活用し、変化しつつある労働市場に対応せねばならない。

※1:希望する職に就くための、「知る(Find)」「学ぶ(Learn)」「行動する(Act)」「活躍する(Perform)」一連の流れを示す。

※2:本号特集1「人的資本を高めるための人材戦略」

※3:すし職人など、一般的にはボリューム層とは異なる分類でかなり委細であるほか、「企業、創業」のように職種とは異なるものも存在する。