マンスリーレビュー

2021年6月号トピックス2テクノロジー経済・社会・技術

科学の新たなパラダイム「第五の科学」

2021.6.1

先進技術センター飯田 正仁

テクノロジー

POINT

  • AIとロボット技術の進化が開く、科学の自動化革命。
  • 2000年代に入り、生命科学・材料開発分野などで多くの萌芽事例。
  • 日本も「第五の科学」と親和性の高い分野を成長機会に。

「第五の科学」とは

古来、人間は観察や経験から直感的に発見した法則性を「経験記述」し、さらに一般化して現象の予測に用いる「理論」とすることで、科学を構築してきた。20世紀以降は、計算機の力を借りて理論を検証する「シミュレーション科学」や、統計や機械学習技術を用いて大量データから法則を見いだす「データ科学」が発展した。これらは、第一から第四の科学として位置づけられる※1

そして近年、AIとロボット技術の進化によって、「第五の科学」(科学の自動化)とも言うべき新たなパラダイムが開かれつつある。

AIが仮説を生成し、ロボットが実験する

第五の科学では、科学的発見のために重要な仮説の生成をAIが、仮説を検証するための実験をロボットが担うことで、科学的発見のプロセス全体を自動化する※2。現在主流の特化型AI(特定の問題解決に対応)が、汎用型AI(未知の多様な問題に対応)へと進化していけば、人間の知的能力を超えた多くの科学的発見が期待できる※3

2000年代に入り、第五の科学の萌芽事例が出始めている。2009年には、マンチェスター大学のグループが、AIとロボットで自動化したプロセスから未知の酵母遺伝子を発見。2020年にも、リバプール大学のグループが新たな光触媒を発見することに成功した。日本でも、理化学研究所のグループが、自動化された細胞培養システムを構築している※4。今般のコロナ禍では、ロボットが無人環境で実験を継続した。人手不足が深刻化する研究現場では、今後も自動化のニーズが高まるだろう。

「第五の科学」と親和性の高い分野に注目を

第五の科学の萌芽事例が見られる分野には共通項がある。人間よりも、AIやロボットの方が得意な作業を多く含むというものだ。AIは、膨大な変数と複雑な条件から、より良い解を高速に精度よく探索できる。ロボットは、単調な作業を休みなく正確に繰り返し実行できる。AIが探索しやすい変数と条件を与え、ロボットが作業しやすい実験環境を設計できる分野は、第五の科学と親和性が高い。

例えば、探索対象として酵素や遺伝子を扱う生命科学、無機化合物や有機化合物を扱う材料開発などは、膨大な組み合わせから解を探索する必要があり、第五の科学と親和性が高い。ロボットが得た実験データは、AIが探索する変数と条件を更新し、科学的発見プロセス全体が自動化される。

材料開発に関しては、東京工業大学・産業技術総合研究所のグループが、無機固体物質を探索する自動化システムを世界で初めて開発した※5。日本が世界をリードする技術分野での成果であるが、これまで優位であった技術分野も今後は第五の科学がもたらすゲームチェンジに直面する可能性が高い。日本の優位性、競争力を高めるためにも、第五の科学の本質を見据えて、戦略的に活用を進める必要がある。

※1:2007年にJim Grayが提唱。 

※2:高橋恒一(2019年)「第五の科学 自動化」『AI事典 第3版』。

※3:MRIマンスリーレビュー2020年12月号「汎用AIは完成前の中間段階にも投資価値あり」

※4:理化学研究所、科学技術振興機構プレスリリース(2020年12月4日)。

※5:東工大ニュース(2020年11月19日)。

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