マンスリーレビュー

2021年12月号トピックス2エネルギー防災・リスクマネジメント

廃炉を契機とした立地地域の持続的発展

2021.12.1

セーフティ&インダストリー本部小野寺 将規

エネルギー

POINT

  • 原子力施設への立地地域の経済的依存関係は限界域に。
  • 廃炉などを地域の持続的発展に向けた産業創出の契機に。
  • 自律・共創に基づく地域と電気事業者の新たな関係性の構築を。

新たな関係性の鍵は産業創出

原子力発電所が立地する地域は、原子力の安全に係るリスクを受け入れる代わりに立地がもたらす経済的メリットを享受してきた。これにより地域が原子力発電所に対して経済的に依存する状況となった。しかし福島第一原子力発電所の事故後、長期停止するプラントや廃炉プラントの増加で、地元企業などが関与する定常的な業務が縮小した。各種税収の減少や電源三法交付金の手当の縮小なども生じ、厳しい経済状況を迎えている。

原子力発電所の運用に対して、地域が経済的に過度に依存した旧来的な関係性は、維持が困難になりつつある。立地地域の持続的発展に向けて、地域が依存から脱却し「自律」したうえで、地域との共生を維持したい電気事業者※1とWin-Winの関係となる「共創」を目指すことが求められる。地域が電気事業者に依存する関係を見直すことで、原子力発電所の運用に過度に依存しない関係を築くことが可能となる。

鍵を握るのは新たな地域産業の創出だろう。とりわけ原子力産業が成長してきた立地地域においては、廃炉という環境変化も新たな地域産業創出の可能性・事業機会の契機と捉えたい。廃炉に関連して生まれる課題・価値を、新たな地域産業の創出に積極的に活かしてはどうか。

新産業の創出と育成に向けた段階的成長

持続的な地域発展につながる新産業創出に向けては段階的な成長戦略が求められる。例えば廃炉プラントでは、施設の解体などに伴いクリアランス物※2をはじめ、コンクリートがらなど大量かつ多様な形状の廃棄物※3の処理・処分が発生する。

第1段階として、地元産業が国や電気事業者の支援も受けつつ技術開発・実証を経て廃棄物処理・処分事業を創出することなどが考えられる。これにより、地域産業の創出と電気事業者の課題解決という新たな関係性の構築が進みはじめる。

第2段階では、旧来型の処理・処分事業にとどまらない産業技術の発展および育成を目指す。例えば、デジタル技術などを活用し自動化・高効率化を図った先端的な廃棄物処理・処分産業の育成などが想定される。リサイクルにまで踏み込んだ高度な産業も構築可能だ。リサイクル品利用などのエコシステムを採り入れたまちづくり、ひいては産業に発展する余地もあるだろう。

経済的依存関係からの脱却と持続的発展

取り組みが進んでいる地域もある。福井県はクリアランス物の再利用を核としたビジネスの検討も開始している。こうした地域の将来像を議論する場として、資源エネルギー庁や電気事業者などが参加する「福井県・原子力発電所の立地地域の将来像に関する共創会議」も発足した。

十分な議論の末、地域が主体性と納得感をもち廃炉を契機とした新たな産業創出に取り組むことで、従来の経済的依存関係から脱却した新たな関係性に基づく立地地域の持続的な発展が実現できるのではないか。

※1:電気事業法に基づく、発電、送電、小売などの事業者。ここでは原子力発電事業を行う電気事業者を指す。

※2:放射性廃棄物のうち、放射能濃度が低く人の健康への影響がほとんどないものについて、国の認可・確認を得て、普通の廃棄物として再利用または処分できる状態となったもの。

※3:リサイクルにより廃棄物とならないものも含まれる。