マンスリーレビュー

2021年12月号特集2情報通信経済・社会・技術

情報爆発を支える分散型ネットワーク

2021.12.1

政策・経済センター綿谷 謙吾

情報通信

POINT

  • Beyond 5G時代はデータ活用が高度化する中で情報爆発が進展する。
  • 高い可用性を実現しつつ増加するデータを活用できるかが鍵。
  • Beyond 5Gの実現には分散型ネットワークへの移行が重要となる。

情報爆発によりデジタルインフラがひっ迫

来るべきデータ駆動型社会においては、これまで以上に社会の至る所にセンサーが設置され、リアルタイムな情報収集が可能になる。ウエアラブル端末などを活用して、個人の生体データや遺伝子データなど、より詳細な情報収集をすることも見込まれる。AIによるデータ処理、サービス・マシン間通信などの爆発的な増加も予想される。

こうした「情報爆発(流通するデータの質と量の変化)」により、通信網などデジタルインフラに多大な負荷がかかり、社会活動が停滞する危険性がある。新たな社会の根底を支えるデータ流通の仕組みづくりを目的として、通信やコンピューティングの基盤整備に着手する必要がある。

Beyond 5Gに求められる高い性能要件

国内では総務省が無線通信の第5世代(5G)の先にあたる「Beyond 5G」の推進戦略を公表した※1。Beyond 5Gによる情報爆発は飛躍的な量・質のデータ流通をもたらす。例えばコネクテッドカー※2の自動走行では、ドライバーの意図を問わず人間の処理能力を超える大量の情報が自動送受信され、ネットワーク帯域を圧迫する※3。Beyond 5Gの中核技術であるデジタルツイン(人や社会のデジタル投影)を活用した新しいサービスも情報爆発に拍車をかける。医療分野では大量の個人バイオデータや日常生活データを要する。都市や地球のデジタルツインの場合、兆単位のセンサーが発出する膨大なデータが常時ネットワークに流入するなど懸念は尽きない。

さらに、自動運転や医療分野など高い可用性・信頼性が求められるユースケースでは、高速通信に加え、低遅延通信や信頼性、端末間の時空間同期へのニーズも高まる。映像視聴やオンライン会議であれば遅延の影響は軽微だが、遠隔医療や自動運転で同程度の遅延や同期ズレが生じれば人命に影響を及ぼすケースもありうる。

新時代を支える分散型ネットワーク基盤

情報爆発に対応するためには、現状の大都市に集中するネットワークから、地方にも負荷を振り分ける分散型ネットワークへの転換が1つの解となる(図)。
[図] Beyond 5G時代の分散型ネットワーク基盤
[図] Beyond 5G時代の分散型ネットワーク基盤
出所:三菱総合研究所
現在の国内のインターネット通信は、北海道や九州などの域内通信でも、東京や大阪など大都市にあるIX(相互接続点)を経由する※4。データセンターも国内ではIXの立地する東京・大阪などに集中している。現状のデータ通信の主流であるコミュニケーションや映像配信などには、この構造が適する。しかし今後、地域内に閉じた医療や教育サービスのデータ処理、各種センシングデータのAI自動処理などが圧倒的に増大する。サーバーと物理的に近接するほど低遅延で処理可能であり、地域ネットワーク内に閉じた運用が有用といえる。

レジリエンス(強靱さ)の観点から社会を見れば、分散型ネットワークへの移行にはメリットがある。現状の大都市集中型ネットワークは、災害や障害の発生時に影響が全国に波及しやすい。分散型へ移行すれば、各地域内での通信機能の低下を回避することが容易になる。

こうした大容量・分散型ネットワークの実現には、Beyond 5Gの実装が予定される2030年代を見据えたビジネスモデルの模索や先行投資が必要である。需要面での分散型ビジネス創出と、供給面での分散型インフラ構築を同時並行で進めることで、市場成長と規模の経済効果において正の循環を生み出すことが肝要である。そのためには産業界の取り組みだけでなく、「デジタル田園都市国家構想※5」などの国策に沿う形で、官民連携を進めることが必須となる。

官民連携で対応すべき具体的な施策としては、需要面では地域課題を解決し地域産業の成長を促すローカル型Beyond 5Gビジネスの展開支援がある。農林水産業のスマート化、交通を含む都市機能の高度化など全産業領域が該当する。企業側は用途に応じてカスタマイズ可能な地域分散型のデジタルインフラにより、地域内データの集積・分析を梃子(てこ)としたビジネス創出が可能になる。その際、防災や医療・教育など準公共分野では地方自治体を含む官がファーストユーザーとなり需要創出をリードすることが肝要である。

供給面では、通信をはじめとする電波利用産業の取り組みが中心となる。最大の課題である分散化とコストダウンの両立に向けて、AIによる自律分散協調型ネットワーク管理の研究開発や、動的周波数共用※6などを推進する必要がある。効率性を向上させるため、非地上系ネットワークと地上系ネットワークの最適な連携の模索や、地域内で業界を超えた設備共用を実現するための電波利用業界の構造改革なども求められよう。

※1:特集1「Beyond 5Gがもたらす社会変革」参照。

※2:インターネットに常時接続する機能を有する自動車。

※3:当社の試算では、自動運転車約6万台(現在の自動車保有台数の0.1%未満)の通信量だけで、現在の国内における1日の通信量に匹敵する規模となることが予想される。

※4:国内の通信の約98%。

※5:岸田現政権が推進する国家構想。地方発のデジタル化により、地方と都市の格差を縮め、世界とのつながりも強化する。

※6:周波数帯を1人の免許人が占有するのでなく、通信をしていない時間や空間は他に開放することにより、複数の免許人が周波数を動的に共用できるようにする仕組み。

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