マンスリーレビュー

2021年12月号特集1情報通信経済・社会・技術

Beyond 5Gがもたらす社会変革

2021.12.1

政策・経済センター西角 直樹

POINT

  • Beyond 5GはAI・ロボット活用を誘発し社会変革の起爆剤となる。
  • 社会に快適・成長・公平を一体的にもたらすとの期待がある。
  • 3つの条件を満たす分散型成長に向け、各社は事業の再定義を。

5Gと何が違うのか

無線通信における第5世代(5G)の次の規格が2030年ごろ商用化される見込みである。5Gの先という意味でBeyond 5Gと称されることが多い。次世代デジタルでの覇権争いをにらみ、先進諸国がBeyond 5G研究開発投資を加速している。日本でも総務省が2020年6月に「Beyond 5G推進戦略」をとりまとめるなど、関心が高まっている。

過去を振り返ると、無線通信の規格はおよそ10年ごとに世代交代し、20年ごとに大きな社会変革をもたらしてきた。1990~2000年代の2G・3Gは文字どおり「電話を携帯する」ことを可能とし、人々のコミュニケーションを抜本的に変革した。2010~2020年代の4G・5Gではスマートフォンを利用したモバイルブロードバンドが普及し、個人の生活の隅々まで無線通信とデジタルサービスが浸透することとなった。

これがBeyond 5Gではどう変わるのか。これまで通信の主役が音声からテキスト、映像へと変化しても、その受け手が人間であることに変わりはなかった。通信はおおむね人間の処理能力の枠内で進化してきたといえる※1

Beyond 5Gの最大の特徴は、高度化した通信がAIやロボティクスと有機的に連携する点にある。すなわち、AIやロボット、センサーが通信の主体となるのである。人間の能力の制約を受けなくなることで、文字どおり桁違いの高度通信機能が実現することになる。ここに画期的なブレークスルーが発生する。

総務省の推進戦略では、Beyond 5Gの速度目標を5Gの10倍から100倍に設定している。「スマホの通信が速くなる」だけではない。超高速通信はAIによる圧倒的な大容量データ処理につながるし、情報伝達の遅延が大幅に抑えられればロボットや移動車両の超精密制御が可能になる。これは、社会がAIやロボティクスを本格活用する環境が整うことを意味している。

Beyond 5Gで新規に期待される機能としては、自律性、拡張性、超安全・信頼性、超低消費電力がある。当社ではさらに応用機能として、
  • インターフェース革新(高度XR※2や脳情報通信)
  • テレアクション(空間と時間を超越した活動)
  • 人間拡張(頭脳や肉体機能の大幅な拡張)
  • データ基盤(安全で便利なデータ管理)
  • デジタルツイン(人や社会のデジタル投影)
  • 超最適化(個人データによる高度カスタマイズ)
の6つを挙げている(図1)。通信としての基本機能だけでなく、AIやロボティクスとの連携により実現されるこれらの応用機能こそが、先行世代とBeyond 5Gを決定的に隔てる本質である。
[図1] Beyond 5Gの特徴となる機能
[図1] Beyond 5Gの特徴となる機能
出所:三菱総合研究所

「快適」「成長」「公平」の必要性

Beyond 5Gの新たな機能により、さまざまな革新的ユースケースが実現される。

例えばテレアクションとインターフェース革新の組み合わせにより、瞬間移動(テレポーテーション)や脳の直接交信(テレパシー)などの超能力を疑似的に実現することができる。また、上空へのネットワーク拡張と超低遅延・時空間同期を組み合わせれば、大量のドローンを衝突することなく一括制御することが可能になる。

中でも当社が重要と考えるのは、リアルな世界をデジタル上の双子として再現するデジタルツインである。デジタルツインの世界では、現実の世界と異なり、さまざまに条件を変えて何度でも試行や予測をすることが可能である。イノベーションに不可欠な試行錯誤や失敗の積み重ねは日本が不得意な領域だが、これをデジタルの双子が担ってくれるのである。

例えば新たな感染症が発生した場合に、都市のデジタルツイン上でさまざまな感染対策を疑似的に試し、効果の高い対策を社会的合意に基づいて選択できる。また、個々の人体や人格をデジタル空間に投影した「人のデジタルツイン」が実現すれば、ワクチンの大量治験を仮想的に実施したり、効果や副反応を事前に予測して最適な薬の種類や量を個人ごとにカスタマイズできるだろう。

こうしたBeyond 5Gならではのさまざまなユースケースが、個人の生活や産業・社会にもたらす望ましい変革の方向性を、当社は「快適」「成長」「公平」の3つに整理している。

「快適」とは、人間能力が拡張された状態である。重要なのは、単なる利便性の追求にとどまらず、各人の自己実現を通じてウェルビーイング※3の向上が図られることである。例えば人間拡張やテレアクションにより、身体的ハンディキャップや居住地制約を超えた職業選択が可能となる。人のデジタルツインは、就職や手術などの重大な意思決定局面における失敗リスクを低減し、人生の質を向上させる。

「成長」とは、デジタル先進国としての日本の活躍と地域の発展である。高度デジタル技術開発とインフラ整備、さらには革新的なサービスやビジネスの創出により、国際競争力を確保し、世界の課題解決に貢献する。同時にその恩恵が地域の経済発展にも及んでいることが重要である。

「公平」とは、誰もが主体的にBeyond 5Gの果実を享受できる状態である。これまでのデジタル化の進展には、巨大プラットフォーマーへの依存や情報格差(デジタルデバイド)を通じて格差・集中・分断を助長してきた側面もある。Beyond 5Gでは、データの本来の持ち主であるユーザーがデジタル技術利活用の主導権を回復し、一極集中や不本意な格差を解消することが可能となる。

分散型成長への転換

Beyond 5Gは大きな可能性を秘めているが、失敗すれば多大な副作用※4が生じる社会「デジタル・ディストピア」を招く恐れがある。

Beyond 5G時代においては、デジタル・ディストピアを回避し、「快適」「成長」「公平」を一体的に実現する道を進まなければならない。しかし過去のデジタル化の発展を振り返れば、生活が便利になる「快適」の歩みは確かだとしても、グローバル競争の陰で地域産業が疲弊するなど「成長」は自明ではない。「公平」の観点では、少数のデジタルプラットフォーマーにデータや富が集中し、サービスの多様性やシステム障害への耐性の面でも危機が顕在化している。

通信やAIが社会の神経や頭脳としてますます深く浸透するBeyond 5Gの時代に、現状の延長線上の「一極集中型成長」が続けば、インフラの根幹を海外企業に依存し支配されることで、重大な社会リスクを抱えることになる。これを避けるには、快適・成長と同時に公平を実現することにより、多様な主体が協調して社会インフラを担う「分散型成長」を目指す必要がある(図2)。
[図2]「快適」「成長」「公平」の一体的実現と分散型成長
[図2]「快適」「成長」「公平」の一体的実現と分散型成長
出所:三菱総合研究所
分散型成長とは、国家やデジタルプラットフォーマーに過度に依存せず、各地域の自治体や企業、個人などが自律的・主体的にデジタル技術を活用し、協調しながら発展する姿である。分散した各主体が利活用の主導権を回復することで、中核都市における独自のスマートシティ形成や、労働生産性の向上による安定的な中間層形成、現場起点型の主体的なイノベーションを通じた産業競争力強化などがもたらされる。

分散型社会からのバックキャスティング

デジタルプラットフォーマーが規模の経済を活かして巨大化し続けているデジタルの世界で、分散型成長を達成するには、大きな推進力が必要だ。

成功の鍵となるのは、データ利活用の量的・質的な拡大への対応と、目的志向のバックキャスティングの2つである。Beyond 5Gのような数十年に一度の大変化の局面では、目指すべきゴールの絵姿を想定した上でその実現方法を考えるバックキャスティングの手法が求められる。

1点目の鍵として、Beyond 5Gでは人間の処理能力を超える大量のデータが発生する(情報爆発)。これを効率よく処理するためには、分散型のネットワークやデータ基盤が必要となる。

Beyond 5Gでのデータ利活用は、医療や教育など地域生活に深く根差した産業領域に拡大する。Web閲覧履歴などと異なり、生活に密着した重要データを扱うことから、本来の所有者が主体的にデータを利活用すべきだというデータ主権への配慮や、安全性・信頼性の確保が重要になる※5。そのため、地域の事業体によるデータ管理などが重要となる可能性がある。

したがって、データ利活用の量的・質的拡大が進むBeyond 5Gでは、ネットワーク構造(特集2)データ管理(特集3)の両面で、集中型でなく地域分散・協調型の構造が有利となる。

2点目の鍵となるのは、目的志向のバックキャスティングである。目指すべき分散型社会を支える原則は、本来の所有者である利用者や地域・企業が主体的にデータを利活用すべきだというデータ主権の考え方であろう。政策や制度の観点からは、こうした新たな考え方に基づく国際ルールづくりに、日本は先行する欧州との連携などを通じて積極的に参画すべきである。

ビジネスの面でも、Beyond 5Gのもたらす産業構造の大変革のもとで、各企業は将来像からのバックキャスティングにより、自社事業を再定義することが求められよう。

ビジネスプロセスの大半がデジタルツイン化されれば、デジタル空間でのイノベーションの速度がリアル空間を大きく凌駕(りょうが)し、付加価値の多くが時間と空間の制約のない世界で生み出されることになる。ハードとソフトの分離が進行し後者の比重が増すなど、多くの産業分野で付加価値の構造が抜本的に変わるだろう。

また、分散型社会で各企業は、地域に根差した資源と連携したデータ利活用ビジネスを再設計して、データが生み出す価値を国外に流出させないようにすることが重要となる。事業の再定義と併せ、主体的なデータ利活用ビジネス創出につながる内部デジタル人材の育成も急務となる。

※1:4K高精細映像のデータ量は8時間分でも数百ギガバイトであり、この程度の容量であれば5Gでも十分に処理可能である。

※2:VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など、さまざまな仮想空間技術の総称。

※3:1948年に世界保健機関(WHO)憲章の前文に使われた言葉。「人が身体的だけでなく、精神的にも、社会的にも良好な状態」という広義の健康概念を指す。現在は、より幅広い人の幸福や生活の質を示す概念として使われている。

※4:デジタル敗戦、地域産業の崩壊、大量の失業、巨大デジタルプラットフォーマー依存による多様性やレジリエンスの喪失、データ濫用による人権やプライバシーの抑圧、格差社会など。

※5:当社が2021年9月に実施したアンケートでは、医療や教育でのデータ利活用については、データ管理主体として「国内事業者がよい」との回答(70.3%)が、「海外事業者がよい」との回答(3.4%)を大きく上回った。

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