マンスリーレビュー

2021年12月号特集3情報通信経済・社会・技術

データ経済価値を高める「データ流通基盤」

2021.12.1

政策・経済センター仙頭 洋一

情報通信

POINT

  • 領域間・主体間の壁を越えたデータ連携が分散型発展の鍵。
  • データ経済価値の向上には適切なルールに基づく流通基盤が不可欠。
  • 通信インフラ層とサービス層をつなぐ、信頼性の高い共有基盤の形成を。

分散的な発展だからこそ協調が不可欠

次世代の高度デジタル社会が実現される「Beyond 5G」時代にはデータの質・量が爆発的に拡大しさまざまなサービスの価値の源泉となる※1。データは経済を支える財としてその重要性が将来さらに増していくことだろう。

財としてのデータは集積・解析によりさらなる価値を産む。多様なデータの組み合わせが可能となり、これまでにないライフスタイルやニーズを包摂するサービスが創出されるはずだ。

Beyond 5G時代にはその関連技術により、地域・業種などで分散しているプレーヤーがそれぞれの領域でデータの範囲を拡大することが想定される。分散的に発展していくほど、その間の協調を円滑に行うことが、データを用いたサービスの萌芽(ほうが)となり、高度化を促すために不可欠となる。

例えば、先進的な都市モデルでは、領域間・主体間の壁を越えデータ連携を行うための方策が検討されている。こうしたデータ連携を可能とする基盤が将来のデジタル構想の中核ともいえる。

データ連携基盤は、価値創造の源泉であるデータという「財の流通」を支える場という見方ができる。この場合可能なかぎり多様な主体で利用できるよう流通していく方が創出される経済価値は高まる。一方で財としての帰属権利を保護し、経済発展につながる効率的な流通を可能にするには、さまざまな課題が存在する。

データ流通における現状の課題

データの円滑な流通に係るさまざまな議論が国内外で行われ、データ流通の最適化に関する解決の糸口も見え始めた。特に、GDPR※2、GAIA-X※3などの構想、米国のMyDataイニシアチブを含むデータ戦略は代表例だ。データ所有者の保護や官民のデータ再利用を考慮した、データの自由な流通・活用の促進のあり方が議論されている。共通する課題として以下の点が挙げられる。

事業者のデータ囲い込みの解消
現状のルールでは規模の経済やネットワーク効果から独占・寡占が進みやすく、健全な経済成長への弊害や単一障害点にもつながる「データの囲い込み」が発生している。

デジタル空間での信頼の設計
デジタルサービスごとに多様化している信頼レベル(例えば、公的認証を要する、ID/Passwordが通ればよいなど)に柔軟に応じることのできる制度的枠組みを整備する必要がある。

「データ主権」という意識変容への対応
データ利活用の高度化に伴い発展してきたデータ提供者の権利を保護する仕組みを整備する必要がある。現状では例えばデータの持ち主が共有の範囲を十分にコントロールできない。

インフラとサービスをまたぐ枠組みの整備を

データ流通の課題は、通信インフラとサービス層の間をまたぐ業界横断の課題である。Beyond 5Gのメリットを享受し、新たなデジタルサービスの萌芽を促していくためには官民・業界間をまたぐ枠組みの整備が不可欠である(図)。
[図] 通信インフラ層とサービス層の間に必要なデータ流通・協調基盤
[図] 通信インフラ層とサービス層の間に必要なデータ流通・協調基盤
出所:三菱総合研究所
枠組みの検討においては、個々の組織がサービス提供のために自身のコストで全てを所有し制御するという一枚岩のスキームからの転換が必要となる。特に、データ授受に関する安全な合意形成についての共通領域としての仕組みと、多様なプレーヤーの新規参画やデータ連携が可能な仕組みを併せもつ複層的な基盤が必要となる。

基盤構築には、技術と非技術両面から検討が必要となる。技術面では不特定多数の間のデジタル上のやり取りに対し耐改竄(かいざん)性、真正性、透明性を確保しやすい分散型アイデンティティを中核とした構想※4が有望視される。ブロックチェーンがベースであり、集中管理型でネックとなる単一障害点やデータ主権という課題をクリアする。国際的に実証実験や規格の検討も進み、日本からも議論の場へ積極的に参加する必要がある。

一方、非技術面としては、このような技術を運用するため制度基盤が不可欠となる。例えば、EUのeIDAS2.0※5などと、国内のトラストサービスの法的効力や技術仕様は、個別ケースごとに定められ包括的な取り決めがないなど大きな隔たりがある。各国で制度設計が進行するデータ流通構想を踏まえ国際的な相互運用性を確保することが国際競争力確保の上でも不可欠となろう。

インフラ層とサービス層の間のガバナンスの巧拙はデータ流通の課題を解決する鍵であるとともにデジタルサービスのエコシステムの様相を決定づける。Beyond 5G時代のデータの可能性を引き出す信頼性の高い基盤整備が必要である。

※1:特集1「Beyond 5Gがもたらす社会変革」特集2「情報爆発を支える分散型ネットワーク」参照。

※2:EU一般データ保護規則。サービス間での個人データ移動の権利などを定めている。

※3:EUが推進する欧州統合データ基盤プロジェクト。域内の産業・個人データの収集・活用を行うデータインフラの構築を志向。

※4:政府の次世代Webアーキテクチャを検討する有識者会議Trusted Web推進協議会などで構想。

※5:EU全域に適用される電子署名に関する電子署名などのトラストサービスの法的枠組みを定めるものであり、2021年6月に改正案が公開された。

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