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2019年5月号トピックス6経済・社会・技術情報通信

世界100億人がつながるサイバー空間

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2019.5.1

政策・経済研究センター木根原 良樹

経済・社会・技術

POINT

  • デジタル技術の進展により、2050年にかけてサイバー空間が拡大。
  • サイバー空間での100億人の活動が世界経済成長に貢献。
  • 日本企業がその恩恵を受けるにはマインドチェンジが必要。 
全世界で現在約39億人がインターネットを介して「サイバー空間」で活動をしている。その規模は、総人口の51%と半数を超え※1、特にアジア、アフリカでの増加が著しい。中国ではネット通販の市場規模が約122兆円に急成長し※2、ケニアではモバイルマネーM-Pesaが96%の家庭で利用されている※3。教育関連ではAfrican Virtual University(本部:ナイロビ)の講義をインターネット経由で年間6万人以上が受講※4、医療分野でもインドのスタートアップが開発した問診・診察・処方箋・薬宅配向けスマホアプリDocs Appを500万人以上が利用している※5。また、インドでは100万人以上のIT技術者※6 がインターネットを介して仕事を受託しているという。

2050年、世界のGDPは現在の2倍強にあたる約220兆ドル※7、人口は約1.3倍の約100億人に達する※8。今後は世界のほぼ全ての人々が「サイバー空間」につながる。商業や交通、金融などが未整備の国でもスマホ一つで買い物や仕事、送金が可能になる。

日本は果たしてサイバー空間の発達に伴う世界経済成長の恩恵に浴することができるのか。米ダートマス大学のビジャイ・ゴビンダラジャン教授は、世界経済の規模拡大における企業戦略としてValue for money(利益を生む価値)でなくValue for many(多くの人々のための価値)の重要性を説いている※9。かつてはMade in Japanが、成熟した欧米市場でシェアを獲得した。その後のアジア諸国などへの進出においても高品質な製品を作り細やかなサービスを提供すればおのずと売れるはずだと、Made in Japanに固執した。しかし、インフラの整備状況も所得水準も異なる世界100億人の市場では通用しない。

世界100億人を消費者と見なして商品・サービスを開発する、100億人の中から優れた技術者を探し出し、企業価値に賛同する投資家を味方につける—。2050年の世界で戦う日本企業に求められるのは、Made in Japanから「Made in Cyber Space」へのマインド転換である。

※1:2018年末時点。国際電気通信連合(ITU)調べ

※2:2017年時点。経済産業省「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」

※3:デイヴィド・バーチ『ビットコインはチグリス川を漂う』みすず書房(2018年)

※4:https://qaupdates.niad.ac.jp/2018/09/27/online_in_africa_india/、2019/4閲覧

※5:http://www.docsapp.in/index.html、2019/4閲覧

※6:武鑓行雄『インド・シフト』PHP研究所(2018年)

※7:OECD, Real GDP long-term forecast
https://data.oecd.org/gdp/real-gdp-long-term-forecast.htm#indicator-chart、2019/4閲覧

※8:国連「世界人口予測2017年改定版」

※9:https://enterprise.vnews.com/2016/07/25/profile-tuck-school-of-business-professor-vijay-govindarajan-preaches-reverseinnovation/、2019/4閲覧

[図]2050年、サイバー空間を介して日本と世界がつながる