マンスリーレビュー

2019年5月号特集地域コミュニティ・モビリティ

特集 持続可能社会に欠かせない新インフラの総合的設計

「インターストラクチャー」が未来を拓く

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2019.5.1
地域コミュニティ・モビリティ

POINT

  • 人口減少時代のインフラが抱える課題を解決するには発想の転換が必要。
  • 連携・総合的設計とデジタル新技術活用が高機能の新インフラをもたらす。
  • 生活とインフラをつなぐインターストラクチャーの進化が鍵を握る。  

1.人口減少時代のインフラの課題

高度経済成長期の日本は、人口増加に合わせて道路、空港、上下水道などのインフラを整備してきた。いま、人口が減少に転じ高齢化が進展する中で公共投資余力は減退しインフラへの投資も抑制傾向にある。既存のインフラを有効に活用する一方、真に必要なインフラ整備に投資を集中することが重要である。

現状でも、整備されたインフラにはまだまだ効率化する余地が残されている。例えば、日本の道路は渋滞による時間損失が年間約50億人時間、労働力に換算して280万人分が失われている。特に、首都高速道路はいつも渋滞しておりこれ以上の利用は難しい。かといって、新たな道路整備が正しい解とも考えられない。

家庭や工場などから出るごみは集積場に集められたあと、焼却、リサイクル、埋め立てなどに移行する。日本は焼却主義を採っているため、リサイクル率は20%程度と海外に比較して非常に低い。また、焼却する際に発生する熱を利用していない施設が30%以上ある。循環社会の構築が求められる中、ごみやエネルギーのリサイクルを考慮したインフラの見直しが必要である。

災害が多発する日本では、防波堤をはじめ防災インフラの整備には力を入れてきたが、東日本大震災など度重なる自然災害において本来の防災機能を十分発揮することができていない。教育や訓練などのソフトウエアの開発にも力を入れているが、それだけでは不十分というのが実態だ。

このように、日本のインフラはさまざまな課題を抱えているが、これまでの延長で規模を拡大したり、古くなったインフラを新しいものに置き換えたりするだけでは解決にならない。発想の転換が必要だ。

2.インフラ概念の再定義

これまでのインフラは、基本的に単体で整備されてきた。個別インフラを俯瞰的に捉え有機的な連携を目指すことが、課題解決への新たなアプローチをもたらす。

インフラは、人間の活動を支える下部構造とされているが、これを整理し構造化して みると、複数の階層で構成されていることが分かる(図)。

道路、上下水道などのいわゆるハードインフラを基点に、上層には、これを利活用するための制度・ルールなどのソフトインフラがあり、従来は両者合わせてインフラと称してきた。この二層の上には自動車、鉄道車両、それを操作する専門人材があり、さらに上層の生活や産業活動を支えている。今回、二層のインフラと生活の間にある階層を「インターストラクチャー」と名づけた。このインターストラクチャーがIoT、ビッグデータ、AIなどのデジタル新技術によって大きな変貌を遂げつつあり、そこに課題解決の糸口が見えてくる。

例えば、自動運転やカーシェアリングなどは、自動車の動きを効率化することでインフラの有効利用を可能とする。インターストラクチャーが進化することにより、インフラの利用効率が大きく改善し得る例ともいえる。一方、ごみの焼却で捨てられている熱エネルギーを地域のエネルギーとして活用すれば、発電所で生成されるエネルギーを節約できる。ごみ処理施設とエネルギー施設、インフラ同士の連携によるインフラ有効利用の例である。前者を縦の連携とすれば、後者は横の連携と言えよう。

このように既存インフラと他の階層、また既存インフラ同士を連携することで、従来のハードインフラの追加整備をしなくても、同じかあるいはそれ以上の効果をもたらすことが可能となる。縦横に連携・統合したインフラの全体を捉えて、ここでは「新インフラ」と再定義する。縦横の連携を支えるのはデジタル新技術である。いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の適用において最もインパクトの大きい分野が新インフラであるともいえよう。
[図]インフラの階層構造

3.「新インフラ」の社会インパクト

三つの分野における「新インフラ」を以下に紹介する。インターストラクチャーの進化によって、新インフラは社会や経済に大きなインパクトを与える(表)。

(1) モビリティ

インターストラクチャーである各種交通手段をつなぐMaaS(Mobility as a Service)の先進事例としては、2016年にヘルシンキでサービスを始めた「Whim」が知られる。専用アプリを使って出発地、目的地を入力すれば、多様な交通手段を組み合わせた複数の移動ルートが表示され、予約も決済もルート選択と同時に完了する。日本でも「NAVITIME」などの最適経路探索システムが開発されている。

自動運転やカーシェアリングにも今後の普及に期待がかかる。移動の利便性が向上するとともに、駐車場や車庫などロードサイドの「空間」が有効に活用されるようになる。さらに、高齢者など移動制約者の利便性向上、移動中の時間の有効利用など、さまざまな面で利便性や効率性が向上するだろう。

(2) 防災

防災分野におけるインターストラクチャーの進化の例としてSNSや「LINE」などのスマホアプリがある。常に携帯するスマホベースであれば、いつ、どこでも利用可能であり、GPSの位置情報との組み合わせで、被災した地点からの最適な避難ルートを個人ベースで通知することも可能になる。救援物資を的確かつ効率的に被災者に届けるには、物資と被災情報のマッチングが不可欠だが、ブロックチェーン技術などの新技術を用いることでより精度の高いシステム構築が可能となる。

被災地の情報は、ヘリコプターや巡回パトロール車の役割の一部をドローンに担わせることで、より迅速かつ詳細な状況把握が可能となる。インフラの定義を「土地利用」まで広げれば、高台移転、緊急時用の避難施設の適正配置などの全体計画における位置づけが明確になり、より実現性が高まるだろう。

(3) 上下水道・ごみ処理

下水道では、デジタル技術による全体システムの効率化やリサイクルによる循環社会実現への取り組みが注目される。例えば、トイレの排せつ物や台所の生ごみをバイオマス発電の燃料として再利用する試みや、効率的にエネルギーを回収し地域の需要と結びつける技術研究とシステム開発が官民連携で進行中だ。

上水道では、AIを活用して水資源の再利用に取り組む動きがある。東京大学発のベン チャー企業WOTAが開発した水循環システムは、排水を高い効率でろ過して繰り返し循環させる。これにより、100リットルの水で約100回のシャワー入浴が可能となるといい、2018年7月の西日本豪雨では被災地でのシャワー用に無償提供された。

廃棄物集積場ではAI搭載ロボットによる廃棄物分別が実用化されている。ごみ分別の自動化は、利用者側の分別の手間と集積所の人手不足の解消に結びつく。

インフラの最適利用、効率的な維持管理を行うには、データを広範に、できれば異なるインフラをまたいで、スピーディーに集約する必要があり、そのための情報基盤の整備は不可欠である。また、新インフラは、膨大な情報を扱うためセキュリティ対策も重要となる。特に、制御システムを狙ったサイバーテロに対して、国や自治体はもちろん、民間企業も十分な対策が必要である。

一方、インターストラクチャーをはじめインフラの概念を広げることは、国内外で多くの事業機会を創出する。これまでハードインフラの整備が中心だったインフラ分野にもベンチャー企業が参入し、イノベーションを起こす可能性も高まるだろう。インフラ輸出においても、過去の成功モデルの海外展開にとどまらず、新インフラという新たな市場を開拓することが競争力を維持する上で重要だ。
[表]分野別の新インフラによる社会インパクトの例

4.新インフラへどう移行するのか

新インフラは、従来型のインフラに比べ経済・サービスの両面で大きな優位性を持つが、その導入は、効果や優先順位を見極め計画的に進めることが重要だ。先進的な技術も、先進国や大都市圏から導入するのが最善であるとは限らない。

既存のインフラの無い途上国や新興国では、従来の電話網の代わりに無線とインターネット、集中電源の火力発電の代わりに再生可能エネルギー(分散型電源)というカエル飛びが起こっている。同じことは国内でもいえる。今後50年間に日本の半数以上の自治体で人口が半減すると予測される中、都市機能や居住地域の集約も必要であるが、それに合わせて、インフラもアップデートする絶好の機会となる。

一方で、人口の減少の緩やかな大都市圏では、既存インフラの廃棄を含む新インフラの導入コストとそれで得られる社会・経済的便益を総合的に勘案し、最適な導入時期を判断することが重要だ。インターストラクチャーによって既存インフラ利用効率を改善するという選択肢もある。高度成長期に建設された大都市のインフラは、遠くない将来に更新時期を迎えるが、その際、機能や階層別の対応ではなく、全体最適化が図れるように準備をしておくべきである。

新インフラへの移行により、インフラの投資効率や利用効率が格段に高まれば、利用者負担で投資が回収できる分野が拡大する。これは、民間の事業領域を拡大するとともに、財政負担の軽減という社会課題の解決にもつながることになる。