コラム

持続可能な地域経営に向けたDX実践地域コミュニティ・モビリティ

第9回:ウォレット事業とは? 新たな課題解決を導くウォレット事業化

デジタル地域通貨事業の持続可能な運営体制(2)

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2024.9.5

地域・コミュニティ事業本部宇田幸代

持続可能な地域経営に向けたDX実践
8回から11回の全4回を通して、持続可能なデジタル地域通貨事業の運営体制およびその進め方について解説するシリーズ。前回は、地域通貨の定義と期待される効果について提示した上で、導入のハードルや、効率・継続性の課題について触れた。今回は、その課題の解決策の1つである「ウォレット事業」の定義や特徴、自治体における具体的な導入事例などについて詳しく解説していきたい。

地域の「お財布」としてのウォレット事業

前回コラムで指摘したように、自治体では地域通貨事業の一環として、それぞれの部署の政策目的に応じて、商品券事業や給付など各種アセットや単年度事業でシステムを導入している場合がある。すると、その度に初期コストが発生し、非効率な運営になりがちである。例えば、1部署ごとに予算を確保し、年度ごとに利用者・加盟店を開拓して、それぞれが別々に普及拡大を図るような状況が想定される。

そこで、この課題に対処するため、自治体で1つのアプリを導入し、異なる部署の取り組みやアセットを集約・統合する動きが見られる。複数のデジタル地域通貨を同じアプリにひとまとめにして、いわば地域独自の「お財布」として提供する試みである。これは地域通貨のウォレット事業化と呼ぶことができる。

ウォレット事業を導入すると、行政側にとって効率的な導入・運営が可能になる。また利用者にとっても1つのアプリ内でさまざまな事業のアセットを利用できることで、利便性も大きく向上する。普及の観点からも、サービスの対象者に情報を認知してもらいやすくなるという利点がある。複数の事業で1つのアプリを共同利用したとしても、デジタルの利点を活かし、それぞれの政策目的に応じて、利用する対象者や店舗などの利用先を別々に管理できるのが特長である。

このような動きは一市区町村にとどまらず、さらに発展する形として、都道府県などの広域単位で1つのアプリを導入する事例も出てきている。域内の市区町村は、広域アプリを共同利用することができるため、予算や人員などの制約により単独ではアプリの導入・運営が難しい場合でも、デジタル地域通貨を利用した取り組みが可能になる(図1)。
図1 都道府県単位での導入ウォレットアプリの共同利用イメージ
都道府県単位での導入ウォレットアプリの共同利用イメージ
三菱総合研究所作成

先進的なウォレット事業の取り組み事例

地域通貨事業として、実際に「ウォレット事業」のスキームを運営する市町村モデルと都道府県モデルの事例について紹介する。

事例(1)市町村モデル:さいたま市

市町村単位で導入された事例として、2024年7月にサービスが開始された、さいたま市「さいたま市みんなのアプリ」がある(当事業の導入可能性調査業務を当社が受託)。このアプリで電子マネーや給付などのデジタル地域通貨が利用できることに加え、関連性の近い行政サービスについて情報提供する機能などが盛り込まれている。さらに民間サービスの連携も見据えた「市民アプリ」の構想もある。1つのアプリの中で、公共施設の利用カード機能や健康促進の情報提供機能など政策目的が異なる事業のほか、例えば自転車などの移動手段を気軽にシェアできる「シェアモビリティ」サービスなど、市民の利便性が高まる民間のサービスも盛り込むことができる。
図2 さいたま市での導入事例
さいたま市での導入事例
出所:さいたま市「(令和6年6月3日発表)「さいたま市みんなのアプリ」が7月31日から始まります」
https://www.city.saitama.lg.jp/006/014/008/003/013/003/p114896.html(閲覧日:2024年6月27日)

事例(2)都道府県モデル:福井県

さらに広域の単位で1つのアプリに事業を集約する取り組みも登場している。福井県では、県が地域ウォレット事業を導入し、同じアプリ内で県や県内の17市町がさまざまな事業・アセットを発行・管理できるようにした。単独ではアプリの導入・運営が難しい小さな市町でも、デジタル商品券やポイント事業など各種の地域通貨事業に取り組むことができている。実際に、県内複数の市町がプレミアム付き商品券事業やポイント事業を行っている。
図3 福井県での導入事例
福井県での導入事例
出所:株式会社ふくいのデジタル「ふくいはぴコイン - ふくアプリ」
https://fukuappli.jp/hapi-coin/(閲覧日:2024年6月27日)
以上の紹介のとおり、まさに地域の「お財布」として、市町村単位や都道府県などの広域でウォレット事業を導入するケースが出てきている。一方、こうした事業の実現には、自治体内の部署同士や自治体同士の連携が不可欠である。また、継続的に運用していくために、どのように予算を確保するのか、民間との連携を図る場合にはどのようなビジネスモデルで収益を得るかも重要となる。そのために、地域の課題や目指すべき将来像に合わせてどのように持続可能なウォレット事業として成り立たせ、どのような運営体制を検討すべきかについて、次回以降のコラムで述べていく。

著者紹介

  • 宇田 幸代

    地域・コミュニティ事業本部

    デジタル地域通貨分野において、事業開発、サービス企画検討を担当。地域の関係者のニーズ・課題を起点として「持続的な地域づくり」を実現すべく事業創造に取り組んでいます。

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