前回コラムで指摘したように、自治体では地域通貨事業の一環として、それぞれの部署の政策目的に応じて、商品券事業や給付など各種アセットや単年度事業でシステムを導入している場合がある。すると、その度に初期コストが発生し、非効率な運営になりがちである。例えば、1部署ごとに予算を確保し、年度ごとに利用者・加盟店を開拓して、それぞれが別々に普及拡大を図るような状況が想定される。
そこで、この課題に対処するため、自治体で1つのアプリを導入し、異なる部署の取り組みやアセットを集約・統合する動きが見られる。複数のデジタル地域通貨を同じアプリにひとまとめにして、いわば地域独自の「お財布」として提供する試みである。これは地域通貨のウォレット事業化と呼ぶことができる。
ウォレット事業を導入すると、行政側にとって効率的な導入・運営が可能になる。また利用者にとっても1つのアプリ内でさまざまな事業のアセットを利用できることで、利便性も大きく向上する。普及の観点からも、サービスの対象者に情報を認知してもらいやすくなるという利点がある。複数の事業で1つのアプリを共同利用したとしても、デジタルの利点を活かし、それぞれの政策目的に応じて、利用する対象者や店舗などの利用先を別々に管理できるのが特長である。
このような動きは一市区町村にとどまらず、さらに発展する形として、都道府県などの広域単位で1つのアプリを導入する事例も出てきている。域内の市区町村は、広域アプリを共同利用することができるため、予算や人員などの制約により単独ではアプリの導入・運営が難しい場合でも、デジタル地域通貨を利用した取り組みが可能になる(図1)。
図1 都道府県単位での導入ウォレットアプリの共同利用イメージ
三菱総合研究所作成