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2022年9月号特集2情報通信経済・社会・技術

Web3のポテンシャルを引き出すガバナンス

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2022.9.1

政策・経済センター仙頭 洋一

情報通信

POINT

  • 萌芽(ほうが)段階のWeb3は社会全体にイノベーションを巻き起こす。
  • 規制と振興のバランスが競争力確保の鍵となる。
  • 技術起点で振り返った、ガバナンスのリデザインが不可欠。

Web3が秘めるポテンシャル

現在のWebサービスは、AmazonやYouTube、SNSのように、ネットショッピング、音楽や映像の視聴、動画の配信などを可能にした。生活様式が大きく変わり、インターネットも飛躍的に普及した。企業や個人が多数のユーザーにコンテンツやサービスを提供するこれらの「中央集権的な」仕組みはWeb2と呼ばれている。

これに対し、今着目されている次世代のWebサービス「Web3」は、共通の価値を有する多数のメンバーが自発的に集い、特定の企業や仕組みの統制を受けることなく、協調的にフェアな形でさまざまなコミュニティや経済活動を営む「分散型」の仕組みである。

その本質は、提唱者であるGavin Wood氏が“Less Trust, More Truth”※1と表現したように、事実を検証可能な仕組みの導入により、不知の相手であっても安全安心なやりとりができることにある。Web2からの移行で、ネット上の意思決定のメカニズムや行動様式、ルールが一変する。

この一大パラダイムシフトにより、中間マージンの省略や、異業種・異主体間の安全安心なデータ流通を促すと考えられ、従来はセキュリティやデータプライバシーの観点から難しかったサービス連携が創発される。

こうした利点は、日々の生活に不可欠な分野でも便益をもたらす可能性がある。

例えば、医療のような機微なデータを扱う分野や、脱炭素トレーサビリティや製造業など、システムが異なる主体が関与するサプライチェーン上でデータ管理が行われる分野では、データの開示範囲のコントロールが可能でデータの真正性も検証できる、Web3の特性が有効である。

競争優位性の鍵となる「規制と振興」のバランス

多様な可能性を秘めるWeb3は、ベンチャーを中心としたさまざまな取り組みがある一方で、各国のデジタル戦略に組み入れられ始めており、規制と振興のバランスが模索されている。

各国は投機的側面が強かった暗号資産に関する利用者保護などのリスク管理を進めながらも、新たなインターネット秩序における競争力強化を企図し、さまざまな支援や環境整備を進めている。

米国では、2022年3月署名の大統領令で、金融リスクへの対応を求めるとともに、責任ある開発に対するサポートを具体化する措置が指示された。英国でも、2022年4月に暗号資産分野の成長戦略が示され同国が技術と投資のグローバルセンターを目指すための枠組みが示されている。国内でも「骨太方針2022」で、Web3の推進と環境整備が言及されたところである。

Web3時代には特定の事業者に依存しないデジタルアイデンティティの管理が不可欠である。この点については、European Digital Identity Walletや日本Trusted Webといった国レベルの取り組みや、Twitter創業者であるJack Dorsey氏が率いるTBDのWeb5プロジェクト※2による民間の取り組み、W3Cなどの各種標準化活動が盛んになっており、Web3のポテンシャルを引き出す基礎固めとして位置付けられるだろう。

Web3を活かすガバナンスのリデザイン

Web3は言うまでもなくブロックチェーンを用いた変革である。しかし、描かれる世界観は必ずしもブロックチェーンだけでは実現できない。例えばNFT(非代替性トークン)※3はブロックチェーン内のトークンデータの唯一性を保証するのにとどまる。NFTで所有権を表す実物の管理はブロックチェーン外に信頼できる運営者が必要であり、法律上の所有権を反映できない。

この分野は発展段階にあり技術先行で実装が進んでいる。柔軟かつ迅速に法制度面の改善を進めつつ、時には実装側・運用側双方に対し、制度面において利用者保護の観点、不足点・リスクを示すことが必要となる。議論の場の活発度自体が、海外を含めた優秀な技術者を引きつけ、結果的には国際競争力を決定づけることになろう。

先に挙げたWeb3がポテンシャルを発揮可能な応用分野でも、技術適用だけでは変革や価値創造を実現することはできない。「ブロックチェーン外」の法制度や、Web3により必然的にマルチステークホルダー化するガバナンスの責任分担と利益配分を講じる必要がある。その際は、技術からバックキャストしたデジタル社会のガバナンスのあり方を考えなければならない(図)。

現在われわれは、Web2とWeb3の相克から新たな秩序に至る止揚の過程にある。技術としての二元論ではなく新たな社会像を描くことが必要だ。
[図] 技術からバックキャストしたガバナンスのリデザイン
[図] 技術からバックキャストしたガバナンスのリデザイン
出所:三菱総合研究所

※1:「特定の人や組織を無条件に信頼せずとも、正しさが確認・検証できるようにする」というWeb3が革新的だとされるポイントを言い表した言葉。

※2:投機化したWeb3へのアンチテーゼとしてWeb5と命名。

※3:Non Fungible Token:ブロックチェーン上で記録される唯一性のあるデータ単位であり、ERC-721やERC-1155などの規格に基づいて発行される。