マンスリーレビュー

2017年10月号トピックス1防災・リスクマネジメント食品・農業

「日本版フードディフェンス」導入のコツ

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2017.10.1

科学・安全事業本部山口 健太郎

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 食品への異物混入防止策(フードディフェンス)の必要性が高まっている。
  • 性悪説を前提とする従業員管理は日本の食品現場にはなじまない。
  • 工場の経営効率化と両立できる取り組みを。
「食の安全」に関して、米国が新たな動きに出ている。2011年制定の「食品安全強化法」で関連事業者に対し、製造加工・包装・保管の各工程において、従業員などによる意図的な異物混入行為の防止対策(フードディフェンス)を求めた。適用期限は原則2019年7月であるため、今後、従業員による犯行の防止策が確実に進むとみられる。

一方で、日本の食品製造現場では近年、多品種化と大量製造を求められ、作業場が手狭になり従業員の身体的負担も増大するなどの状況が目立っている。背景には、個人消費低迷にもかかわらず、コンビニエンスストアの売上高と来客数が2008~2016年に約3割増えたことがある。少子高齢化で一人暮らし世帯が増え、「おいしいものを手軽に、いつでも食べたい」というニーズが急速に強まったからだ。

こうした状況では、「放っておくと悪事を働く」という性悪説を前提に、従業員を信頼しないまま管理を強化しても、逆効果にしかならないだろう。工場内部の防犯対策の強化と作業環境の改善、生産性の向上を同時に達成させるという難しい課題を解決するには、別の手法が必要になる。

フードディフェンスに関わる取り組みを、工場経営の効率化にも役立てる発想が欠かせないだろう(表)。例えば、工場内のカメラが記録した映像や、センサーがとらえた従業員の移動データを保存する目的を、監視の強化ではなく、製造工程における無駄の発見や、作業手順の改善に設定する。

同様に、冷蔵庫や保管庫の施錠に関しても、非接触型ICカード形式のキーを従業員に配布する方法がある。開閉作業が簡略化されて利便性が大いに高まる一方、開閉を行った人物を簡単に特定して、責任の所在を明確にできる。

方策の一つひとつを、工場経営の効率化や生産性向上の取り組みと読み替え、活かしていくこと。この発想が、日本におけるフードディフェンス導入のコツである。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えた独自の「食の安全」確保策として、国際社会へのアピールにもなり得る。
[表]フードディフェンスと工場経営効率化を両立させる取り組みの例