コラム

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気候変動をチャンスととらえ将来事業戦略に活かす

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2017.9.13

科学・安全事業本部中島拓也

Safety Biz

POINT

  • 気候変動の影響は国内外で顕在化し、適応策の必要性が増している
  • 「適応ビジネス」の潜在市場は巨大で、幅広い事業者が参入可能
  • 企業は気候変動による自社への影響と商機を可視化し、将来の事業戦略立案を

50兆円にもなりうる「適応ビジネス」市場

気候変動の影響が国内外で顕在化している。記録的な高温や大雨といった気候自体の変化に加え、水資源、生態系、農作物などへの影響も観測されており、影響が及ぶ分野や地域のさらなる拡大が懸念されている。米国がパリ協定からの離脱を表明するなど温室効果ガスの排出量削減対策の推進が不確実な現在、気候変動による影響に対する「適応策」の必要性はさらに増しているといえるだろう。

適応策の推進には、行政による計画づくりや公共事業だけでなく、民間企業の参画が求められている。国連開発計画(UNDP)の試算によると、気候変動の影響を受けやすい発展途上国における「適応ビジネス」の潜在市場規模は、2030~2050年で年間約28兆~50兆円(※1)にもなる。これを商機と捉え、一部の企業は既に進出を始めている。水質悪化が深刻化する地域への浄水装置の設置、災害による停電対策としてのソーラーLEDライトの提供、農作物被害が増加する地域への農業保険の導入など、そのビジネスフィールドは広大である。

しかし、目の前の事業に追われ、適応ビジネスのチャンスを見逃している企業も多いのが実態である。気候変動のような将来の「不確実な事象」を見据える余裕がない企業が、自社の「適応ビジネス」の可能性をどのように探るべきか考えたい。

「気候変動影響フロー図」で将来戦略の差別化を

近年の気候変動に関する科学的なデータや知見の蓄積により、たとえば「洪水リスクの増加」や「病気を媒介する蚊の生息地の広がり」等といった影響の時期・大きさを定量的に評価することが可能になりつつある。昨今の政治経済状況や技術進展の変動幅と比べると、気候変動は「不確実な事象」ではなく、むしろ確度の高い将来変化といえる。自社の将来戦略を検討する際にこれらのデータ・知見を活用し、気候変動と自社事業とを具体的に関連付ければ、他社との差別化につながるだろう。

具体的には、中長期の経営計画を策定する際に外部環境を分析する一環として「気候変動影響フロー図」の作成を提案したい。気候変動影響フロー図は、将来予想される影響分野ごとに、科学的情報を用いながら事象の連関を可視化し、自社事業への影響と解決策を抽出するものである。これにより、現行事業の延長では想定しづらいビジネスチャンスをバックキャスティング的に見出し、他企業が気づいていない将来のブルーオーシャン(競争の少ない未開拓市場)にいち早く乗り出せる。また、現行の事業に適応ビジネスとしての価値があることが明確になれば、中長期的な自社の強みを判断する材料にもなる。

気候変動に挑む企業を後押しする社会へ

「適応ビジネス」に挑む企業を後押しする仕組みも整備されつつある。一例として、気候変動関連事業を支援する「緑の気候基金(GCF:Green Climate Fund)」がある。この基金に対しては100億ドル超の拠出が表明されており(※2)、民間企業も認証機関(基金へのアクセスを認められた国家機関、国際機関等)を通じて事業資金を獲得できる。

また、各国の中央銀行が参加する国際機関である金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)では、企業の将来的な気候変動関連のリスク・機会に関する情報開示のあり方に関する議論が始まっている(※3)。これは気候変動による自社への影響の可視化そのものが、投資家や金融セクターの重要な判断材料となり、企業価値向上に直結しうることを示している。環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を考慮するESG投資の潮流とも相まって、この流れはますます加速すると推察される。

将来の不確実性が増している現在こそ、中長期的な経営戦略の重要性は高まっているといえる。気候変動を、持続的な経営と企業価値向上の商機ととらえ、科学的データを駆使して気候変動が自社の事業に与える影響を可視化し、「適応ビジネス」のチャンスをうかがってみてほしい。
持続可能な経営/企業価値向上につながる中期経営戦略確定
出所:三菱総合研究所