マンスリーレビュー

2022年7月号特集2ヘルスケアテクノロジー

リモート化・バーチャル化が診療にもたらす恩恵

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2022.7.1

ヘルスケア&ウェルネス本部中村 弘輝

ヘルスケア

POINT

  • リモート・バーチャル技術の革新が医療の発展に寄与。
  • 患者情報をリアルタイムに取得。身体的動作を伴う介入も可能に。
  • 患者に寄り添った医療の実現にもつながり、今後重要性が増す。

医療の質を保ちつつコストを削減

医療分野のリモート化・バーチャル化が進展することにより、社会課題の解決につながるさまざまな効果が期待される(図)。コロナ禍を契機として重要性が強く認識されている今こそ、対応を推し進めていくべきである。

現状リモート化が進んでいるのは生活習慣病をはじめとした慢性疾患の領域である。治療の過程で定期的に必要となる対面診療の一部をリモート化することで、患者と医師双方の利便性向上につながる。これまで仕事の忙しさなどを理由に治療を受けていない、あるいは中断していた患者にも間口が広がる。

最近はリモート化を後押しする技術が出てきている。米国大手医療機器メーカーのAbbottは、リアルタイムに血糖値を計測できるセンサー「FreeStyleリブレ」に加えて、測定値をスマートフォンで確認できるアプリを展開している。医師はリモートで患者の血糖値を正確に把握しながら診療にあたることができ、医療の質を保ちつつ通院コストを削減することにつながる。
[図] 医療のリモート化・バーチャル化で期待される効果
[図] 医療のリモート化・バーチャル化で期待される効果
出所:三菱総合研究所

身体的動作を伴う介入も可能に

バーチャル化が進むことで、これまでリモートでの対応が難しかった領域にまで裾野が広がる。高齢化が進む日本において、今後需要が拡大するリハビリはその一例である。運動機能訓練などでは、患者と専門家が直接触れ合って施術するのが基本であった。しかし、仮想現実(VR)技術でリハビリ中の患者の身体的な動作をバーチャルな3次元空間で再現し、リアルタイムで的確な指示を出すことが可能になれば、患者と専門家が物理的に同じ場所にいる必要がなくなる。

米国のXRHealthはバーチャルクリニックを展開し、VR技術を活用したリハビリサービス※1を提供している。患者は自宅からバーチャルな診察室にアクセスし、専門家とともにリハビリに取り組むことができる。そこで得られたデータはフィードバックされ、ケアプランなどの策定に活用できるようになっている。

日本ではmediVRが、歩行に必要な運動機能と姿勢バランス、認知機能を総合的に評価する医療機器「mediVRカグラ」を製造・販売している。VRと3次元空間追跡技術を組み合わせることで、患者の身体機能・認知機能を正確に把握し、適切なリハビリにつなげることができる。

リハビリ分野は今後深刻な人手不足に直面する。将来的に患者が1人で自宅からリハビリに参加できるようになると、患者の負担軽減のみならず、提供者側の労働生産性の向上にも寄与する。

患者に寄り添った医療を実現

患者中心の視点からリモート化・バーチャル化が進む領域もある。メンタルヘルス不調を抱える患者は、他人に相談しにくい、あるいは治療を受けていることを周囲に知られたくない、といった思いから適切な受療行動につながりづらいといわれている。周りの目を気にせずに自身に合った専門家や治療法につなげる上で、リモート化・バーチャル化が大きく寄与する。

直近の健康経営度調査※2によると、ほぼ全ての企業がメンタルヘルス対策を実施しているにもかかわらず、3年前と比較してメンタルヘルス不調による長期欠勤・休職者数は増加しており、この領域の対策の難しさが浮き彫りとなっている。当社の試算では、デジタル技術を活用した予防医療が広まることで2030年にはうつ患者を10万人程度抑制することができる。医療費の抑制という直接的な効果に加えて、従業員の労働生産性向上による間接的な経済効果も大きく、健康経営のソリューションとしてのポテンシャルは高い。

米国のLyra Healthは企業向けオンラインカウンセリングサービスを提供している。利用者が自身の情報を登録すると、6,000人以上の中からAIが最適な専門家をマッチングし、自宅からでもカウンセリングを受けることができる。地理的な制約を受けないため、利用者の選択肢を大きく広げることとなる。

没入感を得られるというVRの特性を活かしたソリューションの開発も進められている。スペインのAmelia Virtual Care(旧Psious)はメンタルヘルス不調者へのVR介入プログラムを提供している。同社によると70の国で2万人に対してサービス提供実績があるという。

メンタルヘルス分野でのVR活用の始まりは意外と早く、20年以上前から臨床研究の成果が発表されている。エビデンスも蓄積されつつある中で、今後は主要な治療法の1つとして位置付けられていく可能性がある。

※1:米国当局である食品医薬品局(FDA)が承認済み。

※2:経済産業省(2022年3月)「令和3年度健康経営度調査」。