マンスリーレビュー

2022年7月号トピックス2スマートシティ・モビリティ

ウェルビーイングで変わる地域の評価軸

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2022.7.1

スマート・リージョン本部牧 浩太郎

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • ウェルビーイングの実現を目指す政策が世界の潮流となりつつある。
  • 地域の多面的な評価が可能になれば、企業の立地・投資判断も変わる。
  • IoTなどの技術進展により、ウェルビーイングを定量的に把握可能に。

ウェルビーイングの評価が世界で本格化

より良い暮らしを実現する視点として「ウェルビーイングの実現」が世界の潮流となりつつある。

経済協力開発機構(OECD)は、各都市の住民の幸福度を評価するための「より良い暮らし指標(Better Life Index)」※1を公表している。この指標の最も特徴的な点は、「将来のための資源」であるウェルビーイングをストックとして持続させるためのKPI(重要業績評価指標)の要素を加えたことだ。例えば、組織を介したボランティア活動や他者への信頼といった社会とのつながり、学歴・技能などの人的資本などが盛り込まれている。

当社も、行動起点のワクワク感や他者とのつながりなどが、個人のウェルビーイング実現にとどまらず、企業や地域の持続的成長を促すという「actfulness」※2の概念を提唱している。

岸田政権が掲げる「デジタル田園都市国家構想」では、目標達成に必要な要素を体系的に示す図であるロジックモデル※3を活用してウェルビーイング指標を地域ごとに設計した上で、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)によってスマートシティ事業を推進するとしている。

成長余力で地域の魅力が評価される

これらを機にウェルビーイングの実現状況を示す指標の具体化が進めば、地域の評価の在り方も変わる。短期的な経済活力だけでなく、将来への成長余力を生み出す個人と社会のつながりや人的資本など、多面的な要素で評価可能になる。

地域をより良いものにするために自分自身が関わっていくという意識、すなわち「シビックプライド(市民の誇り)」の浸透度も、地域の可能性を評価する視点の1つと考えられる。

企業の側としても、立地や投資先の判断において、従業員を確保するとともに経済活動をしていく場所として、地域の潜在性・持続可能性の大きさを重視するようになる。企業が長期にわたり生き残るためには、中長期的な観点による持続可能な経営が求められるからだ。

ウェルビーイングの定量的な把握が可能に

デジタル田園都市国家構想では2022年度からウェルビーイング指標を計測するためのツールやソフトウエアの提供を予定している。7月中にもガイドラインを公表する見込みである。

当社も、国内外の各都市のさまざまな統計をデータベース化するとともに、生活者の価値観など多面的なアンケート調査を継続的に実施している。

さらに近年、さまざまなセンサーによって環境や人流を把握するIoTなどの技術進展で、購買行動の大規模データも蓄積されてきている。このため、社会とのつながりや人的資本などを、特定層・地域に着目して分析することが可能になってきた。

地域の持続可能性を多面的に計測できるデータやツールの利用が今後も進めば、企業も立地や投資を行いやすくなる。さらに、企業が持続可能な経営を続けて地域に貢献すれば、社会課題解決も後押しされることになる。

※1:所得、雇用、社会的つながり、健康、ワークライフバランスなど、暮らしの11の分野で豊かさを比較可能。

※2:MRIマンスリーレビュー2022年6月号「ウェルビーイング実現と持続的成長のためのactfulness」。

※3:一般的には事業の構成要素を矢印でつなげた「ツリー型」で表現される。