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2022年7月号トピックス1情報通信

サプライチェーンの信頼をつなぐサイバーセキュリティ

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2022.7.1

デジタル・イノベーション本部江連 三香

情報通信

POINT

  • 脆弱な取引先や海外拠点を狙うサイバー攻撃が増加。
  • 企業は社会に対する説明責任を果たし信頼につなげるべき。
  • 業界主体でセキュリティ対策の策定・普及や情報共有を。

5社に1社が取引先経由でサイバー攻撃を経験

昨今のサイバー攻撃では、対策が比較的脆弱な取引先や海外拠点を踏み台として、ターゲットとなる企業のシステムに侵入するケースが見られる。経済産業省の調査※1によると、大企業・中堅企業の5社に1社近くが、取引先などを経由したサイバー攻撃を受けた経験がある。

個社ではなく、取引先やグループ企業も含めたサプライチェーン全体におけるサイバーセキュリティの確保が重要な課題となっている。

説明責任を果たせる取り組みが必要

対策の強化はもちろん必須だが、取引先や社会に対して説明責任を果たすことで信頼を得る「セキュリティ・アシュアランス」も重要である。説明責任が果たせない企業は、サプライチェーンから除外されていくおそれがあるからだ。

このため、リスク評価に基づいて実施したセキュリティ対策のエビデンスを、取引先や社会が理解できるかたちで示すよう求められる。企業のセキュリティ状況を点数化するスコアリングサービスや、認証・ラベリングの制度など、第三者評価による対策状況の可視化も有効である。

サプライチェーンにおいては「製品・部品の調達」「業務委託」「システム開発委託」「外部システムとの連携」など多様な取引形態があり、さまざまなステークホルダーがセキュリティ確保に関わっている。このため企業は、自社にとって重大なリスクを明らかにした上で、優先順位を付けて発注先に対して必要なセキュリティ対策を求めていくこととなる。

具体的な対策としては、セキュリティ要件を契約書や仕様書において定める、監査やチェックシートを通じて取引先の対策状況を確認する、などが挙げられる。サイバー攻撃が発生した場合の対応事項や責任範囲を明確化しておくことも不可欠になるだろう。

業界主体で対策推進や情報共有を

しかし、企業が発注先にセキュリティ対策を求める際には、要求する基準や手法が不透明であることに加え、下請法や独占禁止法といった法令に抵触する可能性がある点が課題となってくる。また、企業によっては、多様な発注元から似て非なる対策を求められることにより、対応コストの増加につながるケースもある。

サプライチェーンのセキュリティを個別企業だけで確保することには限界があるため、業界などが主体となって取り組みを進めるよう期待される。例えば、標準的な対策をガイドラインにまとめるとともに、他の企業や業界団体で効果を上げている取り組みを共有して対策の普及を後押しするほか、サイバー攻撃の手法や対処方法の共有により、個社の被害やサプライチェーンへの波及を防ぐことも有効であろう。

ただし、攻撃者を利するおそれがある具体的な対策や個社の情報を含む被害情報などについては、信頼できる範囲に共有を限定することが望ましい。

※1:経済産業省(2022年3月)「令和3年度サイバー・フィジカル・セキュリティ対策促進事業(企業におけるサプライチェーンのサイバーセキュリティ対策に関する調査)」。