マンスリーレビュー

2022年2月号トピックス1ヘルスケアテクノロジー

「DNA・RNA」受託製造に適切な規制を

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2022.2.1

ヘルスケア&ウェルネス本部谷口 丈晃

ヘルスケア

POINT

  • 世界的にDNA・RNA受託製造企業が興隆、日本ではこれから。
  • 安全性の確保に加えイノベーションを阻害しない規制が必要。
  • トレーサビリティ確保を条件に「グレー」な発注に対処。

DNA・RNA受託製造企業の興隆

生命の設計図である「DNA」や「RNA」は、これらを改変、あるいは生体内に入れ込むことで生命現象を操作することが可能となる。このようなテクノロジーに基づいた新しいタイプの医薬品や食材、素材の研究開発が進められており、市場にも出始めている。

コロナ禍で脚光を浴びた、モデルナやファイザーによるメッセンジャーRNAワクチンもその1つといえる。製薬会社とは別の専門企業(受託製造企業)が製造を担い、発注元からの設計情報に基づき「DNA・RNA」を大量合成する。海外には、大規模な製造能力を有する受託製造企業がすでにあるが、日本はこの分野で立ち遅れている。今後の設備投資が待たれるところである。

「グレー」な発注に対する規制

ただし、DNA・RNAベースのテクノロジーが普及する際の懸念材料もある。人体に悪影響を与えるウイルスや微生物を生み出す可能性は捨てきれない。

ウイルス・微生物がいったん外界に漏れ出すと、もはや除去は不可能であり、ヒトやその他の生物を大量に死滅させる致命的な被害も与えうる。製造過程においては慎重の上にも慎重を期する必要がある。

そのため、受託製造企業に発注される設計情報が安全か否かの識別が必須と考えられる。だが現状を見るかぎり、識別ができない「グレー」なケースが大勢を占めている。

受注および製造に対する規制も現状では手薄といえる。このままでは、受託製造企業を通してグレーなDNA・RNA製品が流通しかねない。米国では受託製造企業に関連するバイオセキュリティの在り方が議論されているが、日本での進みは遅い。

安全とイノベーションを両立させる

発注者、受託製造企業、発注内容に関わる情報管理の厳密性は重視されるべきだ。しかし、安全面だけに配慮した厳しい規制はイノベーション創出に悪影響を及ぼす恐れがある。適切な規制の策定が急務といえる。

米国の議論において、発注者の情報や、受託製造企業に対する発注内容、モノをトレースすることの有効性が明らかになりつつある。

一方の日本では、発注内容が危険と判断された場合、発注者が規制当局に申請し、取り扱いの許可を得た設計情報のみを受託製造企業に発注できる。これでグレーな場合にも対応可能になる。

規制当局の確認によるトレーサビリティ確保は、発注者の身元や発注内容自体も確認可能な強力なチェック機能となろう。同様の動きは他のバイオ産業が先行する。完全には原料の安全性が把握できない細胞・組織加工製品※1ではトレーサビリティの確保を前提としたサプライチェーンが構築され、実効性が確認されている。これらの動向を追い風に、社会、産業にとって重要なバイオセキュリティへの注目度は今後さらに高まろう。

※1:医薬品医療機器等法(薬機法)で定める「再生医療等製品」に含まれるもの。