マンスリーレビュー

2023年1月号トピックス2ヘルスケア人材

建設業発の「業界コラボヘルス」が目指すもの

2023.1.1

ヘルスケア&ウェルネス本部柿沼 美智留

ヘルスケア

POINT

  • 健康課題には業種・業態特有の働き方や職場環境が影響。
  • 「業界単位のアプローチ」が健康づくりと生産性向上の鍵に。
  • 建設業界は「新5K」を目指し、率先して健康経営を推進。

業界単位でのアプローチが健康課題解決の鍵

各産業で人手不足が深刻化する中、新技術を活用した業務の効率化・最適化に加え、従業員の生産性向上が求められている。従業員の心身の健康を保つことは生産性向上の前提条件であり、近年は健康経営※1に取り組む企業も増えている。

健康課題には業種・業態特有の働き方や職場環境が影響している可能性がある。例えば建設業では男性の「肥満該当者」や「20歳の時から体重が10kg以上増加した者」の割合が他業種より高い※2

こうした課題は個別企業の取り組みだけでは解決できない。背景にある職場環境や地域性、文化などに着目した「業界単位」のアプローチが、解決の鍵になると考えられる。

建設業でいち早く「業界コラボヘルス」を実践

健康保険組合などの保険者と事業主が積極的に連携して健康づくりを進める「コラボヘルス」のアプローチを拡張し、当社は、業界全体で健康経営を推進する「業界コラボヘルス」というコンセプトを提案した。いち早く賛同した建設業界と組んで2020年に活動を開始した。

具体的には、大手ゼネコン企業15社に加え、業界団体の日本建設業連合会(日建連)、全国土木建築国民健康保険組合との定期的な勉強会を経て、建設業界特有の食習慣の改善を目指す共同プログラムを現場で試行した。その結果、プログラム参加者の約9割が野菜の摂取量を増やす意向を示し、実際に摂取量を示す指標が大きく増加した。参加者の健康意識の変化や行動変容につながったのである。さらに職場のコミュニケーションが活性化するなどの副次的効果も見られた。

建設業界はかつて「きつい、汚い、危険」の3Kイメージをもたれがちだった。しかし、業界コラボヘルスを機に、日建連が掲げた「給与、休暇、希望、かっこいい」の新4Kに「健康」を加えた「新5K」を目指す。当社も、ゼネコン各社に共通する保険者の健康関連データを活用した効果検証の実施を視野に入れている。

業界の経営課題解決にもつながる

業界単位で健康経営に取り組めば、連帯感や競争意識が生まれ従業員のプログラム参加が促進され継続率も上がるため、効果的に健康課題を解決できる。業界共通のプログラムを活用すれば、より効率的に取り組みを推進できる。さらに、こうした取り組みを業界外にも発信することで、産業自体の魅力向上、ひいては人材確保という、業界としての経営課題の解決にも資すると期待される。

他の業界にもそれぞれ特有の働き方と、それに起因する健康課題がある。業界コラボヘルスのアプローチは他業種にも有効であり、日本の産業界で幅広く応用できる可能性がある。

建設業では業界団体が旗振り役となりビジョンを示すことで業界全体が大きく動いた。他の産業においても、業界団体を巻き込んだプラットフォームを構築できるかどうかが、業界コラボヘルスを広範に展開していく上でポイントとなろう。

※1:従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。日本では経済産業省が中心となり、企業による健康経営の取り組みを普及・促進させるための各種施策を展開している。

※2:健康保険組合連合会(2022年1月)「令和元年度 業態別にみた被保険者の健康状態に関する調査」。健康状態については40~74歳の被保険者を対象としている。