昨年2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻は世界を震撼させた。当社は1年前の本誌特集※1で世界の不確実性が増す背景として3つの潮流を明示したが、ここに来て流れが加速している。
第1の潮流:国際秩序の不安定化
中国の台頭により米国の覇権時代は終焉を迎えつつあるが、米中それぞれ世界GDP(国内総生産)の2割程度を占めるにすぎない。対ロ経済制裁では米欧日豪など西側諸国の連携が強化された一方、中国やインドなど非西側諸国がロシアからのエネルギー輸入を増加させて制裁効果は弱まった。2022年3月の国連による対ロ非難決議ではグローバルサウスと称される途上国・新興国の一部が棄権に回り、賛成国が人口ウエートで世界の半分以下にとどまった。西側諸国と中国・ロシア、そして両陣営の間にポジションをとる第三国という国際社会の複雑な勢力構造が露呈した。
第2の潮流:サステナビリティ重視
ウクライナ危機をきっかけに再生可能エネルギーの活用は、エネルギーを自国内で安定供給する観点から中長期的には一段と加速される。ただし移行プロセスは見直しを迫られる。欧州では原子力発電所の稼働延長や新設に加え、石炭火力の再稼働も検討。さらに再生可能エネルギーでも課題はある。蓄電池などの製造に必要な資源も権威主義国に偏在する。脱炭素と安全保障を両立する道を模索する必要性は大きい。
第3の潮流:資本主義の再構築
格差拡大社会の是正はコロナ危機前から続く社会課題である。行きすぎた利益至上主義を見直し、多様なステークホルダーと持続的な関係性を構築する意義が企業に問われている。コロナ危機で顕在化した欧米の深刻な人手不足問題も一例である。優秀な人材を確保する観点から従業員との良好な関係性を重視する企業が増加した。ウクライナ危機による地政学的対立に起因する経済制裁、サプライチェーン寸断に対応する中で事業継続性の再考も求められている。
これらの潮流が経済面で顕在化した結果が、米欧における歴史的な高インフレである。コロナ危機からの急速な需要回復とは別に、「資源・食料高」「脱ロシアコスト」「賃金上昇」などの物価上昇圧力が加わったことでこの事態に直面。2022年は世界全体として需要と供給の両面で回復が進んだものの、米欧を中心とした高インフレと金融引き締めが世界規模で経済成長を下振れさせた。
景気や物価の振れ幅は1970年代以来の激しさであり、世界は不確実性の極めて高い時代、すなわち「グレートボラティリティ※2」の時代の入り口に差し掛かったといえよう(図1)。
これらの潮流が経済面で顕在化した結果が、米欧における歴史的な高インフレである。コロナ危機からの急速な需要回復とは別に、「資源・食料高」「脱ロシアコスト」「賃金上昇」などの物価上昇圧力が加わったことでこの事態に直面。2022年は世界全体として需要と供給の両面で回復が進んだものの、米欧を中心とした高インフレと金融引き締めが世界規模で経済成長を下振れさせた。
景気や物価の振れ幅は1970年代以来の激しさであり、世界は不確実性の極めて高い時代、すなわち「グレートボラティリティ※2」の時代の入り口に差し掛かったといえよう(図1)。
[図1] 実質GDPと消費者物価指数の変動幅(米英日平均)