マンスリーレビュー

2023年1月号特集1海外戦略

新年の内外経済展望|2023年

2023.1.1

POINT

  • ウクライナ危機で世界の混迷が加速、グレートボラティリティの時代へ。
  • 2023年に世界経済は減速、米国景気と中国新体制下の政策運営に注目。
  • 日本経済は「正の循環」実現への正念場、人的資本の強化が鍵。

2022年の世界経済振り返り

昨年2月に勃発したロシアのウクライナ侵攻は世界を震撼させた。当社は1年前の本誌特集※1で世界の不確実性が増す背景として3つの潮流を明示したが、ここに来て流れが加速している。

第1の潮流:国際秩序の不安定化

中国の台頭により米国の覇権時代は終焉を迎えつつあるが、米中それぞれ世界GDP(国内総生産)の2割程度を占めるにすぎない。対ロ経済制裁では米欧日豪など西側諸国の連携が強化された一方、中国やインドなど非西側諸国がロシアからのエネルギー輸入を増加させて制裁効果は弱まった。2022年3月の国連による対ロ非難決議ではグローバルサウスと称される途上国・新興国の一部が棄権に回り、賛成国が人口ウエートで世界の半分以下にとどまった。西側諸国と中国・ロシア、そして両陣営の間にポジションをとる第三国という国際社会の複雑な勢力構造が露呈した。

第2の潮流:サステナビリティ重視

ウクライナ危機をきっかけに再生可能エネルギーの活用は、エネルギーを自国内で安定供給する観点から中長期的には一段と加速される。ただし移行プロセスは見直しを迫られる。欧州では原子力発電所の稼働延長や新設に加え、石炭火力の再稼働も検討。さらに再生可能エネルギーでも課題はある。蓄電池などの製造に必要な資源も権威主義国に偏在する。脱炭素と安全保障を両立する道を模索する必要性は大きい。

第3の潮流:資本主義の再構築

格差拡大社会の是正はコロナ危機前から続く社会課題である。行きすぎた利益至上主義を見直し、多様なステークホルダーと持続的な関係性を構築する意義が企業に問われている。コロナ危機で顕在化した欧米の深刻な人手不足問題も一例である。優秀な人材を確保する観点から従業員との良好な関係性を重視する企業が増加した。ウクライナ危機による地政学的対立に起因する経済制裁、サプライチェーン寸断に対応する中で事業継続性の再考も求められている。

これらの潮流が経済面で顕在化した結果が、米欧における歴史的な高インフレである。コロナ危機からの急速な需要回復とは別に、「資源・食料高」「脱ロシアコスト」「賃金上昇」などの物価上昇圧力が加わったことでこの事態に直面。2022年は世界全体として需要と供給の両面で回復が進んだものの、米欧を中心とした高インフレと金融引き締めが世界規模で経済成長を下振れさせた。

景気や物価の振れ幅は1970年代以来の激しさであり、世界は不確実性の極めて高い時代、すなわち「グレートボラティリティ※2」の時代の入り口に差し掛かったといえよう(図1)。
[図1] 実質GDPと消費者物価指数の変動幅(米英日平均)
[図1] 実質GDPと消費者物価指数の変動幅(米英日平均)
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出所:CEIC、IMF(国際通貨基金)より三菱総合研究所作成

2023年の世界経済展望

米欧を中心に金融引き締めの経済影響が本格化することから、2023年前半の世界経済は低めの成長を見込む。年後半はインフレ圧力の緩和などから景気が徐々に上向く展開を予想する。通年の世界経済の成長率は、巡航速度の3%を下回り1%台後半にとどまるだろう。

もっとも、不確実性の極めて高い世界情勢の中で、当社の予測は幅をもって捉える必要がある。変動要因として注目すべきは、①米欧のインフレ、②米国景気、③中国の政策運営——の3点である。これらの行方次第では世界経済の成長が一段と下振れする懸念もある。

注目点①:米欧のインフレ

2023年の米欧経済は共に0%近傍の低成長にとどまる見込みであり※3、需給ギャップ(一国の実質GDPと潜在GDPの差)の面では物価上昇圧力が緩和に向かう。ただし需給ギャップ以外の要因もある。前述の「3つの潮流の加速」に伴うインフレ圧力、さらには期待インフレ率(家計、企業などが予想する物価の変動率)の上昇が相まった物価上昇が生じている。米欧の中銀が目標とする2%までインフレを抑制することは容易ではない。

特に欧州は、2024年にかけてロシア産エネルギーへの依存度を下げる計画を進めており※4、世界的に需給逼迫が予想されるLNG(液化天然ガス)を高値で調達せざるをえない。エネルギー高がコストプッシュ型のインフレ圧力となる。

米国では国内事情に起因するインフレ圧力に警戒が必要だ。コロナ危機下の財政支援で蓄積された多額の家計貯蓄が残存し、さらにシニア層が引退を前倒しするなど構造的な労働力の不足から賃金上昇率が高めに推移する。これらの要因が複合して、物価上昇圧力の緩和を妨げるだろう。

注目点②:米国景気

米国では国内要因に帰するインフレ圧力が強いことから、2023年前半にかけてFRBが利上げを継続する見込みである。すでに住宅ローン金利は1年前の3%から7%にまで急騰。住宅投資は前年比25%の減少に転じた。今後自動車や耐久財の消費にも金利上昇の影響が波及するだろう。ニューヨーク連邦準備銀行は米国経済が1年以内に景気後退する確率を公表しているが、2022年11月時点で38%と上昇傾向にある※5

物価安定と雇用最大化の2つの政策目標を掲げるFRBとしては、インフレ沈静化のめどが立ち次第利下げに転じたいが、拙速な利下げでインフレが再燃すれば自身の信認を低下させかねない。1970年代の石油危機時の教訓も踏まえて利下げの判断は慎重に進めるとみられ、その間、米国景気が持ちこたえるかどうか注目される(特集2「米国が利下げに転じる2つのシナリオ」参照)。

注目点③:中国の政策運営

2022年の中国共産党大会後に選出された新指導部が、2023年3月の全国人民代表大会をもって正式に始動する。李克強首相らが退任して、習近平国家主席への権力がいっそう集中する政治体制の下での政策運営に注目だ。

短期的にはゼロコロナ政策と不動産市場の悪化で不振が続く国内経済の立て直しに注力する見込みだ。ただし規制を緩めれば、コロナ蔓延や不動産部門の不良債権拡大などの副作用も大きくなる。中国政府としては副作用に目を配りつつ景気とのバランスを重視した政策運営を目指すだろう。

2023年の日本経済展望

日本経済については、世界経済の減速により輸出の伸びは期待できないものの、内需を中心に1%台半ばの回復を見込む。

コロナ危機下で抑制された外出関連の消費などの回復が予想されるほか、2022年12月に成立した経済対策※6、インバウンド需要の持ち直しなどが成長を押し上げる要因となろう※7

企業の設備投資の堅調な伸びも期待できる。脱炭素やデジタル化、サプライチェーンのレジリエンス強化などの動きが波及する。マクロの需給ギャップは改善し2023年後半には需要超過に転じる見込みだ。

物価に対しては2023年にかけて「押し下げ」と「押し上げ」両方の力が加わる。足元の物価高の要因となっている円安や資源高は、米国の利上げ休止や世界経済の減速による国際市況の軟化を背景に、2023年後半にかけて落ち着いていくだろう。

一方で長らく上方硬直的であった日本の物価に、多面的な「値上げ」の動きが出始めている。日本の価格転嫁率は米欧に比べて相対的に低い水準だったが変化の兆しが見え始めた。

東京商工リサーチの調査※8によると、2022年12月時点で投入コスト上昇分の5割以上を転嫁した企業の割合は全体の4割となり、同年2月時点の2割から上昇した。企業の5年先の期待インフレ率も上昇傾向にあり※9、値上げが許容されやすい環境が整いつつある。

賃金改定でも人手不足を背景に、雇用の維持や労働力の確保・定着を重視して賃金を引き上げる企業の割合が過去最高の水準に達した※10。足元では前年比マイナスの実質賃金が、2023年後半にはプラスに転じるだろう。

人的資本強化で「正の循環」実現を

価格転嫁や賃上げの動きの到来は、失われた30年の物価・賃金低迷から日本経済が脱却する好機である。

失われた30年間、日本は物価も賃金も低迷し、企業はコストカットによる収益確保を余儀なくされる負の循環に陥った。しかし価格転嫁と賃上げの動きはすでに現れており、付加価値の創造による生産性向上が加わることで持続可能な正の循環が生じる。2023年は物価が上昇する中でも賃金や消費の上昇が見込まれ、この正の循環を実現する好機かつ正念場ともいえる(図2)。
[図2] 物価・需給ギャップ・雇用過不足(日本)
[図2] 物価・需給ギャップ・雇用過不足(日本)
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出所:実績は内閣府、総務省、日銀、予測は三菱総合研究所
実現の鍵のひとつは「人的資本の強化」である。生産性向上にはDX(デジタルによるビジネス変革)やGX(脱炭素社会への転換)の推進が必須であり、労働者のデジタル技術習得、あるいは脱炭素関連の成長分野への人材シフトが欠かせない。人材が流動化し組織の多様性が高まれば、知の統合と連携に伴う相乗効果も見込まれる。

新たな価値を生み出す創造的人材の価値を正当に評価し、賃金に反映させていく制度改革も重要だ。正規社員と非正規社員の間の不合理な壁をなくし職務や職責に応じた賃金体系へと移行すれば、スキルアップすることのモチベーションを高める効果も期待できる。

正の循環により賃金と物価の安定的な上昇が実現すれば、既往の金融緩和策の修正も視野に入る。その場合に重要なのが財政の健全化だ(特集3「金利上昇に対して脆弱な日本の財政」参照)。物価が安定的に上昇すれば、短長期の誘導目標金利の引き上げなどが予想される。国債利回りが市場で決定される方向に修正される中で、財政規律の弛緩による金利急騰を回避する意味でも、財政に対する市場の信認確保が重要だ。


本年の干支である「卯」は、刻では夜明け、月では4月、新たな周期の始まりを意味する。失われた30年から脱却し、日本経済復活の狼煙を上げる年でありたい。

※1:MRIマンスリーレビュー2022年1月号「新年の内外経済展望」。

※2:2022年ジャクソンホール会議(米ワイオミング州)におけるECB(欧州中央銀行)シュナーベル専務理事の講演 "Monetary policy and the Great Volatility"

※3:2023年米国実質GDPは前年比0.4%増、欧州(独仏英伊西の平均)は同0.2%減と当社が予測(2022年11月16日時点)。インフレ抑制への政策金利引き上げの終着点(ターミナルレート)は、FRB(米連邦準備制度理事会)が5%、ECB(ユーロ圏、中銀預金金利)が3.5%を想定。

※4:ドイツはロシア産エネルギー依存の低減が目標(2022年3月のエネルギー安全保障進捗報告)。

※5:米国の10年国債と3カ月国債の利回りの差(タームスプレッド)から推計したもの。出所:ニューヨーク連邦準備銀行。

※6:歳出総額28.9兆円の2022年度補正予算(第2号)。

※7:2023年の実質GDPへの寄与度は、経済対策が0.4%pt程度の上昇、インバウンド需要の拡大が0.2%pt程度の上昇を見込む。

※8:東京商工リサーチ(2022年12月)「『調達難・コスト上昇に関するアンケート』調査」。

※9:日本銀行「短観」より。

※10:厚生労働省(2022年)「令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査」。