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カーボンニュートラルを契機とした日本のエネルギー安定供給と経済成長(後編)

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2022.2.21

サステナビリティ本部石田裕之

環境・エネルギートピックス
2021年10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。同計画ではエネルギー政策を進める上での大原則としてS+3E※1が明記されている。

カーボンニュートラル(CN)の動きに代表される気候変動対策は、3Eの中でも特に環境適合に対する課題認識を起点に、世界的な潮流となっている。CN潮流下における環境適合以外の2Eの視点の重要性について、前編では安定供給に関して述べた。後編となる本コラムでは経済効率性や経済成長の観点から分析・考察を行う。

カーボンニュートラルは化石燃料輸入による日本の国富流出削減のチャンス

図1に先進7カ国(G7)の化石燃料の正味輸出額を示す。正味輸出額は各国の「輸出額-輸入額」で計算され、プラスは輸出超過、マイナスは輸入超過を表している。日本は正味輸入額が18兆円であり、その額はG7の中で最も大きく、2番目に大きいドイツ(9兆円)の2倍である。日本の2018年における総輸出額は81兆円であり、化石燃料の正味輸入額は総輸出額の2割程度に相当する。また、日本の自動車と自動車部品を合わせた輸出額は16兆円であり、化石燃料の正味輸入額はおおむね自動車関連輸出額と同水準となっている。

G7の中ではカナダが唯一の輸出超過国であり、7兆円の正味輸出額のうち大部分が石油によるものである。英国では輸入額と輸出額がおおむねバランスが取れており、正味輸入額は2兆円にとどまる。米国は石油を8兆円正味輸入しているが、ガス・石炭は輸出超過であるため、化石燃料全体での正味輸入額は5兆円となっている。

このように輸出余力をもつ国に比べて、化石燃料資源に乏しい日本は大量の輸入に頼らざるを得ない状況である。一方で、CNを契機として足元で一次エネルギー供給の8割を超える化石燃料を脱炭素エネルギーに転換していくことは、化石燃料輸入による海外への国富流出削減につながる。また、輸入依存率の低減を日本の成長につなげるためには、代替技術の国内産業強化や国産比率を高めていく視点も同時に重要となる。
図1 G7における化石燃料の正味輸出額(2018年)
図1 G7における化石燃料の正味輸出額(2018年)
※マイナスは輸入、プラスは輸出
※「合計」はそれぞれの化石燃料(石炭・石油・ガス)について正味輸出額を算出して積み上げたもの。
※化石燃料全体の金額(非エネルギー用途を含む)。
※日本円は1ドル=110円として概算した金額。

出所:UN Comtrade Databaseを基に三菱総合研究所作成

他国との値差縮小も視野に低コストの脱炭素エネルギーシステム構築を

図2に2018年におけるG7の産業用電気料金とガス料金を示す。日本の電気料金はイタリアに次いで高い18円/kWh、ガス料金は最も高い1.4円/MJとなっている。これはG7の中でエネルギーコストが低いカナダや米国に比べて、電気料金は2倍程度、ガス料金は3~4倍程度の水準である。図3には電気料金とエネルギー自給率、ガス料金とガス自給率の関係を示す。電気料金もガス料金も自給率との相関が強く、国産エネルギーが豊富な国ほど低コストでエネルギーを供給できていることが分かる。

足元でエネルギー自給率の高い国は国産化石燃料資源が多い傾向があり、エネルギー自給率の低い日本は相対的に高コストであるが、今後CNに向けて各国で脱炭素エネルギーの増加に伴いこの構造が変化する可能性がある。特に、これまで早い段階で脱炭素への移行を始めた国や、中長期的に自国産出の化石燃料を代替する必要がある国においてその影響が大きいと考えられる。
図2 G7の産業用電気料金とガス料金(2018年)
図2 G7の産業用電気料金とガス料金(2018年)
※日本円は1ドル=110円で概算換算した金額。

出所:IEA Energy Prices and Taxes Statisticsを基に三菱総合研究所作成
図3 G7の産業用電気料金・ガス料金と自給率の関係(2018年)
図3 G7の産業用電気料金・ガス料金と自給率の関係(2018年)
※電力用途の自給/輸入は特定できないため左図の横軸は一次エネルギー全体としての自給率。

出所:IEA Energy Prices and Taxes Statistics、IEA World Energy Statistics and Balancesを基に三菱総合研究所作成
図4には日本と他のG7各国の産業用電気料金の値差を示す。図の左半分は2000~2004年、右半分は2014~2018年の5年平均を示している。2000~2004年平均では日本はいずれの国よりも電気料金が高く、イタリアを除く国とは8~10円/kWh程度の差があった。その後、2015年のパリ協定など脱炭素の流れが加速し始めた頃の2014~2018年平均でみると、イタリアは日本よりも高い水準であり、ドイツや英国とは相対値差が縮小している。一方、シェール革命などによって国産エネルギーを増加させた米国とは値差の拡大が確認できる。

ここで、産業用エネルギー料金は減免措置など業種によって負担が異なるケースがあるなど、電気料金に影響を与える要因はさまざまで、詳細については留意が必要である。しかし、CNに向けて化石燃料から脱炭素エネルギーへの転換に伴い、安価な脱炭素エネルギーの導入拡大が今後の経済効率性を確保する鍵になるだろう。日本では一般的に再生可能エネルギーの発電コストが高いと言われているが、2021年12月に発表された洋上風力事業者の公募結果※2において、秋田県由利本荘市沖では供給価格が11.99円/kWhの事業者が選定された。東北エリアの2020年度平均市場価格※3は11.9円/kWhであり、入札の上限価格が29円/kWhだったことも踏まえると市場価格に比肩する水準で脱炭素電力が供給されることとなる。同年の市場価格高騰の影響には留意が必要であるが、中長期的には水素などのエネルギーキャリアの安価な製造・調達も含めて、CNを契機に他国との価格差の縮小も視野に、脱炭素エネルギーシステムの構築が期待される。
図4 日本と他のG7各国の産業用電気料金の差(各国の料金-日本の料金)
図4 日本と他のG7各国の産業用電気料金の差(各国の料金-日本の料金)
出所:IEA Energy Prices and Taxes Statisticsを基に三菱総合研究所作成

脱炭素時代における高付加価値産業の創出と海外市場の獲得を

エネルギーは国民生活・産業活動の血脈であり、国家としてエネルギーコストを低い水準に抑えることは非常に重要である。産業活動の中でも、製造業は特にエネルギーコストが国際競争力に大きな影響を及ぼしうる。図5にはG7各国の産業構造比率を示す。いずれの国でもサービス業が過半を占めるが、その比率は国によって異なる。英国や米国ではサービス業が80%を占めるが、一方でドイツや日本では70%を下回っており、製造業比率は英国に比べて10%ポイント以上高い。足元で相対的に製造業比率の高い日本では、エネルギーコストを低く抑えることが特に重要であると言えよう。
図5 G7の産業構造比率の比較(2017年)
図5 G7の産業構造比率の比較(2017年)
出所:OECD.Statを基に三菱総合研究所作成
また、産業構造の違いによってエネルギー消費量の傾向や脱炭素へのハードルが異なる。図6に各国のサービス業および製造業の付加価値あたりエネルギー消費量(原単位)を示す。一般的に、製造業はサービス業よりも原単位が大きくなる傾向がある。ドイツや日本の製造業の原単位はG7の中でも比較的低い水準にあるが、サービス業と比較すると数倍の差があることが分かる。脱炭素の観点からはエネルギー消費量のみならずエネルギー当たりのCO2排出量も重要であるが、一般に製造業の方が高温度帯の熱が必要になるなど化石燃料を直接利用するニーズが高い。
図6 G7の製造業・サービス業比率と付加価値あたりエネルギー消費量
図6 G7の製造業・サービス業比率と付加価値あたりエネルギー消費量
出所:OECD.Stat、IEA World Energy Statistics and Balancesを基に三菱総合研究所作成
こうした状況を踏まえると、脱炭素と経済成長を両立させるためには、「①サービス業を中心とした原単位の小さい業種の付加価値を伸ばしていく」「②製造業など原単位の大きい業種における革新的な脱炭素技術を開発する」という大きく2つの方向性が考えられる。既存技術を前提にした場合に、脱炭素の観点から効率的な経済成長につながるのは①であり、日本にとっても重要な視点であろう。

また、②の道筋は容易ではないが、製造業は日常生活に不可欠な製品を数多く生産している。特に新興国を中心とした今後の人口増加・経済成長に伴い、その需要はグローバルに増加する可能性が高い。例えば世界全体では2050年に鉄鋼蓄積量や乗用車保有台数が約2倍になるとの試算もある※4※5。図7にはG7各国の製造業内訳を示す。ドイツや日本のように製造業比率が高い国では、脱炭素化のハードルが特に高い鉄鋼や化学、そして鉄鋼を車体に多く利用する自動車セクターの比率が高いことが分かる。イノベーションの難易度は高いが、実現すれば製造業で世界を牽引してきた日本の技術力で、脱炭素時代に増加する世界の需要への貢献、さらには市場を獲得するチャンスでもある。
図7 G7の製造業比率の内訳(2017年)
図7 G7の製造業比率の内訳(2017年)
出所:OECD.Statを基に三菱総合研究所作成
日本では今後人口減少が予想される中で、1人当たりが生み出せる付加価値の高い産業の創出や海外市場の獲得が重要な視点になるだろう。世界では脱炭素の潮流の中で既に激しい競争が始まっている。日本として強みを発揮することができる分野の特定や深堀りについて、さらに解像度の高い分析と議論が求められる。

本コラムでは前編・後編に分けてCNを安定供給、経済効率性・経済成長の軸で主に国際比較の観点から分析・考察してきた。いずれの軸でも日本は脱炭素潮流を好機と捉えることができる側面があり、CNを日本の豊かな将来につなげること、そして世界の発展に貢献していくことが重要である。

※1:安全性(Safety)を前提とした上での「安定供給(Energy Security)」「経済効率性(Economic Efficiency)」「環境適合(Environment)」。

※2:海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)に基づき指定された3促進区域(「秋田県能代市、三種町および男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖」「千葉県銚子市沖」)における事業者公募。

※3:JEPXスポット市場の年間平均価格。2020年度は12~1月頃にかけて市場価格が特に高騰した点には留意が必要。

※4:一般社団法人日本鉄鋼連盟「ゼロカーボン・スチールへの挑戦」(2020年6月)

※5:U.S. Energy Information Administration「International Energy Outlook 2021」(2021年10月)

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