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カーボンニュートラルを契機とした日本のエネルギー安定供給と経済成長(前編)

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2021.12.27

サステナビリティ本部石田裕之

環境・エネルギートピックス
2021年10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定された。同計画ではエネルギー政策を進める上での大原則としてS+3Eが明記されている。安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一に、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図るものである。

カーボンニュートラル(CN)の動きに代表される気候変動対策は、3Eの中でも特に環境適合に対する課題認識を起点とし、現在は世界的な潮流となっている。一方、歴史的に見れば日本のエネルギー需給構造は時代に応じてその形を変えてきた。本コラムでは日本のエネルギー需給構造の変遷を振り返るとともに、CN潮流下における安定供給と経済効率性の2Eの視点の重要性について、前編では安定供給、後編では経済効率性の観点から分析・考察を行う

日本のエネルギー需給構造や3Eバランスは時代の要請に合わせて変化

図1に日本の一次エネルギー供給構成の変遷を示す。戦後の日本における主力エネルギーは石炭・水力であり、1953年には合わせて全体の80%程度を賄ってきた(石炭48%、水力29%)。その後、高度経済成長で大幅にエネルギー需要が増加し、1972年には1953年比6倍にまで拡大した。需要増加の大部分を支えてきたのが石油であり、1972年の一次エネルギー供給構成比で76%を占める。この時、化石燃料比率は9割を超える水準であった。

1973年の第4次中東戦争に端を発した第1次オイルショックでは、過度な石油依存の安定供給リスクが広く認知された。また、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)や1997年の京都議定書採択など、環境適合に対する議論の高まりも受けて、エネルギー供給の多角化やCO2低排出化が図られてきた。このような要因を背景に、2010年には天然ガスが18%、原子力が11%を占め、石油比率は40%まで低下している。

2011年3月の東日本大震災により原子力発電の稼働がほぼ停止し、2012年には化石燃料比率が91%となり再び9割を超える水準となった。2015年にパリ協定が採択される中、日本は2012年7月のFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)スタートによる再エネの拡大や、原子力発電の再稼働が一定程度進むことで2019年の非化石エネルギー比率は15%まで向上した。世界では既に120を超える国・地域が2050年までのCNにコミットしており、日本も2020年10月に菅首相(当時)が2050年のCNを目指すことを宣言した。

日本がCNを目指すということは、足元で85%を化石燃料に依存する一次エネルギー供給を、2050年までに脱炭素エネルギーのみの構造へ転換していくこととほぼ同義である。戦後から約70年間の日本のエネルギー需給構造の変遷を見ても、CN達成を目指すことは非常に大きなチャレンジであることが分かる。
図1 日本の一次エネルギー供給構成の変遷
図1 日本の一次エネルギー供給構成の変遷
出所:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」を基に三菱総合研究所作成

カーボンニュートラルを契機とした2E同時向上の視点

CNに向けた「環境適合」の軸での日本の国際的な立ち位置は、「カーボンニュートラルに向けた日本の国際的立ち位置」のとおり、需要の大きさや産業構造を背景に革新技術の必要性が相対的に高いことを示した。本コラムでは環境適合以外の2E(安定供給、経済効率性)の観点から分析を行う。

図2に近年における主要国のエネルギー自給率とGDP成長率を示す。経済効率性は元々低コストでのエネルギー供給を図ることを意識した軸であるが、今後「経済と環境の好循環」※1を目指す中で、産業競争力の強化などを通じて経済成長を実現していくことが求められる。このような背景から、ここでは経済効率性の指標としてGDP成長率を選んだ。

エネルギー自給率は特に化石燃料資源の産出国で高い傾向が確認され、米国では97%、中国では80%である。一方、化石資源に乏しい日本では12%※2にとどまっている。また、GDP成長率は中国やインドで6%前後の高い水準である。先進7カ国(G7)の中でも米国やフランスでは2%前後の成長率を示しているが、日本は0.8%であり、これはG7で最も低い水準である※3

以上のように日本は安定供給・経済効率性いずれの軸においても国際的に厳しい立ち位置にいる。CNを契機として2Eそれぞれを、同時に改善させることは日本にとって非常に重要な視点であろう。
図2 主要国のエネルギー自給率とGDP成長率
図2 主要国のエネルギー自給率とGDP成長率
※エネルギー自給率は2018年、GDP成長率は2017~2019年の3年平均値。
※エネルギー自給率は「国内産出÷一次エネルギー供給」で計算。自国資源の輸出を行う場合には100%を超えることがある。
※グラフはデータが利用可能な世界各国についてエネルギー自給率0~100%、GDP成長率0~8%の範囲を示したもの。

出所:IEA World Energy Statistics and Balances、IMF World Economic Outlookを基に三菱総合研究所作成

カーボンニュートラル潮流下で「脱炭素エネルギー自給率」がより重要に

図3では主要国をエネルギー自給率の高い順に並べた。上位の国は、自国産出の化石資源によって高い自給率を確保している傾向が分かる。前述の米国では97%のうち79%、中国では80%のうち68%を化石燃料が占める。変動性再生可能エネエルギー(変動再エネ※4)の普及が進むデンマークでも81%のうち56%が化石燃料による自給である。

一部には化石燃料以外の自給率が高い国も存在する。アイスランドは地熱が69%を占めており、水力19%と合わせて9割程度を脱炭素エネルギーで賄っている。また、スウェーデンやフランスでは原子力による自給率が約4割を占め、再エネと合わせて脱炭素エネルギーによる高い自給率を実現している。
図3 主要国のエネルギー自給率内訳と脱炭素エネルギー自給率
図3 主要国のエネルギー自給率内訳と脱炭素エネルギー自給率
※国際エネルギー機関(IEA)発表の自給率であり、日本の総合エネルギー統計における公表値(高位発熱量ベース)とは必ずしも一致しない。特に地熱発電は発電効率10%として一次エネルギー換算される点には留意が必要。

出所:IEA World Energy Statistics and Balancesを基に三菱総合研究所作成
ここでCNの観点から、脱炭素エネルギーの自給率のみに絞ってその順番を並び替えると見え方は大きく異なる(図4)。脱炭素エネルギー自給率として5割程度またはそれ以上の水準を保っている国はアイスランド、スウェーデン、フランス、ノルウェーであり、アイスランドとノルウェーは変動再エネ以外の再エネ(安定再エネ※5)がその大部分を占める。スウェーデンとフランスでは安定再エネに加えて原子力の寄与が大きい。足元において変動再エネは安定再エネ・原子力に比べると自給率への寄与は限定的であり、主要国の中で変動再エネ自給率が最大であるデンマークでも8%にとどまる。

化石資源によって高い自給率を維持している国も脱炭素エネルギー自給率の観点では3割を下回る国が多い。例えば米国では18%、中国は12%であり、11%である日本との相対的な安定供給格差が縮小する。元々化石資源の乏しい日本にとって、CNは自給率を向上させるチャンスとも捉えることが重要である。
図4 主要国の脱炭素エネルギー自給率
図4 主要国の脱炭素エネルギー自給率
※国際エネルギー機関(IEA)発表の自給率であり、日本の総合エネルギー統計における公表値(高位発熱量ベース)とは必ずしも一致しない。特に地熱発電は発電効率10%として一次エネルギー換算される点には留意が必要。

出所:IEA World Energy Statistics and Balancesを基に三菱総合研究所作成

脱炭素エネルギーは「組み合わせ」の視点でボリューム・安定供給の確保を

技術的に確立された脱炭素オプションの1つである再エネはエネルギー密度(単位面積あたりに生み出せるエネルギー量)が化石燃料よりも低く、広い面積を必要とする特徴がある。また、水素などのエネルギーキャリアはエネルギー転換ロスにより総合効率が低くなる傾向がある。再エネや水素といった脱炭素エネルギーはこうした低密度・低効率の特性を有する中で、需要が大きいほど脱炭素化ハードルが高くなる。

図5は主要国の一次エネルギー供給と脱炭素エネルギー自給率を示す。足元において需要が大きいほど脱炭素エネルギー自給率が低い傾向が確認される。脱炭素エネルギー自給率の高いアイスランドは他国に比べてエネルギー需要が低く、自給率を上げるために必要なエネルギー量が相対的に小さい。

エネルギー密度の高い化石燃料の場合、国内産出が豊富にあれば化石燃料のみで高い自給率を確保することが可能である。他方、多くの脱炭素エネルギーは低密度・低効率の特性を有する中で、特に需要の大きい国では国情に合わせたエネルギーを組み合わせる視点がより重要になるだろう。例えばスウェーデンやフランスでは原子力と安定再エネの組み合わせで比較的高い脱炭素エネルギー自給率を確保しており、ドイツや英国でも原子力、安定再エネに加えて変動再エネも合わせることで2割程度の水準を確保している。

CN達成に向けては水素など新しいエネルギーキャリアとの組み合わせも重要となる。将来的に大量の水素輸入に頼らざるを得ない可能性も指摘されるように(「2050年カーボンニュートラル実現に向けた提言」参照)、エネルギー安全保障の観点からは水素などの国内サプライチェーンの在り方は大きな論点となる。

以上のとおり、エネルギー需要が大きく人口密度も高い日本においては、脱炭素エネルギーを適切に組み合わせながら、CN対策をエネルギー安定供給の確保につなげることが重要である。
次回、後編では経済効率性の観点から分析を行う。
図5 主要国の一次エネルギー供給と脱炭素エネルギー自給率
図5 主要国の一次エネルギー供給と脱炭素エネルギー自給率
※横軸は対数軸である点に注意が必要。

出所:IEA World Energy Statistics and Balancesを基に三菱総合研究所作成

※1:内閣官房ほか(2021年6月)「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」

※2:国際エネルギー機関(IEA)発表の自給率であり、日本の総合エネルギー統計における公表値(高位発熱量ベース)とは必ずしも一致しない点に留意が必要。

※3:カナダのGDP成長率は2.4%。エネルギー自給率100%を超えるためグラフの範囲外。

※4:太陽光、風力発電といった天候など自然条件に出力が左右される再生可能エネルギー。

※5:水力、地熱、バイオマス発電といった安定的な発電ができる再生可能エネルギー。

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