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カーボンニュートラルに向けた日本の国際的立ち位置

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2021.1.28

サステナビリティ本部石田裕之

環境・エネルギートピックス
2020年10月26日に菅総理が所信表明演説の中で2050年にカーボンニュートラル(以下、CN)を目指すことを宣言した。世界ではこれまで120を超える国・地域が2050年までのCNにコミットしている。今後、各国がCNに向けた取り組みを進めるが、社会的・地理的条件などその国情は大きく異なる。CNの達成に向けてはそれぞれの国情を踏まえた上で適切な戦略を構築する必要があり、本稿では主にエネルギー需給の観点から日本の国情・国際的な立ち位置を分析※1する。

カーボンニュートラル宣言国のCO2排出量と日本の排出構造

日本のエネルギー起源CO2(以下、エネ起CO2)排出は2018年度に10.7億トンであり、これは2050年までのCNを宣言している国(以下、2050CN宣言国)の中で最も多い(図1)。10.7億トンのエネ起CO2のうち電力由来排出は4.6億トン、非電力由来排出は6.0億トンであり約6割が非電力由来である。非電力由来排出の内訳は産業:運輸:民生でおおむね 3:2:1の比率での排出となっている。さらに産業・運輸のうち、一般的に脱炭素化の難易度が比較的高いとされる鉄鋼業および貨物の排出は、それぞれのセクターで4割程度を占めている。日本ではこれらの排出を2050年までに全体としてゼロにしていくことが求められる。以降では電力・非電力セクターそれぞれについて、国際的にみた日本の立ち位置を分析・考察する。
図1 2050CN宣言国のエネ起CO2排出と日本の排出構造(2018年)
図1 2050年カーボンニュートラル宣言国のエネルギー起源CO2排出と日本の排出構造(2018年)
出所:IEA CO2 Emissions from Fuel Combustion Statistics※2、総合エネルギー統計をもとに三菱総合研究所作成

電力セクターにおける火力発電比率・総発電量の国際比較

足元の日本の発電に占める火力発電比率は約8割である。CN達成に向けて特に電力セクターでは早期の脱炭素化が求められる中、現状約8割を占める火力発電からの排出を削減していく必要がある。世界に目を向けると2050CN宣言国は比較的火力発電比率が低い国が多いことが分かる(図2)。また、一国の総発電量が大きいほど、火力発電比率を下げるために絶対量として多くの脱炭素電源が必要とされる中、比較的発電総量が多く火力発電比率が高い国は非宣言国が多い。日本の総発電量は2050CN宣言国の中で最も高く、火力発電比率を減らすためには、再エネ・原子力といった技術的に確立した脱炭素技術のほか、技術的なイノベーションが必要とされるCCUS/カーボンリサイクル、水素/アンモニア発電の必要性も他の2050CN宣言国に比べて相対的に高いと考えられる。
図2 2050CN宣言国・非宣言国※3の火力発電比率と総発電量(2018年)
図2 2050年カーボンニュートラル宣言国・非宣言国の火力発電比率と総発電量(2018年)
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出所:IEA World Energy Statistics and Balances※4をもとに三菱総合研究所作成

非電力セクターにおける鉄鋼業・長距離輸送などの国際的比較

日本の非電力エネルギー消費における産業部門の比率は34%であり、これは2050CN宣言国のうち排出上位10カ国の中で最も高い比率である(図3)。10カ国の中で最も低い英国(16%)の2倍以上であり、産業構造の違いがエネルギー消費量にも表れている。

また、産業部門の中でも特に鉄鋼業、そして運輸部門における貨物自動車・航空・船舶は一般的に排出削減が難しく、水素利用など技術的イノベーションが期待されるセクターである。日本は産業部門に占める鉄鋼業のエネルギー消費も排出上位国の中で最も高く、また運輸部門に占める貨物自動車・航空・船舶の比率も他の排出上位国と同等の水準である。非電力セクターにおいても、日本の排出削減に向けては脱炭素燃料を中心とした技術革新が特に求められる。
図3 2050CN宣言国のうち排出上位国における非電力セクターの国際比較※5
図3 2050年カーボンニュートラル宣言国のうち排出上位国における非電力セクターの国際比較※5
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出所:IEA World Energy Statistics and Balances※4、IEA Energy Efficiency Indicators Highlights 2020editionをもとに三菱総合研究所作成
以上の国際的なエネルギー需給構造の分析から、日本のCN達成に向けては、電力および非電力セクターいずれにおいても技術的に確立された脱炭素オプションのほか、技術的イノベーションなどによる排出削減が期待されることが分かる。逆に、他国と比較してそれだけの技術開発ニーズが日本には存在する可能性があるということであり、成長戦略として、経済と環境の好循環に向けて脱炭素社会実現を目指すことが重要である。

※1:EUは地域として2050CN宣言しているが、本分析は国単位で実施する。

※2:IEA(2021), "Detailed CO2 estimates", IEA CO2 Emissions from Fuel Combustion Statistics(database),
https://doi.org/10.1787/data-00429-en(閲覧日:2021年1月8日)

※3:世界各国のうち、IEAの統計でデータが取得可能な144カ国を対象とした分析。

※4:IEA(2021), "Extended world energy balances", IEA World Energy Statistics and Balances(database),
https://doi.org/10.1787/data-00513-en(閲覧日:2021年1月8日)

※5:右図(産業・運輸部門に占める鉄鋼業・長距離輸送等の比率)はIEA統計のデータ制約よりOECD加盟国のみを対象。

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