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国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2016)開催

IoTを支える技術

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2016.2.25

政策・経済研究センター白戸智

経済・社会・研究開発

■多様な応用が進むナノ技術

 去る1月27~29日に東京ビッグサイトで、世界最大のナノテク展示会である国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2016)、nano week 2016、第14回ナノテクノロジー総合シンポジウムJAPAN NANO2016が同時開催された。多様な分野の内外のナノ関係者が一堂に集まる年に一度の機会である。
 「ナノ(n)」は10-9を指す単位であり、ナノメートル(nm)は1mmの百万分の一、1マイクロメートル(µm)の千分の一となる。原子の大きさが10-10m(0.1nm)くらい、分子が1~10nm程度、話題のPM2.5は2.5µm以下の粒子であるから2,500nm以下の粒子となる。細菌なども同じようなオーダーである。
 一昔前にナノが話題となったのは、カーボンナノチューブ(CNT)やグラフェンなどのナノ単位の構造を持つ材料が発見、製造され、より集積度の大きな材料と比べて大きな導電性など、異なる性格を持つことが示された時であった。現在は、材料そのものに対する興味より、その多様な応用分野に対する関心が高まっている。電子回路とナノスケール、マイクロスケールの物理的機構を組み合わせたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems/微小電気機械システム)なども、有望な応用分野の一つである。
 28日のnano tech 2016の会場セッションでは、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一テーマである、生体の触覚機能などを応用した超微量物質の迅速・多項目センシングシステム(InSECT)について、進捗報告が行われた。空気中や大気中の細菌などの微細な物質が、受容部から微細なチャネルを通して運ばれ、測定部の微細な穴(マイクロポア)を通過する際の電流量の変化から、どのような物質なのかが分析される。類似物質の判定の際には、電流量変化をAIに学習させることにより、物質間の差異の検知精度が向上する。例えば細菌検知のために構築されたセンサーのコア部分は2cm四方程度のサイズまで小型化され、実応用の際のシステム全体の大きさもかなりの小型化が図られるという。同プロジェクトの、数nm程度の大きさの有害低分子(爆薬、神経ガス、アルデヒドなど)の検知においては、対象物質と結合性の高いペプチド部分だけを合成し、センサーに組み込む技術も開発中である。
 「産業応用へナノサイエンスとテクノロジーの新展開」セッションでは、東京大学野地博行教授のデジタルバイオ分析とその発展についての講演が興味深い内容であった。野地教授が開発したのは、生化学的反応を樹脂の微小な穴(チャンバー)の中で発生させ、発生する蛍光の数を輝点として光学的に直接カウントする仕組みであり、CMOSセンサーと直結することにより、大幅な小型化が図れるという。採択を受けたImPACTプログラムのプロジェクトの中で、DNAの合成と選択などから、人工細胞開発につなげていきたいとのことである。
 展示では、リコーが開発中の、バイオ3Dプリンターが目を引いた。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトとして開発が進められているもので、生きている細胞を3Dプリンティングすることにより、将来的には再生臓器などの製造につなげようというものである。既に、射出後の細胞の生存まではクリアしているとのことであった。バイオ分野と工学の多面的な融合が始まっていることが実感された。

■IoT社会への前進

 29日に開催された第14回ナノテクノロジー総合シンポジウムJAPAN NANO2016では、パワーエレクトロニクス、ナノエレクトロニクス、自動運転に関するセッションが開かれた。
 パワー・デバイス(電力用半導体素子)は、電力機器の電力制御用に用いられる半導体素子であり、電気自動車(EV)やメガソーラー、マイクログリッドなどにおいても重要な役割を果たす部品である。機構的にはトランジスタとダイオードの組み合わせであり、従来素材としてはシリコン系がメインであったが、近年、シリコンカーバイド(SiC)、ガリウムナイトライド(GaN)系の素子が注目を集めている。ナノとのかかわりで言えば、例えば、GaN系トランジスタの製造では、超微細なナノ加工技術が性能向上のカギを握っている。
 ナノエレクトロニクスでは、CMOS(システムLSI)のナノ加工技術による革新や、コンピュータ内配線の光子伝達、電圧による磁気スイッチング技術のメモリ応用などが紹介された。いずれも今後のコンピューティング・デバイスの小型化、高速化に重要なカギとなる技術である。光子伝達について講演した東京大学の荒川泰彦教授は、LSIの小型化やコンピュータ内配線の光子化によって、20年後に現在のスーパーコンピュータの性能が野球ボール大にコンパクト化されるという見通しを示していた。
 自動運転のセッションでは、Google、東芝、元豊田中央研究所の名古屋大学二宮芳樹モビリティ部門長から、現在の自動運転関連技術の開発状況についての紹介があった。実環境での走行試験についてはGoogleの取り組みが世界的に先行しているところであるが、日本の取り組みにおいても、周辺環境の識別などにはAIによるディープラーニングが取り入れられ、急速な進化をしている状況がうかがわれた。ナノとの関わりでは、レーザーやライダーと呼ばれるセンサーの高性能化にナノ加工技術が直接の関係を持つ。
 3つのセッション、あるいは今回の展示全体を通してみると、世界がいわゆるIoT(インターネット・オブ・シングス)に向かって猛然たる勢いで進んでいることがわかる。ナノ技術は低廉、多様なセンサーの開発、それらのネットワーク化、コンピューティング・デバイスの小型化、効率的なエネルギー・マネジメントなど、見えない場所で、IoTをささえる大きな原動力となっている。コンピューティング・デバイスの小型化、高性能化は、自動車、モバイル機器、家電、ロボットなどへのAIの分散配置を可能とし、これまでのクラウド化の流れに対して、分散配置の新たな流れを生み出すだろう。その多様な選択可能性が、高度技術利用のハードルを下げ、幅広い社会変革に貢献していくに違いない。
 半導体など、ナノ技術の開発は日本のお家芸の一つであった。先端分野との融合を図りつつ、目先にとらわれない、長期的な視点の研究開発支援で、これからの成長の原動力を育てていきたい。
ImPACTプログラム“InSECT”プロジェクトの全体像
ImPACTプログラム“InSECT”プロジェクトの全体像
出所:国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)