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TPP、RCEPを包括するFTAAPがもたらす効果

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2016.2.29

政策・経済研究センター東暁子

海外戦略

FTAAPの概要

2015年10月に、日本を含む計12カ国が参加するTPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋パートナーシップ)協定が大筋合意に至り、2016年2月には12カ国が協定文書に署名した。また2月段階で日本を含む16カ国が参加するRCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership:東アジア地域包括的経済連携)が交渉中となっており、アジア太平洋地域における広域のEPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)形成の動きが進んでいる。そして、さらにTPP、RCEPの双方を包括する広範囲の自由貿易圏として、FTAAP(Free Trade Area of the Asia-Pacific:アジア太平洋自由貿易圏)が提唱されている。

FTAAP はAPEC(Asia-Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力)加盟国間に自由貿易圏を形成するという構想である。APECとは、主に貿易・投資分野に関する、アジア太平洋州の国・地域(エコノミー)から構成される経済協力枠組みである。1989年にオーストラリア首相より、アジア太平洋地域の経済発展と地域協力のための会合の創設が提案され、同年に第1回APEC閣僚(外相・貿易担当相)会議がオーストラリアのキャンベラで開催された。当初のメンバーは日本を含む計12の国・地域であり、その後メンバーは増え続け、現在では図1、表1が示すように、ロシアも含む21の国・地域になっている。
図1 APECのメンバー国・地域
図1 APECのメンバー国・地域
出所:財務省ホームページより
https://www.mof.go.jp/customs_tariff/trade/international/apec/apec_economies.pdf
表1 APECのメンバー国・地域の加盟年
加盟年 加盟国・地域
1989年 オーストラリア、ブルネイ、カナダ、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、米国
1991年 中国、中国香港*、チャイニーズ・タイペイ
1993年 メキシコ、パプア・ニューギニア
1994年 チリ
1998年 ペルー、ロシア、ベトナム
*中国への返還後は、「中国香港」と称している
出所: 経済産業省ホームページより作成

FTAAPの進展

FTAAPは2006年のAPEC首脳会議において提案された自由貿易圏の構想である。この会議において、長期的な展望としてアジア太平洋の自由貿易圏を形成し、そのための方法および手段について研究を実施するということで、各首脳の意見が一致した。

2010年に横浜で開催されたAPEC首脳会議の首脳宣言においては、「APECの地域経済統合の課題を進展させるための主要な手段であるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に向けて具体的な手段を取る」ことが決定された。また、「FTAAPは中でもASEAN+3※1、ASEAN+6※2および環太平洋パートナーシップ(TPP)協定といった、現在進行している地域的な取り組みを基礎としてさらに発展させることにより、包括的な自由貿易協定として追求されるべきである」ということを確認している。そしてFTAAP構想の追求に貢献すべく、APECは投資、サービス、電子商取引、原産地規制、基準及び適合性、サプライチェーン・コネクティビティ(国際物流円滑化)を含む貿易円滑化などの分野において分野別取り組みを継続し、さらに発展させていくことも明記している。

2014年に北京で開催されたAPEC首脳会議では、「首脳宣言付属書A」として、「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現に向けたAPECの貢献のための北京ロードマップ」が採択・承認された。そして、同文書では、「FTAAP実現に関連する課題にかかる協働の戦略的研究」を始めることが決定された。この戦略的研究は、APEC貿易・投資委員会※3と高級実務者会合※4が毎年進展をレビューし、コンセンサスに基づくあらゆる提案を含む報告書を完成させ、2016年末までに閣僚および首脳に提出することとなっている。

このように、FTAAP構想に基づくアジア太平洋地域の自由貿易圏の実現についてはまだ 具体的なスケジュールが設定されるには至っていないが、TPPやRCEPなどの既に進行している地域的な経済連携協定の上にFTAAPを形成していくという基本方針については、APECでは合意がなされている。またFTAAP構想の実現に向けた研究は、APEC内で具体的な担当機関により管理され、その進捗状況についてスケジュールを設定して確認していくことが決められている。今後TPPやRCEPなどの既存の経済連携協定の進捗に応じて、FTAAP構想の実現に向けても具体的な提案が行われていくようになるだろう。

FTAAPがもたらす効果

FTAAPは関税やサービス貿易の障壁などの削減・撤廃を目的とする自由貿易協定であり、TPPやRCEPのように経済のさまざまな分野にわたるEPAではない。そのため、実現した場合にもその効果はEPAよりも限定されたものとなる。しかし、アジア太平洋地域からロシアに至る広範囲な地域が対象となるため、関税やサービス貿易の障壁の削減・撤廃にとどまるものであっても、比較的大きな効果が期待できる。

APECはアジア太平洋地域における貿易・投資の自由化の推進にとどまらず、WTOによる世界の貿易自由化にも協力していく姿勢を示している。2010年6月に日本で開催されたAPEC貿易担当大臣会合および11月の閣僚会議では、WTOドーハ・ラウンドの早期妥結と保護主義の抑止に関する独立声明が出された。2013年にインドネシアで開催されたAPEC首脳会議では、「多角的貿易体制への支持及び第9回WTO閣僚会議(MC9)に関する独立文書」が出され、WTOを支持するAPECの姿勢が強く表明された。将来アジア太平洋地域においてFTAAP構想が実現すれば、さらに広範囲にわたる地域間の貿易自由化の動きにもつながっていくだろう。
図2 日本を取り巻くEPA・FTAの枠組み
図2 日本を取り巻くEPA・FTAの枠組み
注:現在TPPには11カ国ではなく日本を含む計12カ国が参加し、協定文書に署名している。
出所:経済産業省ホームページより
http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/east_asia/activity/about.html

※1:ASEAN10カ国、日本、中国、韓国の計13カ国。

※2:ASEAN10カ国、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インドの計16カ国。

※3:APECに加盟している各エコノミーの貿易・投資政策の事務担当者による委員会。

※4:APECに加盟している各エコノミーの事務責任者(外務省・対外経済関係省から任命される)による会合。