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経済連携協定が日本にもたらす経済効果

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2017.1.24

政策・経済研究センター 主任研究員東暁子

経済・社会・技術
 今月20日に就任したトランプ米大統領は、米国はTPP(Trans-Pacific Partnership:環太平洋パートナーシップ)協定から離脱し、二国間貿易協定を進めていくという方針を表明している。TPPは2016年2月には参加12カ国の署名に至っているが、米国の離脱により発効はほぼ不可能となる。

 TPP以外にも日本が参加し、交渉を進めてきている広域の経済連携協定としては、RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnership:東アジア地域包括的経済連携)が挙げられる。RCEPはASEAN+6とも言われるように、日本・中国・韓国・インドのアジア諸国と豪・ニュージーランドにASEAN全10カ国を加えた16カ国が参加しており、このうち日本、マレーシア、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、豪、ニュージーランドの7カ国はTPPとRCEPのどちらにも参加している。RCEP域内のGDPは世界全体の約3割に該当する約20兆ドルに達し、人口では約34億人と、世界の約半分の規模となる。

 今回、EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)・FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)の効果分析に国際的に広く使用されているCGE(応用一般均衡)モデルであるGTAPモデルを用いて、TPPとRCEPによる関税撤廃・非関税障壁削減の経済効果について試算を行った。図はTPPとRCEPがそれぞれ各国の実質GDPに与える影響に関する試算結果を示したものである。試算結果によれば、経済連携協定に参加した国ではいずれも実質GDPは増加し、特にアジア諸国での経済効果は大きい。また経済連携協定に加盟していない国では、実質GDPにはマイナスの影響が生じることが示される。日本の実質GDPにおける押し上げ効果は、TPPでは約0.2%、RCEPでは約0.6%に達する。どちらの場合も日本の実質GDPにはプラスの効果が見られるが、ASEAN全体や中国、インドやその他のアジア諸国を含むRCEPの方が、日本にとってより大きな経済効果をもたらすことが見込まれる。

 多国間の経済連携協定の交渉が全面的に合意に至り、発効するまでには時間を要する。昨年11月にペルーで開催されたAPEC(Asia-Pacific Economic Cooperation:アジア太平洋経済協力)首脳会議では、参加21カ国・地域による自由貿易圏であるFTAAP(Free Trade Area of the Asia-Pacific:アジア太平洋自由貿易圏)形成には、TPPやRCEPを含めたさらに広範囲な地域的取り組みを基礎とするという長期的なAPECの方針を再確認している。日本は「自由貿易か保護主義か」「中国かアメリカか」といった二元論にとらわれすぎず、より大きく長期的な視野に基づいて冷静に状況分析を行い、各国と協調して経済連携協定の交渉を進めていくことが重要だろう。
TRR・RCEPの各国の実質GDPへの影響
出所:三菱総合研究所による試算