新型コロナウイルスは経済・社会に甚大な被害をもたらしている。特に4月からの緊急事態宣言下では、外出できない、出社できない、営業できないという強い制約が突如加わったことで、そのなかでどう生活・仕事・営業を継続していくか、従来の既成概念の枠を取り払って柔軟に考える力が試されている。
19世紀後半のドイツの宰相ビスマルクは「賢者は歴史に学ぶ」との名言を残したが、実際には、筆者も含めて「自分が生きてきた時間軸内での経験」にしか学べていない、という面が往々にしてある。今回の新型コロナ危機でそれを痛感している。ひとつ例を紹介しよう。図1は米国における雇用者数の前月からの変化である。米国はまだ人口が増加しており、経済も2%程度の成長を続けていることから、平均すると毎月20万人くらいずつ雇用者数が増加している。しかし、米証券大手のリーマン・ブラザーズが破綻した2008~2009年の世界金融危機時には雇用者数が減少に転じた。その時期の減少幅は、最大で80万人程度であった。
19世紀後半のドイツの宰相ビスマルクは「賢者は歴史に学ぶ」との名言を残したが、実際には、筆者も含めて「自分が生きてきた時間軸内での経験」にしか学べていない、という面が往々にしてある。今回の新型コロナ危機でそれを痛感している。ひとつ例を紹介しよう。図1は米国における雇用者数の前月からの変化である。米国はまだ人口が増加しており、経済も2%程度の成長を続けていることから、平均すると毎月20万人くらいずつ雇用者数が増加している。しかし、米証券大手のリーマン・ブラザーズが破綻した2008~2009年の世界金融危機時には雇用者数が減少に転じた。その時期の減少幅は、最大で80万人程度であった。
図1 米国の雇用者数(非農業部門、季節調整済み前月差)
このグラフの時間軸の先に待っていたのが、新型コロナ危機だ。米国では感染者数が3月半ば以降に爆発的に増加、全国的に外出・営業規制が実施され、経済が甚大な損失を受けた。ニューヨークでの感染爆発など深刻な米国の状況は報道などでも伝わってきており、労働市場の流動性が高い米国では、雇用者数が大幅な減少になることは容易に予想ができた。しかし、実際に発表された4月の減少幅は、予想をはるかに上回る2,000万人であった(図2)。過去の世界金融危機時の状況が頭に入っていると、悪くても世界金融危機時の2倍の200万人くらい、といった思い込みによる下限が設定される。何もよりどころがないよりはよいが、「自分が生きてきた時間軸内での経験」から悪くてもこれくらいとタカをくくることは危険だ。対応が後手後手に回る可能性がある。
図2 米国の雇用者数(非農業部門、季節調整済み前月差)