本コラムは、消費の回復ぶりについて日米欧の差に着目し、その背景を探った。
要約すると、米国で消費の回復が早かった要因は、①ワクチンの普及、②大規模な財政措置の2つである。米国は、国を挙げてワクチン開発を行うとともに、現金給付や手厚い失業給付を実施し、一時2,000万人に達した失業者の生活を支えた。ワクチン接種が加速するタイミングでも、第2弾、第3弾の現金給付を行い、消費は1年あまりでコロナ危機前の水準を回復した。大規模な財政措置には、①財政赤字の大幅な拡大につながった点や、②失業時の所得増加を背景とする失業の長期化により人的資本が陳腐化し構造失業が増加した可能性がある点など、負の面もあるが、消費に関してはプラスに働いた。
今回の消費二極化分析から示唆される日本の危機対応への政策的な教訓は、大きく2つある。
第1に、財政面での備えである。今回のような危機時には大規模な財政出動が必要になる。日本は、コロナ対策費を主に国債で賄っているが、今後、債務が持続不可能な水準に達し、国債による安定的な資金調達がままならない状況に陥ってしまえば、危機時に必要な財政出動も行えないどころか、財政不安から長期金利が急騰する事態にもなりかねない。IMFによれば、日本の政府債務残高はコロナ危機前の2019年時点でもGDP比230%程度と、コロナ危機による大規模な財政出動後である2020年の米国の130%程度を、大きく上回っている。東日本大震災や度重なる豪雨被害、そして今回のパンデミックと、定期的に大規模な災害に見舞われることを前提として、「平時」に財政健全化を着実に進める仕組みをビルトインしていくことが重要だ。
第2に、行政のデジタル化の推進である。行政のデジタル化の目的のひとつは、今回のような大規模な災害時に、真に困っている人・企業に重点的かつ機動的に給付を行う体制を整えることである。財政がひっ迫している日本だからこそ、限られた財源を最大限有効に活用することが求められる。米国では、確定申告時の所得や口座情報など既存のインフラを活用し、現金給付は迅速に行われた。次の危機に備え、行政のデジタル化を進めることが求められる。
感染症は世界各地で比較的頻繁に発生しており、今後も新型コロナのようなパンデミックが起こる可能性は残る。本コラムでは消費行動からみた日米欧の違いに絞って議論してきた。世界各国が実施した手探りでのコロナ対応に対するレビューをしっかりと行い、そこから得られた教訓を、将来起こりうるパンデミックなど次なる危機への対応に生かしていくことが大切である。