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内外経済見通し

ウィズコロナ下での世界・日本経済の展望|2020年8月

2020~2021年度の内外経済見通し

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2020.8.18

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を踏まえ、4月6日に「新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響と経済対策提言」を、5月19日に「新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響」を発表してまいりました。今回は8月半ばまでの状況を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表いたします。
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要旨

世界経済

世界経済は4月をボトムに持ち直しの動きがみられる。新型コロナウイルス感染症の第一波を抑え込むための厳格な防疫措置が5月以降、徐々に緩和されつつあるほか、各国で打ち出されている積極的な財政・金融政策が、コロナ禍の世界経済の下支えとなっている。ただし、7-9月期以降の世界経済の持ち直しペースは鈍化するとみている。新興国に加え先進国でも感染が再拡大しており、防疫措置を再強化せざるを得なくなるなかで、コロナ禍での雇用・所得環境の悪化や債務返済負担の増加が景気回復の重しとなるためだ。
今後の世界経済・日本経済の見通しは、下記の3つのシナリオで提示する(シナリオの詳細は総論P.7参照)。前回5月の見通しでも3つのシナリオを提示したが、最も楽観的なシナリオとして提示した「5月末までの強力な経済活動抑制による再流行の回避」は実現できなかった。したがって今回は、ワクチンや特効薬の普及率が高まらない限り感染拡大は避けられず、一定の防疫措置が継続されることを前提とする。今後の世界の感染状況やそれを踏まえた各国の政策対応の変化など、先行きの不確実性は極めて大きく、3つのシナリオに基づく予測も幅をもってみる必要がある。
シナリオ①:ロックダウンのような厳格な防疫措置は回避するも、感染リスクの高い地域や活動への重点規制と緩和を繰り返しながら、21年末にかけて一定の防疫措置を継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.0%、21年は同+4.2%
— 世界の実質GDPが、コロナ前(19年末)の水準を回復するのは21年末
シナリオ②:シナリオ①による防疫措置では感染拡大の加速や重症者の増加を抑えきれず、防疫措置の強化と緩和を繰り返しながらも、平均的には防疫措置の厳格度を一段と強める
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.2%、21年は同+1.8%
— 世界の実質GDPが、コロナ前の水準を回復するのは22年半ばに後ずれ
シナリオ③:ワクチンや特効薬の開発に成功し一般に本格的に普及することで、経済活動への制約を大幅に緩和(※21年半ば以降に先進国と中国でワクチン接種が進むと想定)
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.0%、21年は同+4.8%
— 世界の実質GDPが、コロナ前の水準を回復するのは21年後半に前倒し
上記シナリオに含まれないリスクシナリオとして、第一に金融危機への発展がある。世界的な景気後退局面にもかかわらず、大規模な財政・金融政策などを背景に、金融市場では過度に楽観的な期待が形成されている可能性が高い。実体経済の一段の下振れなどを契機に、コロナ禍で歴史的な高水準にある債務が不良債権化し、金融システム不安につながるリスクが高まっている。第二は、米中対立の一段の激化だ。香港や台湾を巡る政治的対立も重なり、米中対立は修復不能なまでに悪化している。今後の米中関係は米大統領選に左右される。バイデン政権の対中姿勢は厳しいながらも敵対姿勢の緩和が予想される一方、トランプ政権が継続すれば中国金融機関のドル取引制限など一線を越えた制裁に踏み切る可能性もあり、中国の報復措置も含め世界経済の下振れリスクとなる。

日本経済

日本経済は、緊急事態宣言が発令された4-5月の深い景気の落ち込みから、6月以降は持ち直しの動きがみられる。ただし、7月以降は新型コロナの新規感染者数が、4-5月の第一波を上回って拡大しており、一部地域では防疫措置を再強化する動きもみられる。

先行きの注目点は、雇用・所得環境の行方だ。コロナ禍による失業や所得減の影響は、非正規雇用や低所得層に集中しており、コロナ前からの雇用・所得格差がさらに広がったとみられる。当社が7月下旬に実施した生活者5,000人調査によると、低所得層ほどコロナ禍での収入減少率が大きい。所得が減少した世帯では、1年後、2年後の収入も引き続き減少すると見込んでおり、コロナ禍の長期化・深刻化による収入減少世帯の拡大は、消費の下振れ要因となる。なお、1人当たり10万円の特別定額給付金は、12.7兆円の給付総額のうち消費の押し上げ効果は3.5兆円程度(GDP比+0.7%ポイント)と一定の経済効果は見込まれるが、財源対比で消費に回った割合は3割にとどまっており費用対効果は低いほか、生活保障の観点では真の生活困窮者への支援が不十分な可能性がある。

20年度の実質GDP成長率は、シナリオ①、②ともに前年比▲7%前後の大幅なマイナス成長を予測する。21年度は、シナリオ①では同+3%台半ばの回復を見込むが、シナリオ②では同+2%程度にとどまるだろう。

米国経済

米国経済は4月末以降、緩やかに持ち直しつつあるが、新型コロナの感染者数が6月半ば以降に急拡大しており、一部の州では防疫措置を再強化している。ウィズコロナ下で構造的に失われる雇用は、娯楽業、飲食・宿泊業を中心に800万人(雇用者全体の5%)に達する見込み。財政面での下支え効果も20年末にかけて徐々に縮小が予想される。

20年の実質GDP成長率は、シナリオ①、②ともに前年比▲5%台後半のマイナス成長を予測する。21年はシナリオ①では同+3%程度の回復を見込むが、シナリオ②ではほぼゼロ成長にとどまるだろう。なお、11月に実施される大統領選では民主党のバイデン候補が勝利することを前提に予測を作成しているが、コロナ禍で財政制約も強まっており、政権前半の公約実現は限定的とみている。

欧州経済

欧州経済は、南欧を中心に4-6月期は前期比▲10%を超える大幅なマイナス成長となった。5月以降は防疫措置の緩和とともに経済活動も再開しているが、低水準での推移が続く。政府の雇用維持政策などから失業率の上昇は小幅にとどまっているが、労働時間は大幅に減少している。新規感染者数が第一波に比べ低水準で推移しているとはいえ、感染リスクが残るなかでフィジカルディスタンスを確保しながらの経済活動を余儀なくされており、欧州経済は緩やかな回復にとどまる見込み。欧州5カ国の20年の実質GDP成長率は、シナリオ①、②ともに前年比▲10%程度を見込む。21年はシナリオ①では同+5%程度を予想するも、シナリオ②では同+2%程度にとどまるだろう。

中国経済

中国の国内感染はほぼ終息しており、4-6月期は前年比+3.2%のプラス成長に復するなど、世界に先んじて経済活動を正常化させつつある。ただし、政策面での後押しによる投資増加の影響が大きく、消費は前年割れが続いている。投資主導の経済成長は、コロナ前からの不良債権問題をさらに悪化させるほか、不動産市場をはじめ過剰投資への対応が今後の中国経済の重しとなる。20年の実質GDP成長率は、シナリオ①、②ともに前年比+1%程度とマイナス成長は回避すると予想する。21年はシナリオ①では同+8%程度を予想するが、シナリオ②では同+5%台半ばにとどまるだろう。

新興国経済

その他の新興国・途上国では感染が総じて拡大傾向にある。先進国に比べて医療体制や衛生状態に課題が多く、一部業種での事業所封鎖指示など経済活動への一定の制約は長期化する見込み。国際金融市場における新興国からの資金流出圧力は、6月以降は落ち着いているものの、感染拡大などにより新興国の成長が一段と下振れれば、資金流出圧力が再び強まるだろう。新興国経済の成長率は、内外需の下振れを背景に、軒並み世界金融危機時を超える落ち込みを予想する。

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