世界経済は4月をボトムに持ち直しの動きがみられる。新型コロナウイルス感染症の第一波を抑え込むための厳格な防疫措置が5月以降、徐々に緩和されつつあるほか、各国で打ち出されている積極的な財政・金融政策が、コロナ禍の世界経済の下支えとなっている。ただし、7-9月期以降の世界経済の持ち直しペースは鈍化するとみている。新興国に加え先進国でも感染が再拡大しており、防疫措置を再強化せざるを得なくなるなかで、コロナ禍での雇用・所得環境の悪化や債務返済負担の増加が景気回復の重しとなるためだ。
今後の世界経済・日本経済の見通しは、下記の3つのシナリオで提示する(シナリオの詳細は総論P.7参照)。前回5月の見通しでも3つのシナリオを提示したが、最も楽観的なシナリオとして提示した「5月末までの強力な経済活動抑制による再流行の回避」は実現できなかった。したがって今回は、ワクチンや特効薬の普及率が高まらない限り感染拡大は避けられず、一定の防疫措置が継続されることを前提とする。今後の世界の感染状況やそれを踏まえた各国の政策対応の変化など、先行きの不確実性は極めて大きく、3つのシナリオに基づく予測も幅をもってみる必要がある。
シナリオ①:ロックダウンのような厳格な防疫措置は回避するも、感染リスクの高い地域や活動への重点規制と緩和を繰り返しながら、21年末にかけて一定の防疫措置を継続
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.0%、21年は同+4.2%
— 世界の実質GDPが、コロナ前(19年末)の水準を回復するのは21年末
シナリオ②:シナリオ①による防疫措置では感染拡大の加速や重症者の増加を抑えきれず、防疫措置の強化と緩和を繰り返しながらも、平均的には防疫措置の厳格度を一段と強める
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.2%、21年は同+1.8%
— 世界の実質GDPが、コロナ前の水準を回復するのは22年半ばに後ずれ
シナリオ③:ワクチンや特効薬の開発に成功し一般に本格的に普及することで、経済活動への制約を大幅に緩和(※21年半ば以降に先進国と中国でワクチン接種が進むと想定)
— 20年の世界経済成長率は前年比▲4.0%、21年は同+4.8%
— 世界の実質GDPが、コロナ前の水準を回復するのは21年後半に前倒し
上記シナリオに含まれないリスクシナリオとして、第一に金融危機への発展がある。世界的な景気後退局面にもかかわらず、大規模な財政・金融政策などを背景に、金融市場では過度に楽観的な期待が形成されている可能性が高い。実体経済の一段の下振れなどを契機に、コロナ禍で歴史的な高水準にある債務が不良債権化し、金融システム不安につながるリスクが高まっている。第二は、米中対立の一段の激化だ。香港や台湾を巡る政治的対立も重なり、米中対立は修復不能なまでに悪化している。今後の米中関係は米大統領選に左右される。バイデン政権の対中姿勢は厳しいながらも敵対姿勢の緩和が予想される一方、トランプ政権が継続すれば中国金融機関のドル取引制限など一線を越えた制裁に踏み切る可能性もあり、中国の報復措置も含め世界経済の下振れリスクとなる。