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内外経済見通し

ウィズコロナ下での世界・日本経済の展望|2021年5月

2021~2022年度の内外経済見通し

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2021.5.19

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大を踏まえ、経済対策提言や世界・日本経済の見通しを随時発表してきました。今回は5月半ばまでの世界経済・政治の状況、および日本の2021年1-3月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

コロナ危機からの経済の回復は、国・地域ごとの感染状況や経済対策の違いを映じて、ばらつきが大きくなっている。21年1-3月期に成長が加速したのは米国だ。大型経済対策やワクチン普及などから内需が伸び、GDPの水準はコロナ危機前(19年10-12月)近くまで回復した。一方で、欧州と日本はマイナス成長となった。感染力が強い変異株の拡大もあり、防疫措置の強化を余儀なくされた。

21年の世界経済は、前年からの反動と財政・金融政策支援により高めの成長を見込む。22年は、政策効果の剥落から成長ペースは鈍化するものの、先進国中心とするワクチン普及などから、徐々に自律的な回復へとシフトするだろう。22年までの世界経済を展望する上での注目点は、次の3点である。

第一に、経済活動正常化の時期である。ワクチン接種ペースの速い米国・英国では、21年の夏頃にはワクチン接種と感染による免疫保有者が人口の7割以上に達する、いわゆる集団免疫の達成が見込まれる。変異株へのワクチンの有効性や副反応など不透明な点は多いが、現状のペースでワクチン接種が進めば、22年半ばには集団免疫を達成する国が世界の70%(GDP比)を超えてくるだろう。国・地域によるばらつきを伴いつつも、段階的に経済活動の正常化が進む局面に入る。

第二に、財政・金融政策の行方である。段階的に経済の自律的な回復力が高まるなかで、既往の大規模な財政・金融政策の段階的な見直しが予想される。特に米国は、21年半ばにGDPギャップがプラスに転じるとみられ、インフレ圧力や金利上昇への懸念が強い。財政・金融政策の軸足は、危機下の緊急支援から、中長期的な経済の安定的成長へと段階的にシフトさせていくことが必要となるだろう。

第三に、戦略物資の調達構造の見直しである。対中警戒を強める米政権は、半導体など4つの戦略物資についてサプライチェーンの見直しを進める。EUも、中国などへの輸入依存度が高い品目を特定した上で、蓄電池や原材料など戦略的に重要な分野で、官民協働で域内技術力の強化やサプライチェーンの多角化を図る。米欧以外の国も含め、経済安全保障上の重要な分野での調達構造見直しの動きが強まるだろう。

これらを踏まえ、世界経済の実質GDP成長率は、21年が前年比+5.6%(前回2月見通しから+1.0%ポイント上方修正)、22年が同+3.5%(同▲0.4%ポイント下方修正)と予測する。実質GDP水準がコロナ危機前(19年末)を回復するのは、21年半ばと予測する。

先行きのリスクは、第一に、ワクチンの効かない変異株の流行などによる強力な経済活動抑制の継続だ。第二に、財政・金融政策の副作用である。資産価格上昇やインフレが過度に進んだ場合、現在の市場の予想よりも金融政策の修正が早まり、資産価格の大幅調整や、金利上昇による債務負担増加などが想定される。第三に、米中間の対立軸の拡大である。中国が半導体サプライチェーンの要諦を握る台湾などへの関与を強めれば、米中間で地政学的な緊張が高まるおそれがあり、国際的な企業活動への打撃も大きい。

日本経済

日本経済は、米中向け輸出は堅調も、感染拡大による防疫措置強化を受けて内需が悪化しており、21年1-3月期はマイナス成長となった。4-6月期の回復力も力強さを欠く見込み。欧米に比べてワクチン接種ペースが遅く、少なくとも21年中は感染拡大が継続するなかで一定の経済活動抑制を余儀なくされるだろう。22年は、ワクチンの普及などにより経済の自律的な回復力が高まってくるとみられ、財政面からの支援が段階的に縮小されるなかでも、潜在成長率を上回るペースでの回復を見込む。

実質GDP成長率は、21年度は同+3%程度、22年度は同+1%台後半と予測する。コロナ危機前の水準(19年10-12月)を回復する時期は、中国(20年4-6月)や米国(21年4-6月)と比べて遅く、22年半ばとなろう。

米国経済

米国経済は、ワクチン普及による防疫措置の緩和に加え、大規模な財政出動もあり、コロナ危機からの回復ペースが加速している。4-6月期にはコロナ危機前の水準を上回り、GDPギャップもプラスに転じる見込みだ。21年夏頃には集団免疫を達成する見込みであり、経済活動の正常化とともに、コロナ危機下で積み上がった貯蓄(約2.4兆ドル)の一部が消費に回ることが期待され、21年の実質GDP成長率は前年比+7%近い高成長を予測する。22年は、経済の自律的な回復力は高まるものの、財政・金融政策による経済下支え効果の段階的縮小が予想されることから、同+3%程度への成長鈍化を予測する。

なお、米国雇用計画および家族計画は今後議会での審議・修正を経て成立が見込まれ、22年の成長率を小幅に押し上げるとみる。いずれも長期計画であり単年での影響は小さいほか、財源確保のための増税が、政府支出増や中長期的な競争力向上による景気押し上げ効果を相殺する側面があるとみる。

欧州経済

欧州経済は、変異株の急拡大による防疫措置の強化を受けて、21年1-3月期にかけて2四半期連続でマイナス成長となった。4-6月期以降は持ち直しを見込むが、欧州経済の落ち込みは他の先進国と比べても大きく、若年層を中心とする失業の長期化などにより、雇用・所得環境の回復が遅れるとみる。欧州5カ国の実質GDP成長率は、21年は前年の反動もあり、前年比+4%台半ばの伸びを見込む。22年はワクチン普及などから経済活動の正常化が進み、同+3%程度の成長を予想する。コロナ危機前の水準を回復するのは22年後半となる見込み。

中国経済

中国経済は、コロナ危機下での生活様式変化によるデジタル関連財需要の増加などを背景に財輸出が好調に推移している。しかし、今後、ワクチン接種が進み世界的にサービス消費が回復に向かうとみられ、電気製品などの特需は剥落し、中国からの財輸出の伸びは徐々に鈍化していくだろう。米中対立による戦略物資を中心とするサプライチェーンの見直しも逆風となる。内需面では、緩和的な財政・金融政策によるインフラ投資等の増加が成長の下支えとなるものの、輸出の減速などから雇用・所得環境の改善ペースが鈍るとみており、消費は緩やかな回復にとどまるだろう。実質GDP成長率は、21年は前年の反動もあり、前年比+8%台半ばの高い伸び、22年は潜在成長率見合いでの同+5%台半ばを予想する。

新興国経済

新興国ではインドを中心に変異株による感染拡大が猛威を振るっており、低所得国を中心にワクチン普及の遅れによる経済活動抑制の長期化が予想される。また、米国の長期金利上昇等を受けて、一部の新興国では再び資金流出圧力が強まっている。今後、新興国経済は、ワクチン普及などによる先進国経済の段階的な正常化を背景に輸出主導での成長回復を見込むが、米国の金融政策の動きに注意が必要だ。22年にかけて量的金融緩和策の縮小の動きが本格化すれば、新興国からの資金流出圧力が強まり、インフレや通貨防衛のための利上げを強いられる可能性がある。

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