世界経済は、国や地域によるばらつきを伴いつつも、総じてコロナ危機による落ち込みから回復を続けている。欧米先進国では、ワクチン接種完了者比率が人口の6割を超えつつあり、防疫と経済活動の両立が進んでいる。一方で、世界経済の回復ペースは21年4-6月期に比べて7-9月期は減速した。部品・原材料不足の深刻化、資源価格の上昇、中国の電力不足による生産減速などが背景にある。
22年にかけての世界経済は、経済活動の正常化に伴う雇用・所得や消費の回復本格化を背景に、コロナ危機下での政策効果に支えられた回復から、自律的な回復へのシフトが本格化するだろう。そのうえで、コロナ危機からの世界経済の回復パスを左右する注目点は、次の3点である。
第一に、供給制約の解消時期である。供給制約を引き起こしている複数の要因のうち、①海上物流の逼迫と、②新興国での感染拡大によるサプライチェーンを通じた供給制約は、22年入り後に段階的に緩和されていくだろう。一方で、③半導体不足と、④人手不足は22年末にかけても継続を見込む。半導体の供給能力不足も、人材のミスマッチも、短期的には解消が難しいためだ。
第二に、消費の回復力である。22年にかけて経済活動の正常化とともに雇用・所得の回復本格化が見込まれるなか、コロナ危機下で積み上がった貯蓄が消費に回ることが予想される。ただし、人材の需給ミスマッチの長期化による雇用・所得環境の回復の遅れ、供給制約の長期化による物価上昇などを背景に、実質所得の回復ペースが鈍いものにとどまれば、消費の下振れ要因となろう。
第三に、米国の利上げ時期である。22年半ばに終了するとみられる資産買入規模の縮小の後、FRBが1回目の利上げに踏み切るのは22年後半となるだろう。経済活動の正常化が進むなかで、労働参加率の段階的な改善が予想されるためだ。期待インフレ率が一段と上昇した場合や住宅価格など資産バブルへの懸念が強まった場合には、利上げ時期が早まるだろう。
これらを踏まえ、世界経済の実質GDP成長率は、21年が前年比+5.1%(前回8月見通しから▲0.3%ポイント下方修正)、22年が同+3.7%(変更なし)と予測する。
先行きのリスクは、第一に、市場の想定よりも早い米国利上げによる金融市場の混乱である。米国の株価収益率は1929年の大恐慌前の水準を既に上回っており、金利急上昇が米国の割高な株価調整の引き金となる可能性がある。また、米国の金利上昇とそれに伴うドル高は、新興国市場からの資金流出を加速させ、世界経済の下振れ要因となる。第二に、債務問題の深刻化による中国経済の失速である。信用不安が高まる不動産セクターの債務処理は、当局監視のもと慎重に進められる見通しだ。ただし、秩序だった債務処理に失敗すれば、不動産セクター以外の健全な企業にも、資金繰り悪化や倒産が連鎖的に広がる可能性がある。中国経済の失速、さらには世界経済の下振れ要因となりかねない点に注意が必要だ。