世界経済は、国や地域によるばらつきを伴いつつも、総じてコロナ危機による落ち込みから回復の動きを続けている。欧米先進国では、ワクチン普及による重症化率の抑制などから防疫措置の緩和が進んできたが、世界的に変異株が拡大しており一部の新興国では防疫措置の強化を余儀なくされている。また、部品・原材料の不足や価格上昇も世界経済の回復ペースを鈍らせる要素となっている。
21年後半から22年にかけての世界経済は、コロナ危機下での政策効果に支えられた回復から、自律的な回復へのシフトが本格化するだろう。既存のワクチンが効きにくい新たな変異株の発現などのリスクを除けば、基本的には大規模な防疫措置の必要性は段階的に低下していくだろう。そのうえで、コロナ危機からの世界経済の回復パスを展望するうえでの注目点は、次の3点である。
第一に、財政・金融政策の行方である。経済が回復に向かうなか、既往の財政・金融政策の段階的縮小が予想される。特に、コロナ危機前(19年10-12月)のGDP水準を回復した米国では、21年末にかけて金融政策の出口への議論が本格化するだろう。当社では22年前半に資産買入規模の縮小開始、23年に利上げを想定するが、FRBが掲げる雇用最大化と物価安定の目標の達成状況次第で、そのタイミングは前後しうる。コロナ危機下で進行した失業長期化や非労働力化の回復状況、インフレ圧力の持続性に注目だ。
第二に、ポストコロナの構造変化への対応である。コロナ危機は、デジタルトランスフォーメーションやカーボンニュートラル実現への流れが世界的に強まる契機となった。こうした潮流の変化に対し、起業、新規事業や人材への投資、異業種間の連携・買収など、企業や国が事業構造の前向きな転換を実現できるかが今後の成長力を左右する。
第三に、米中対立を踏まえたサプライチェーンの見直しである。米中間の貿易はコロナ危機下でも活発に行われる一方で、今後の対立先鋭化に備えた各種法整備が米中両国で着々と進んでいる。今後、その運用状況を注視しつつ、経済安全保障上の重要物資の調達構造を見直す動きが各国で強まるだろう。
これらを踏まえ、世界経済の実質GDP成長率は、21年が前年比+5.4%(前回5月見通しから▲0.2%ポイント下方修正)、22年が同+3.7%(同+0.2%ポイント上方修正)と予測する。
先行きのリスクは、第一に、金融市場の不安定化である。米国金融政策の出口への動きが早すぎれば米国金利の急上昇により株式市場や新興国市場などからの資金流出が加速、遅すぎれば資産バブルや過剰な投融資を招き、その後の深い調整を余儀なくされる。第二に、産業構造転換の遅れである。過度な財政・金融緩和の副作用として、企業や事業の新陳代謝が阻害された場合には中長期的な成長力が鈍化する。第三に、米中間の対立軸の拡大である。中国が半導体サプライチェーンのかなめとなる台湾などへの関与を強めれば、米中間で地政学的な緊張が高まる恐れがあり、国際的な企業活動への打撃も大きい。