米国の大統領選では、民主党のバイデン候補が選挙人の過半数を獲得した。バイデン政権が誕生すれば、①新型コロナ感染症対策と経済再生、②大統領選を通じてあらわになった米国内の深刻な分断への対応、③経済再生の柱としての気候変動対策、が重点的に進められる方針だ。外交政策では、欧州など同盟国との関係修復とともに、対中国ではアプローチは変化しつつも強硬路線の継続が見込まれる。
世界経済は4-6月の大幅な落ち込みから持ち直しの動きをみせている。7-9月期の回復は、全体としては前回8月見通し時点の予測を上回るペースだが、回復のばらつきが鮮明化してきた。国レベルでは、中国が既にコロナ前のGDP水準を回復した一方で、感染拡大が高水準で続く欧米のGDPはコロナ前の水準を依然下回っている。業況や雇用・所得環境をみても、特定の層に影響が偏在している。
10-12月期以降は、世界経済の持ち直しペースが鈍化するだろう。欧米を中心とする感染拡大の加速に加え、雇用・所得環境の悪化や債務返済負担の増加が景気回復の重しとなるためだ。
今後の感染拡大ペースやワクチン/治療薬の普及時期等が不透明なことから、世界経済・日本経済の見通しは、3つのシナリオで提示する(シナリオの詳細は総論P.8参照)。引き続き先行きの不確実性は高く、世界経済の見通しは幅をもってみる必要がある。
①最も蓋然性が高いシナリオ:中国以外の国々では、21年春以降も感染拡大が継続し、感染リスクの高い地域や活動への重点規制と緩和を繰り返しながら、22年にかけて一定の防疫措置を継続。特に、高水準での感染拡大が続く欧州や米国では、季節的に感染リスクが高まる冬場を中心に、7-9月期に比べて経済活動の抑制度を再強化。
— 20年の世界経済成長率は前年比▲3.0%、21年は同+4.1%
— 世界の実質GDPが、コロナ前(19年末)の水準を回復するのは21年後半
②下振れシナリオ:上記①による経済活動の抑制では感染拡大ペースの加速や重症者比率の上昇を回避できず、経済活動の抑制度を恒常的に強めざるを得なくなる。欧州の一部で実施されている時限的な再ロックダウンの範囲が他国にも拡大/長期化し、再び強い経済活動抑制に逆戻りする。
— 20年の世界経済成長率は前年比▲3.2%、21年は同+2.6%
— 世界の実質GDPがコロナ前の水準を回復するのは22年前半に後ずれ
③上振れシナリオ:新型コロナ感染者の重症化を防ぐ治療法の確立、ワクチンや特効薬の一般普及により、重症化・死亡リスクが低下する。21 年半ば以降、先進国を中心に経済活動への制約がより緩和され、22 年以降にかけて徐々に平常化に向かう。
— 20年の世界経済成長率は前年比▲3.0%、21年は同+4.5%
— 世界の実質GDPがコロナ前の水準を回復するのは21年後半
感染拡大の影響以外にも、注意すべき下振れリスクが3つある。第一に金融市場・不動産市場の調整である。大規模な金融緩和により、株価や不動産価格には一部で過熱感がみられる。過剰流動性がもたらした資産価格の歪みには注意が必要だ。第二に債務拡大による中長期的な成長停滞である。コロナ危機下で流動性リスクを抑え込んだ代償として債務は大幅に拡大した。今後、債務返済負担が重しとなり投資が停滞すれば、中長期的な成長力を損なう可能性がある。第三に米中の選択的デカップリングの強まりである。米新政権でも対中圧力の中身は変化しつつも強硬姿勢は変わらないとみられ、貿易や投資の米中デカップリングが進めば世界経済の下振れ要因となる。