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内外経済見通し

ポストコロナの世界・日本経済の展望|2023年5月

成長・インフレ抑制・金融システム安定のバランスを模索

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2023.5.18

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、5月半ばまでの世界経済・政治の状況、および日本の2023年1-3月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

世界経済は緩やかに減速している。中国経済はゼロコロナ政策解除により持ち直しているものの、米欧経済が物価高や金融引き締めの影響から減速している。

先行きの世界経済は、23年は米欧経済を中心に低めの成長が続くことから、過去の平均的な成長率(3%程度)を下回る成長にとどまるが、中国経済の成長回復などから2%台前半の成長は維持する見込み。24年は、世界的にインフレが落ち着き米欧中銀も利下げに転じるほか、脱炭素などに向けた政策支援のもとで投資が拡大することもあり、世界経済は3%近い成長率を回復するとみる。世界の実質GDPは、23年は前年比+2.3%(1-3月期の上振れを反映し、前回2月時点から+0.2%ポイント上方修正)、24年は同+2.8%(前回から変更なし)と予測する。今後の世界経済の注目点は次の3つだ。

①米欧のインフレ抑制と成長の両立

米欧の物価上昇圧力は根強いことから、24年にかけて景気に対して引き締め的な金融政策運営が予想される。利上げ自体は米欧とも最終局面にあるが、23年中は最終到達点を維持し、利下げに転じるのは米国が24年初、ユーロ圏が24年央以降となろう。既往の利上げや銀行経営不安などによる引き締め的な金融環境が、米欧経済の需要抑制要因となるものの、雇用・所得環境は底堅いことから、米欧経済ともに23年の景気後退は回避し、24年には1%台半ばの成長を回復する見込みだ。

②中国経済の回復

米欧経済が減速するなかで23年の世界経済の下支え要因となるのが中国経済だ。ゼロコロナ政策の解除によるペントアップ需要(コロナ危機下で積み上がった貯蓄が消費に回ること)の顕在化が見込まれる。アジア諸国を中心に一定の景気下支え効果が期待できる。ただし、24年以降の中国経済については、中央政府主導の政策運営で持続的な成長を実現できるかは不透明であり、世界経済の回復を下支えするかどうかは慎重にみておく必要がある。

③政策支援のもとでの投資拡大

脱炭素化やデジタル化、経済安全保障上のレジリエンス強化の観点から、政府支援で民間投資を後押しする動きが強まっている。各国・地域のGDPに占める投資支援策の政府予算・基金は、米国で2.3%、EUで8.2%に上る。今後、これらの政策が追い風となって設備投資の伸びが高まり、経済を押し上げるだろう。
24年にかけて、発生すれば世界経済の成長率を大きく押し下げかねないリスクは2つある。第一に、インフレ抑制の難航による金融引き締めの長期化である。物価高で景気が低迷するなか、一段の金融引き締めは、金融市場の動揺や需要の過度な冷え込みにつながり、米欧同時のスタグフレーション(高インフレ下での景気後退)を引き起こしかねない。第二に、米欧発の金融システム不安である。景気減速と高金利という金融セクターにストレスの大きい環境下、銀行破綻への警戒感が強い状況が続けば、銀行株安や預金流出をきっかけに今後も銀行破綻が継続する可能性がある。その場合、金融システム不安に発展し、企業の連鎖倒産など、経済活動が大きく落ち込むことになりかねない。

日本経済

日本経済は、経済活動の正常化を背景に内需を中心に緩やかに持ち直している。23年度以降、内需主導で1%台の成長を維持するとみる。個人消費は、物価高による下押しはあるものの、賃金上昇を追い風に回復が続くとみる。設備投資は、デジタル化・脱炭素化など、中長期視点の投資が着実に進むだろう。輸出は、中国経済の持ち直し、インバウンド消費の回復などを背景に底堅い推移を見込む。消費者物価は、賃金上昇のサービス価格への波及から23年度・24年度とも平均2%を上回る伸びが見込まれる。日本銀行は、23年末までに長期金利誘導目標の撤廃など、イールドカーブ・コントロールの見直しを進めるだろう。実質GDPは、23年度は前年比+1.5%、24年度は同+1.2%と予測する(23年度・24年度とも前回3月時点から変更なし)。

米国経済

米国経済は、金融引き締めの逆風下でも良好な雇用環境を背景に堅調さを維持している。23年は既往の金融引き締めの影響から成長は減速するが景気後退は回避、24年にはインフレの落ち着きや利下げを背景に成長率は徐々に持ち直すとみる。FRB(米連邦準備制度理事会)は、インフレ圧力の緩和を受けて23年5月で利上げを停止し、サービス物価の落ち着きが確認できる24年入り後に利下げに転じるだろう。実質GDPは、23年は前年比+1.3%と、暖冬による1-3月期の上振れなどを映じて前回2月時点から上方修正する。24年は同+1.5%と前回から変更なしと予測する。

欧州経済

ユーロ圏経済は、ゼロ%近傍の成長が続いたが大幅なマイナス成長は回避した。23年は、既往の金融引き締めが経済活動を抑制するが、エネルギー制約の緩和と堅調な雇用所得環境などから景気後退は回避すると見込む。24年は、インフレ圧力の緩和や実質賃金上昇から、緩やかな回復を見込む。脱炭素関連投資の加速は短中期的にユーロ圏の投資を下支えするだろう。ECB(欧州中央銀行)の金融政策は、基調的な物価上昇圧力の高止まりから年央にかけ利上げを継続、利下げに転じるのは24年央以降を見込む。実質GDPは、23年は前年比+0.5%(実績の上振れなどから前回2月時点から上方修正)、24年は同+1.3%(金融引き締めの長期化を見込んで前回から下方修正)と予測する。

中国経済

中国経済は、ゼロコロナ政策解除によるペントアップ需要の顕在化で成長の勢いが回復している。先行きは、金融・経済リスク抑制重視の政策運営から21年のような急反発(同+8.4%)は想定せず、前年比+5%程度の潜在成長率並み(世界銀行推計)の成長を見込む。実質GDPは、23年は前年比+5.2%、24年は同+4.8%(23年、24年ともに前回2月時点から変更なし)と予測する。ただし、24年以降の中国経済については、中央政府主導の政策運営で持続的な成長を実現できるか不透明感が強い。

ASEAN経済

ASEAN5は、輸出伸び悩みがみられるものの旺盛な内需に支えられ着実に成長している。先行きは、底堅い消費、中国経済回復の恩恵からコロナ危機以前並み(17-19年平均で前年比5%程度)の成長を見込む。ASEAN5経済は総じて成長基調継続を見込むが、ベトナムは中国の代替生産により高成長となった反動や、不動産市場の調整から成長の勢いが弱まる見込み。実質GDPは、23年は前年比+5.2%、24年は同+5.0%(23年、24年ともに前回2月時点から変更なし)と予測する。

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