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内外経済見通し

ポストコロナの世界・日本経済の展望|2023年8月

牽引役不在の世界経済、低めの成長率が継続

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2023.8.16

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、8月半ばまでの世界経済・政治の状況、および日本の2023年4-6月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

世界経済は、過去平均(3%程度)に比べて低めの成長率が継続している。前回5月時点の見通しと比較すると、米国経済は雇用・所得環境が底堅く2%超の成長を維持している一方、中国経済はゼロコロナ政策解除後の回復ペースが想定よりも鈍い。

先行きの世界経済は、3%台半ばの成長となった22年から減速し、23年、24年ともに2.5%の成長を見込む(前回5月時点の予測は、23年が2.3%、24年が2.8%)。米国経済は、既往の金融引き締めがタイムラグを伴って内需の伸びを抑制するとみられることから、24年にかけて成長減速を予測する。欧州経済は24年も低成長が継続するとみる。エネルギー制約や労働需給のミスマッチなどからインフレ圧力が強く、引き締め的な金融政策を継続せざるをえないためである。中国経済は、ゼロコロナ政策解除後の内需回復は鈍く、景気刺激策を加味しても5%前後の成長にとどまるだろう。今後の世界経済の注目点は次の3つ。

①金融引き締めによる米欧経済の減速

米欧のインフレ率は低下傾向にあるが、2%の物価目標達成にはまだ距離がある。FRBはインフレ抑制に向けて当面は5%台の政策金利を維持し、24年半ば以降に利下げに転じると見込む。底堅い雇用・所得環境が下支え要因となることから景気後退は回避しつつも、既往の金融引き締めの影響が顕在化し、24年の米国経済の成長は1%程度に減速する見込み。欧州経済は米国以上にインフレ圧力が強く、ECBの利下げは24年後半以降となろう。引き締め的な金融環境の長期化により、欧州経済は24年も1%程度の成長にとどまると予想する。

②中国経済の回復遅れと世界の対中輸出の弱さ

ゼロコロナ政策解除後の雇用・所得環境の回復が鈍く、中国経済は景気刺激策を加味しても5%程度の成長にとどまるだろう。不良債権問題を抱えるなかで大規模な経済対策の発動は想定しがたい。また、中国の国内生産比率の上昇、米中対立による対中輸出規制などを背景に、世界主要国の中国向け輸出の伸びは、中国経済の成長率と比較して限定的にとどまる可能性がある。

③政策支援による主要先進国での投資拡大

世界経済の成長下支えとなるのが投資である。脱炭素化や経済安全保障上のレジリエンス強化の観点から、政府支援で民間投資を後押しする動きが主要先進国を中心に強まっている。ただし、政策支援の下での投資によって世界全体の供給が過剰になれば、市況悪化による収益減などをもたらし、投資による成長押し上げ効果は弱まるだろう。
24年にかけて、世界経済を展望するうえで注意すべきリスクは3つある。第一に、中国の不良債権問題の悪化である。不動産市場の低迷が長期化すれば、地方政府の債務デフォルトリスクの上昇と相まって、金融システム不安をまねく恐れがある。第二に、高インフレ再燃による更なる金融引き締めの長期化である。気候変動や地政学リスク上昇に伴うエネルギー需給の逼迫などによって高インフレが再燃すれば、米欧中銀は一段の金融引き締めを余儀なくされ、米欧同時のスタグフレーション(高インフレ下での景気後退)を引き起こしかねない。第三に、各国選挙に伴う不確実性の高まりである。24年には台湾、インド、米国など世界主要国・地域で選挙が相次ぐことから、結果次第では政策や経済の不確実性が高まる可能性がある。

日本経済

日本経済は、2四半期連続の高成長となり実質GDPはコロナ危機前のピーク(19年7-9月期)を回復した。24年度にかけて内需主導での成長を維持するとみる。個人消費は、物価高による下押しはあるものの、賃金上昇を追い風に回復するとみる。設備投資は、デジタル化・脱炭素化など、中長期視点の投資が着実に進むだろう。輸出は、米欧経済の減速が懸念材料となるが、インバウンド消費の回復で底堅く推移するとみる。消費者物価は、賃金上昇のサービス価格への波及などを背景に、23年度・24年度とも平均2%以上の伸びが見込まれる。日本銀行は、24年度半ばには物価上昇の持続に対する確信を強め、イールドカーブ・コントロールの撤廃など金融政策の正常化に着手するだろう。実質GDPは、23年度前年比+2.2%と、23年4-6月期実績を踏まえ、前回6月時点(同+1.5%)から上方修正、24年度は同+1.0%(前回同+1.2%)と、米欧経済の下振れを想定して下方修正する。

米国経済

米国経済は、金融引き締めのなかでも良好な雇用環境を背景に堅調さを維持している。23年後半から24年前半にかけては、実質金利の上昇など引き締め的な金融環境が内需の抑制要因となることから、成長減速を見込む。それでも、①堅調な雇用・所得環境、②政府の産業政策による設備投資支援が下支え要因となり、景気後退は回避するとみる。国内起因のインフレ圧力は徐々に緩和していることから、FRB(連邦準備制度理事会)は、当面は5%台の政策金利を維持し、24年半ば以降に利下げに転じることが見込まれる。実質GDPは、23年は前年比+1.8%と、23年前半実績の上振れを踏まえ、前回5月時点(同+1.3%)から上方修正する。24年は実質金利上昇による内需減速や財政責任法による歳出抑制などから同+1.0%と前回(同+1.5%)から下方修正する。

欧州経済

ユーロ圏経済は、物価高と利上げで内需の伸びが弱く、ゼロ%近傍の成長が続いている。23年後半から24年前半にかけては、インフレ圧力が残存することから金融引き締めの長期化が予想されるほか、エネルギー制約も景気回復の重しとなる。景気の緩やかな持ち直しが見込まれるのは24年後半以降となろう。この間、投資は脱炭素とデリスキングの推進を背景に、ユーロ圏経済の一定の下支え要因となる見込みである。ECB(欧州中央銀行)の金融政策は、23年内1回の利上げ後に据え置き、利下げは24年後半を見込む。実質GDPは、23年は前年比+0.5%と前回5月時点から変更なし、引き締め的な金融環境の長期化などを背景に24年は同+1.1%(前回同+1.3%)へ下方修正する。

中国経済

中国経済は、ゼロコロナ政策解除後の景気回復が緩慢なペースにとどまっている。背景には、労働集約型産業の雇用吸収力低下による緩慢な雇用回復や住宅市場の低迷長期化がある。これらが23年後半から24年にかけての景気回復ペースを鈍らせる要因となることを踏まえ、政府は消費下支えや不動産支援などの景気刺激策を表明している。EVや半導体などの競争力確保のための投資も景気の下支え要因となろう。実質GDPは、23年は前年比+5.1%と前回5月時点(同+5.2%)から下方修正し、24年は同+4.8%で変更なしと予測する。

ASEAN・インド経済

ASEAN5経済は、堅調な内需に支えられ着実に成長している。先行きは、EVエコシステム構築といった域内生産強化の取り組みも手伝い、総じてコロナ危機前並み(17-19年平均で前年比5%程度)の成長継続を見込む。ただし、ベトナムは中国の代替生産により22年が高成長となった反動や、不動産市場の調整から成長の勢いが弱まる見込みである。実質GDPは、ベトナム経済の成長鈍化から、23年は前年比+5.0%(前回5月時点は+5.2%)へ下方修正し、24年は同+5.0%で変更なしと予測する。

インド経済は、固定資本形成や民間消費に支えられ堅調に成長している。先行きは、金融市場の安定とインフレの抑制、多国間主義の経済的メリット活用に支えられ、内需を牽引役に6%台前半の成長を見込む。

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