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政策提言防災・リスクマネジメント

関東大震災から100年、全体で助け合う「レジリエントな社会」の実現へ

個人の自発的防災行動で公助負担を削減、必要とする人にリソースを集中

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2023.4.19

株式会社三菱総合研究所

防災・リスクマネジメント
株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二)は、首都直下地震や南海トラフ地震など、近い将来における大規模災害の発生を見据え、“個人”の観点に着目し、災害に強い社会を創るうえでは、多様な個人それぞれのライフスタイルに応じた無理のない防災行動の実現が有効であることを明らかにしました。個人の自発的な行動を起点とした全体で助け合う「レジリエントな社会」を提唱し、その実現に向けて必要となるポイントを提言します。

大規模災害を見据えた「レジリエントな社会」とは——首都直下地震を例に

2023年9月1日は、1923年(大正12年)の同日に発生した関東大震災から100年の節目となる。来たるべき首都直下地震では、100年前の関東大震災と比べて助かる人が大幅に増える一方、多くのモノが破損し、少子高齢化の進展も相まって、発災後の市民生活・福祉・経済の各活動が停滞すると想定されている。しかし、膨大な数の被災者が同時に発生する大災害時では、復旧期間中の生活や福祉の質の維持、またそれらを支える地域経済の維持に充てられる公助リソースの質・量双方に限界が生じることは明らかである。

したがって、首都直下地震に向けては、個人による自発的な防災行動を誘引し、それにより生まれた公助リソースの余裕を、真に必要としているところに集中させることが望ましい。本提言でいう「レジリエントな社会」とは、そのように「自発的な行動を起点として全体で助け合う社会」を指す。
これまでの防災と、これからの「レジリエントな社会」に向けた防災行動
出所:三菱総合研究所

住民の7%の自発的防災行動で公助負担290億円削減——カギを握る「ライト層」

当社は、東京都の公表資料を基に独自推計を行い、来たる首都直下地震において、全体の7%にあたる住民の自発的な個別避難行動(例:食料備蓄の徹底+在宅避難など、公的避難所に頼らない避難行動)を促すだけでも、避難所混雑のピーク時(発災後4~7日)において1日あたり約17億円相当、発災後1ヵ月間では約290億円相当の公助負担軽減がもたらされ得ると試算した。一方で、災害後の生活を見据えた行動(以下「事前防災行動」)に関心をもちつつ、まだ行動を起こしていない人たち(以下「ライト層」)は、首都圏住民の50~60%に上ることが明らかになった。この「ライト層」の事前防災行動の促進が、「レジリエントな社会」実現に向けたカギとなる。

「パーソナル・レジリエンス・プロファイル」を用いて「ライト層」の行動特性を明らかにする

個人の事前防災行動を後押しするためには、個人の日常生活と事前防災行動とを、ストレスなく接合するサービスの開発が重要である。当社では、このサービス開発に資するよう、協力を得た首都圏住民7,000人を対象に、基本属性29項目、困難に立ち向かう能力に関する74項目、日常的な関心・行動に関する71項目からなる生活者データ「パーソナル・レジリエンス・プロファイル」(以下「PRP」)を作成した。

PRPにより「ライト層」を分析した結果、特徴的な6つのセグメントA~Fを見い出した(詳細はレポート3章を参照)。例えば、「ライト層」の20%を占めるセグメントAの人たちは、仕事中心の生活を送る一方、テレワークやシェアリングサービスを使いこなし、新常態生活に適応している傾向がある。このセグメントに対しては、首都圏外の空き物件のシェアリングサービスを展開することが考えられる。セグメントAの人たちは、平時からこのサービスを使いこなすとともに、災害時には同サービスを使って生活拠点を被災地の外に移せる。またセグメントBは、普段から多様なライフスタイルや趣味、友達付き合いを楽しんでおり、生活に対するポジティブさ、寛容さ、好奇心の強さが認められる。このセグメントの人たちを「レジリエントな社会」コンセプトのアーリーアダプターと想定し、新サービス開発の際の優先的なアプローチ先とする戦略も考えられる。

「パーソナル・レジリエンス・プロファイル」は行政・企業・個人それぞれにメリットをもたらす

PRPを用いて個人の日常を解像度高く分析すれば、事前防災行動につながる新しいサービスや、そのアーリーアダプター候補を検討できる。PRPは、行政にとっては防災領域に多様な企業や専門家を巻き込むうえでのエビデンスとなり、企業にとっては多様なビジネス機会を確認するツールとなる。行政・企業によるPRPの活用が進めば、個人は多様なオプションの中から自分好みのサービスを選択し、無理なく事前防災行動を起こし、災害時に「我慢しない被災生活」を送れるようになる。

「パーソナル・レジリエンス・プロファイル」活用には、共創・俯瞰・利他的貢献の可視化がポイント

PRPを社会で活用するうえでのポイントは、以下の3点である。

まず、防災などの準公共分野(注:デジタル庁によれば「生活に密接に関連し、行政と民間の協力をもって支えられている公共性の高い分野」)における新サービスを行政・企業・市民・専門家が協働して創り上げる活動の場が必要である。PRPは、そのような「共創の場」におけるコミュニケーション・ツールとして活用できる。

次に、共創活動の内容がある分野に偏ったり、断片的な取り組みにとどまったりすることを避けるため、“虫の目”としてのPRP分析とは別に、“鳥の目”としての中立的・俯瞰的な分析が必要である。具体的には、目標とする公助負担の軽減規模の設定、その軽減を生み出すのに十分なサービスの内容・規模の設定、それを実現するために十分な質・量の協力依頼先のリストアップなどが挙げられる。

最後に、自発的に行動をとった個人やそれを後押しするサービスを開発した企業に対して、それがどれだけの公助負担軽減に寄与したかを定量的に示し、個別にフィードバックする仕組みがあるとよい。利他的貢献を積極的に認めたたえる社会の機運は、個人の自発的行動のモチベーションを高め、企業の社会的価値を向上させ、ひいては「レジリエントな社会」の実現を導くものとなる。

非防災セクターを含む総力戦で「レジリエントな社会」の実現を

関東大震災から100年の間、わが国は土木技術や防災技術の発展を通じて物理的脆弱性を解消してきた。その半面、土木技術・防災技術では対処できない社会の変化——例えば平時の合理性のみを追求する都市の構造、組織の構造、個人の生活などにおける諸々の変化——によって生み出される社会的脆弱性に対して、有効な手立てを打ち出せずにきた。この状況を緩和する手立ての一つは、災害時にも困らない社会/個人の日常のあり方を問い直し、その実現に向けた行動を、非防災セクターも含む行政・企業・個人の連携の元で誘引していくことである。そのための総力戦を、できるところから着実に進めていく必要がある。

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