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【提言】食料安全保障の長期ビジョン

2050年の主食をどう確保するか

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2023.7.19

株式会社三菱総合研究所

エネルギー・サステナビリティ・食農
株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二)は、2050年までに食料安全保障を担保することを目指し、主食穀物(米・小麦)の国内生産、国内需要のギャップを推計しました。その結果を踏まえ、国内生産力の確保に向けて必要となる対策の方向性を提言します。

中長期的な食料安全保障の確立に向けた課題

ロシア-ウクライナ紛争を契機とする小麦価格高騰から、食料安全保障への関心が高まっている。特に、食料自給率向上を訴える声も多い。しかしながら、食料安全保障上の本当の課題は、足元の短期的な問題にはない。本当の問題はもう少し先にある。2040年や2050年を見据えたときに、食料自給率は拡大どころか、維持すら難しくなる。

食料安全保障の観点において品目的に最重要視されるべき、主食穀物(米・小麦)について、国内需要と生産の将来シミュレーションを行ったところ、そのギャップが2040年に最大化し、現状の約500万トンが、700万トンまで拡大する結果となった。このギャップ分は原則、輸入に頼るしかない。輸入量が現状対比、1.4倍に拡大することになり、食料安全保障上のリスクが拡大することになる。
図 2050年までの主食穀物需要・国内生産・ギャップの成り行き推計(単位:万トン)
2050年までの主食穀物需要・国内生産・ギャップの成り行き推計(単位:万トン)
出所:各種統計から三菱総合研究所作成

中長期的な食料安全保障の確立に向けた提言

維持すべき耕作面積目標を国全体として明示し、国民と共有する

  • MRI案:2020年時点で170万haの主食穀物の耕作面積を2040年に113万haは死守。できれば154万haを維持

大規模農家に合わせて、中規模農家の維持拡大に向けた官民協働の取り組みの推進

  • 米や小麦農家で15~30haの中規模農家が経営を維持できるような制度や民間の取り組みも推進

米需要開拓の推進と耕作されない農地対策の明確化

  • 米の新規需要開拓のさらなる推進の必要性/一方で、耕作されない農地規模の明確化とその維持管理の方向性の具体化

食料安全保障にかかるコストの明確化・共有と財政支出構造の再設計

  • 2040年に向けて国内生産が危機的になる状況を受け、単なる農家保護の観点ではなく、農地維持と自律的な農業経営体の育成の視点での財政支出構造転換が必要

2040年の主食穀物の輸入量を現状並みに抑えるためには、成り行き見通しに対してプラス36万haの113万haの農地を維持する必要がある。食料安全保障の観点からは、さらに2割程度の国内生産確保を目指して、154万haが維持されることが望ましい。

この耕作面積を維持するためには、これまでどおり、農業経営体を大規模化し50haや100haという規模を経営する大規模農家を拡大することにあわせて、15~30ha程度の中規模農家の経営が維持できるように経営者の育成に政府・自治体や農業協同組合(JA)等が連携して取り組む必要がある。

農地が維持できる状況ができたとき(あるいはその状況をつくるためにも)、小麦や大豆への転作の推進にあわせて米の需要を開拓する必要がある。あわせて、全国で数十万ha規模で発生する耕作されない農地に対する対応策を明確化していくことも重要である。

最後に、国民の食を国内生産で賄うことには、相応のコストがかかっているということ、さらにそのコストが現状どの程度なのか、ということを明示し、その必要性について、国民の理解を醸成することが非常に重要である。それなしにやみくもに食料自給率向上をめざすことは、いたずらに国民負担を増加させることにつながりかねない。

そのうえで、これまでの農家保護・農業保護の視点ではなく、食料安全保障の視点で、より適切なコストのかけ方を再設計することが求められる。できる限り、米や小麦農家が経営体として自立できるような取り組みに用いられるべきである。

以上を踏まえた食料安全保障上の優先順位やリスク、対応の方向性を整理した全体像とロードマップの明示と共有が重要である。その際には、本研究のスコープとなっていない主食穀物以外も含めた整理が必要である。2024年改正予定の食料・農業・農村基本法をうけた翌年の基本計画策定では、上記を明確にした上での国民的議論と理解醸成が不可欠である。

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