マンスリーレビュー

2017年5月号トピックス6経済・社会・技術海外戦略・事業

中国の技術競争力の向上に日本はどう備えるべきか

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2017.5.1

政策・経済研究センター坂本 貴志

経済・社会・技術

POINT

  • 中国の製造業は技術力を高めており、組立主体を脱する日は遠くない。
  • 輸入に頼る先端部品の内製化が進めば、日本企業のシェアを脅かす恐れ。
  • 日本はほかではまねできない先端部材・部品に集中して中国とすみ分けを。
中国は「世界の工場」として、原料・部品を輸入し加工・組み立てた製品を輸出することで成長してきた。しかし、ほかの新興諸国も安い人件費や外資導入、技術移転による生産を拡大させて、世界およびアジアでの生産分業体制が変化する中、中国製造業には変化の兆しがみられる。

現状を「中国スマホ」で見ると、安い割に高性能な点を武器に完成品の販売が急増している。華為技術(ファーウェイ)や広東欧珀移動通信(オッポ)、維沃移動通信(ビボ)といった中国勢は輸出攻勢を通じて海外でも存在感を高めている。一方、高い技術力が必要な中枢部品、例えば光を電子信号に変換するイメージセンサーなどは日米韓からの輸入に依存している。サービスを除く貿易収支で見ると、2015年は中国全体で約6,000億ドルもの黒字だが、技術力を要する集積回路に限定すると約1,600億ドルの赤字となっている。

そして「先端部品は先進国に頼り、加工組立は中国で」という現在の構図を変えるべく、2015年に中国政府は、製造業の強化と赤字削減に向けた「中国製造2025」政策を公表した。完成品メーカーに部品の内製化を促すほか、国有銀行による巨額融資などを通じて、高度な技術を要する部品メーカーの育成を加速するもくろみだ。

確かに、中国が着実に産業を高度化している点は見逃されている感がある。部品を含む製品の輸出シェア推移を見ると、中国の飛躍ぶりは鮮明である(図)。製品付加価値の高低にかかわらず、中国は輸出シェアを伸ばし、高付加価値製品(含む部品)では日本と肩を並べている。輸出シェアだけからでは技術水準を評価できないが、競争力を高めていると想定できる。

日本は中国の実態を客観的に受け止め、競争する分野を重点的にてこ入れし、世界のサプライチェーンでの存在感を保ち続けることが得策である。例えば、環境技術の豊富な蓄積を省電力機能の拡充に生かすなどして先端部材・部品で先行し続ければ、中国とのすみ分けも可能となろう。
[図]付加価値別の各国輸出シェア